1話・ロゼッタ、現状を把握する1
むぅ……
私は再び意識を取り戻す。
起きた先はベッドの上だった。
ただのベッドじゃない。とっても豪華な一人ベッドだ。天蓋付きだ、まるで貴族令嬢のようである。
おっと言っとくべき言葉があった。知らない天井だ。
御免、ここ知ってる。ロゼッタの部屋だ。私の部屋でした。知ってる天井だ。
部屋を見回せば女の子っぽくはあるが質素というか簡素というか、部屋が広いせいでどことなく空虚な感じがする。
私としてはもう少し狭っくるしいほうが過ごしやすいのだが。でも狭いと足の踏み場が無くなって最終的にベッドが埋もれて寝るスペースすら無くなるんだよね? なんでだろ? 神は私に寝るなというのだろうか? 自業自得? 私の辞書にそんな言葉はあっりませーん。
包帯でも巻かれてるかと思ったが、額に手をやってみると傷自体が無くなっているようで、痛みすらなかった。
まさかあれは全部夢だった? でも記憶あるんだよ? ん……あれ? 私ってこんな思考の仕方してたっけ?
ああ、寛子としての私はもっと論理的というか頭硬い感じだったんだけど、ロゼッタの思考回路も合わさったせいで幼児退行起こしてるのかも?
部屋に全身用の鏡が壁に立てかけられていたので近寄って自分を確かめる。
まだ頭が少しふらふらするけど、何となく自分に起こったことは理解した。
鏡に映ったのは可愛らしい女の子だった。金色の髪を腰元まで伸ばした、ドレスと思われるピンクの衣装を着た女の子。その場で思わずポージング。
うっふん、あっはん。これは似合わない。サイドチェストにモストマスキュラー。これも似合わない。ジョジョ立ちはどうだろう。これは不敵で素敵な美少女だ。ドドドドドドド。ふ、勝った。何にか知らないけど勝った。
どこか外国の女の子といった顔である。ちょっと彫が深いような、でも美人になりそうな綺麗な顔。
あ、でも目がダメだ。なんかこう、つり眼気味である。睨んだら怖い。ジョジョ立ちと相まってなんか新手のスタ○ド使いに見えちゃうよ? 殺そうと思った時にはもう死んでいるんだぜ、なんだぜ。
私は両手で目元をひっぱって目じりを下げようと努力してみる。
うん、無駄な努力だ。直ぐ元通り。つり眼が強固だ。ツンデレだ。でもデレは無い。ツンしかない。
睨んだら三白眼みたいな凄味があるね。これは怖い。見ただけで恐怖だよ、えんじぇるーな伝説作っちゃうよ。心根は優しい優しい40代のおばさまだよ?
ちょっと上向きに相手を見下すようにしてみれば威圧感が凄いかも……うわ、えぐっ!?
ちょっと上を向いて笑みを浮かべてみたら微笑みじゃなくて黒い冷笑になってしまった。
これはダメだ。見た人のSAN値をごっそり奪ってしまう。まさにデビルスマイルだ。レベルを下げかねん。
うーん。どうにも目元は治りそうにないな。終始相手を睨んでいるように見えてしまうのはマイナスだぞ?
私は悪い悪役令嬢じゃないよ? とプラカードでも掲げとこうか。恥ずかしいからやめとこう。
けれど……転生だ。記憶を引き継いで……いや、思いだしての転生である。
若者の思考に合わせようと読み込んだ漫画に小説、徹夜してやり込んだゲームの知識が役に立つ時が来たかも知んない。
問題はここがただの地球の中世とかの場合、私の人生はどっかのお偉いさんに嫁ぐだけの人生だろう。男尊女卑の世界だし。
でも、有能に振る舞えばかなり良い地位を手に入れられるかも、というか、そうだわ、さっきのイケメンショタ、じゃない。今だと同じくらいの年だから合法ショタに嫁いでしまおう。逆光源氏計画。私好みの最高の男性にちょうきょ……げふんげふん。人生間違えないように導いて行きましょう。そして娶って貰おう。
多少オラオラ系でもあの甘いマスクなら……ふふ、うふふ。
「お嬢様、失礼しま……ひぃっ!?」
部屋に入って来た女性が、私が鏡の前に居るのに気付いてこちらを見た瞬間、なぜか尻餅搗いて悲鳴を上げた。
なんで? と鏡を見れば、デビルスマイルしている自分が居る訳で……あっかん。これSAN値削っちゃう冷笑だわ。
やばいやばい。笑顔消去。はい、普通の顔っ。私は悪い悪役令嬢じゃないよ? イジメないでね、ぷるぷる。
えーっとこの人は確か、私付きのメイドね。名前は……いかん、覚えてない。
私の記憶がなかったロゼッタは、結構、我儘娘だったようで、人の言うことは聞かない、やりたいことは無理難題でもメイド達に押しつける。んであのショタッ子の事が好きで引っ張り回す。
今回の事故もショタッ子が止めようって言ってたのに二人で屋敷を抜けだして勢い余ってこけた場所に石があって額をぐしゃっ。
そして生死の境を彷徨って過去の自分が目覚めたようだ。
石に蹴躓いて額割って死にかけてるんだよ。どこのギャグ漫画なのかな? 死んだ後は雲の上で正座してお茶でも飲んでるのかな?