表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
199/1857

197話・フライジャル、定期報告

「ふぅ……」


 自分用の個室に戻った僕はベッドに腰かけ大きく息を吐いた。

 正直、ここまで大盛況な仕事場だとは思わなかった。

 表の仕事はかなり大変だ。これ、慣れることはあるのだろうか?

 毎日大変で焦ってばっかりいそうである。


 一度落ち付いてから気持ちを切り替える。

 懐に忍ばせていた黒い道具を取り出す。

 これはある組織から自分に譲渡されたモノである。


「こちらジャイルデルタ。主様定期報告を始めます」


『了解、許可する』


 トランシーバーと呼ばれるこの黒い道具は、ボタン一つ押すだけで同じ道具を持つ相手と話が出来る不思議な道具である。

 驚くことに魔法の類は使われていないらしい。


「プライダル商会に潜入成功しました。ここ数日は忙しく、また監視もかなり強かったので連絡を取れず申し訳ありません」


『構いませんよ。向こうの信頼を勝ち取る方が優先事項です』


「申し訳ありません。信頼を勝ち取るのは難しそうです。かなり疑われているのであまり目立つ行動が出来ません。信頼を手に入れる方法など、ありませんか?」


『さすがに無理だな。背後関係は気付かれているかい?』


「いえ。その心配はまだありません」


『了解した。では、本題といこう。暗殺は可能かね?』


「正直に言いますが、無理です。現状の戦力は報告しますが、おそらく主様の全戦力を使ってもお嬢様は殺せないでしょう」


『むぅ、そこまで断言しますか……』


「まず第一に貴族であるため常に護衛が付いています。表の護衛と影の護衛、そして、義理の妹です」


『ふむ。続けてくれたまえ』


「表の護衛は兵士です。たまにお嬢様と一緒にやってきますがあまりこのプライダル商会には顔を出さないようです。それからお嬢様と知り合いの冒険者たち。A級パーティー三つを含む多岐に渡る冒険者たちは、仕掛ける時間帯によっては一気に形勢を変えかねない一大勢力でしょう」


『冒険者か。まぁ事を起こすなら夜だろう。ならば表の戦力は問題あるまい』


「次に影の戦力。常にお嬢様の護衛をしている男が一人。他にも数人、どれも僕では追いきれませんでした。たまに表に出て来るので男と女が一人づついるのは確定しています。女の方は旧華族邸の護衛のようですので、プライダル商会にも一人はいるでしょう。僕では監視されてるかされてないかくらいしか分からないので正確な人数は不明です。一応、今は監視の目はありません」


『そうか、お前でも気配しか分からないとなるとかなりの手練だな。それで、次は?』


「義理の妹、魔族のキーリです。最近A級冒険者が見回りを辞めたことで犯罪者たちが行動を起こそうとしたようなのですが、キーリ一人でこれを全て抑えました。虚空よりタコのような足を複数呼び出していたことから召喚師か何かかと思われます。風呂に入っている際テイム紋がありましたのでお嬢様にテイムされた高位魔族だと思われます」


『なるほど、それは確かに厄介だな』


「それと、まだ未確認ではありますが、お嬢様自身の実力がかなり高いようです。S級冒険者という噂もございます」


『ああ、それはこちらでも調べてあるよ。間違いなくS級冒険者。常に物理攻撃への結界を自身に張っているらしく刃物による奇襲はまず防がれる』


「ならば魔法ですか?」


『さぁてな。今しばらくは埋伏しておいてくれないか?』


「了解しました。せいぜい誠実な従業員を務めますよ」


『うむ、期待している。ああ、それと、こちらでは新人君を見付けてね。今仕事を覚えさせている最中なんだよ。その内君にも紹介しよう』


「ああ、また犠牲者見付けたんですか。尋問耐久とかあまりひどい事しないようにしてくださいよ。アレで廃人になる浮浪児多いんですから」


 アレは、酷かったなぁ。

 当時を思い返しながら僕は軽口を叩く。

 誰かは知らないけど、暗殺ギルドにようこそ新人君。そこは地獄しかないぞ?


「ああ、そうだ。僕もクッキーを焼くようになりましたので、後で主様に送りますね。食べてください。毒は入れませんから」


『おやおや。感化されてないかい君?』


「ふふ、意外とこの仕事楽しいんですよね。やりがいがあるというか、実は僕こういう仕事が好きみたいです。暗殺ギルドに入ってなければ永久就職してもよかったですよ」


『それは素敵な職場だね。君に仕事が来ないことを祈っているよ』


「僕も、お嬢様の暗殺依頼が来ないことを祈っておきます。主様、現状はどうです?」


『芳しくは無いね。ベルングシュタットは第二王子と仲が悪くなっているようだ。暗殺依頼こそないが冷戦状態ではあるね。ベルングシュタット側が何か事を起こせば依頼が来る可能性は十分考えられる』


 そう、かぁ。

 この仕事、結構好きなんだけどなぁ。

 お嬢様は結構行動派だし、おそらく近いうちにあるだろう。

 僕はその時……どっちに転んでも、その時にはもう、この仕事は二度とできなくなってるんだろうな。もっと早くに……出会いたかったよお嬢様――――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] サブタイトルにある「フラジャイル」、188話ではフライジャルくんでしたー
[一言] コイツみたいな怪しんでるやつを調べないとか貴族としても商人としても論外じゃね?
2022/01/06 19:45 退会済み
管理
[一言] ロゼッタ嬢は見ている。(かもしれない。)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ