194話・ロゼッタ、スカウトしちゃうんだよ
「お嬢、さすがに一目惚れにアレはないだろ」
「何をおっしゃる影おっちゃん。あの御方しかいないんだよ。あ、でも恋愛とかじゃないんだよ」
「あ? 恋愛じゃねーの? じゃあなんだよ?」
「いや、あの体型見たらもう、あの曲歌ってくれる人にしか見えないんだよ。私の脳内イメージがビビビっと来たんだよ。これはぜひともスカウトしなきゃ!」
「あー。そっすか」
なんでそっけなくなるの!?
こんなおっちゃんらしいおっちゃんは滅多にいないんだ!?
これはもう、音楽関連であれしかないでしょう。
ということは、それに関連してあれも作るしかないだろう。
食料関連に成るし、いろいろ用意しなきゃだけどこれはもうやるっきゃないんだよ。
ここまでお膳立てされたらもう、日本人音楽売れ行きナンバーワンなあの曲をこの世界に蘇らせるしかないんだよ。
おっちゃん、協力してね?
協力したくなくてもさせちゃうつもりなんだよ?
「っつかお嬢、依頼の方はどうすんだ?」
「あ。そうだった。忘れてた」
「おいおい……」
呆れた口調のおっちゃん。
すまぬ、譲れぬ戦いがあったんだよ。
よし、おっちゃんがお酒飲み終わる前にさっさと終わらせちゃうんだよ。
「お嬢ちゃん、さすがに酒場に来る年じゃないんじゃないかね?」
ようやくバーテンの元へと近づくと、声をかけるべきか迷っていたバーテンダーが私に告げて来た。
ギルドカードを見せてさっさと黙らせる。
「依頼で来ましたのよ。別にお酒を飲みに来た訳ではありませんわ」
「ああ、そういうことか。では、こちらに掛けてくれ。ミルクを用意しよう」
あ、ミルクはあるんだ。
ってことは牛乳絞ってる場所あるのか?
「まぁ、ミルクがあるのね。どこで採取してますの?」
「冒険者ギルドから卸されてるよ。魔物の一種から取れるらしい」
へー、今度ペレーラさんにドロップする魔物教えてもらお。
ミノタウロスじゃないんだなぁ。牛系魔物だし、ドロップしないだろうか?
ミノタウロスのドロップ斧とか腰みのとか肉しかないんだよね。
「それで本題なんだがな。この酒場の数人が見たらしい。酒呑みのたわごとと言われればそれまでなんだが、どうにも目撃者が多いのでね。ちょっと気味が悪くなって。せめて無害な存在かどうかだけでも調べてほしいんだ」
詳しく聞いてみれば、ここの何人かが帰り道に見掛けたらしい。
路地裏の方でがさごそ音がするので見てみれば、そこに見たことも無いような気味の悪い生物がいたらしい。
どんな生物かは見れば分かるとしか言われず、見た時にはすでに逃げ去っているらしい。
んー、捕獲とかは難しそうかな?
そこから周囲で飲んだくれてるおっちゃんたちに尋ねて回る。
んー、殆ど暇人だから普通に話てくれるけど話が滅茶苦茶長いのは勘弁してほしいんだよ。
お、魅惑のおっちゃんの所だ。
「こんにちは、なんだよ」
「やぁ。可愛らしいお嬢さん。話は理解しているよ。あれは数日前のこと……」
陽気なおじさんの話を聞いていく。おじさんの説明分かりやすいな。
親身になってくれてる感じがする。これもまた好感触である。
「おじ様、もしよければなのですが……」
だから私は遠慮なく話しかける。
スカウトするしかないんだよ。悪役令嬢からは逃げられないんだよ。
果たしておじさんは、多分良く分かってないみたいだけど、お酒飲んで陽気に返答してくれる。
歌って聞いたら、何かよくわかんない歌を陽気に歌いだし、同調するように他の客たちも歌い出す。
いや、良く知ってたなこの良くわかんない歌。
ちゃんとメロディーになってるんだろうけど、酒呑みのおっちゃん達が音程無視するせいで本来の曲がどんなものなのかよくわかんないけど、まぁ楽しそうな曲だってことは理解した。
歌歌うのも好きみたいだし、アレ歌って貰うのはありっぽい。
ふっふっふ。これは早速鍛冶屋に鋳型を作って貰わないと。
さて、おっちゃんも落ち着いたら店に来てくれるって言ってくれたし、その時を楽しみにしながら私は皆さんが目撃したという謎の生物を確認しに行くことにした。
本音を言えばおっちゃんを誘えた時点で大満足なんだけど、まぁついでだよね。ついで。
「嬢ちゃん、アレじゃないか?」
「みたいだねー」
それは、路地裏に散乱していたゴミを漁る犬だった。
いや、犬の姿をして顔はどこかのおっちゃんといった姿の不気味な生物。
いや、人面犬かーいっ!?
「なんだよ、見てんじゃねーよ」
しゃ、シャベッタァァァ!?
「うん、まぁ、だろうねぇ。あ、人面犬さん、ちょっと聞きたいんだけど」
「いや、驚かねぇのかよ!?」
日本でも目撃証言あったけど、まぁ別世界なら普通に魔物として存在しててもおかしくはないよね。だから驚きは殆ど無いんだよ。
ということで、彼に話を聞いておくことにした私であった。こんな楽な仕事だったら私が来るまでもなかったんじゃ? なんてことは言うまい。戦利品があったから大満足なんだよ。