193話・ロゼッタ、見付けてしまったらやるしかないんだよ?
ララーレに注意をして数日。
商売もそろそろ安定して来たようだ。
一見さんたちが居なくなったから少し楽。
あ、いや、一部逃げちゃった人も居るんだよね。
キーリが見回りを始めてから目に見えてガラの悪いのが並びだしたんだけど、そこはまぁキーリだし、御退場願ったりしたわけだ。
その時にタコ足召喚したりなんか凄い状況になったらしく、普通に並んでた人にまでSAN値チェックが入ってしまい、正気を失った人が来なくなってしまったのだ。
客寄せじゃなくキーリは閑古鳥の末裔だったようだ。
とはいえ、キーリとしても問題はやり過ぎてたことであって、撃退そのものはウチの方針なので問題は……ない、ないったらない。
キーリがやり過ぎるってなら、むしろそうすることで抑止力になるからいいんだよ。
さて、本日は多少余裕が出来たので挨拶周りをしようかと思っている。
どういうことかと言えば、ギルド長がたまには顔出せって言ってたからね。
冒険者ギルドに顔を出してみようと思うんだよ。
折角だし何か簡単そうな依頼受けようかなぁ。
そんな事を思いながらギルドの扉を潜る。
おー、いつも通り、なんか懐かしく思えるな。結構な期間訪れてなかったんだっけ。
確か前回訪れたのが去年の冬だったでしょ。だから、三ヶ月は来てないのかな?
あ。ペレーラさんが気付いた。
おっはー。
ありゃ、近づいて来たぞ?
「来たのね」
「ええ。店に余裕ができたので足を運んでみたわ。何か仕事あるか適当に見て帰るだけだけど、いいかしら?」
「ええ。構わないわ。正直、バッグの中身だけでお腹一杯状態だからこれ以上何か持ってこられてもまた後日って言わせてもらうわよ。消化し切るまでしばらく掛かりそう」
「あらー」
正気度を回復させるのに数日かかるってことだね。私そんな削った覚えないんだけどなぁ。
まぁ普通の冒険者からすれば邪神洞窟90階層以上の素材なんてまず一生見ることの無いモノな訳だし、それが大量に売って良し、となればギルド長の正気度も限界ギリギリを低空飛行ってところか。
まぁ、尊い犠牲なんだよ。
「あと、アレ、どうやって素材剥ぐべきかが問題でね。現状の道具では削ることすら難しいのよ」
「え? あー。そっか。素材を手に入れるにも加工するにも対応する道具がないのかぁ」
「ええ。何とかならないかしら?」
「切るだけなら私が出来るけど……」
アイテムバッグに入れてる間は素材劣化はしないそうなので、現状は解体せずに入れたままになってるらしい。
なんとかしたいけど何ともしがたい、か。
あ、そうだ。だったらこれはどうだろう?
「鍛冶屋のおっちゃんに道具の加工頼んでみるのは?」
「道具の加工? でもその加工できる強度の道具を作る道具も必要なんじゃない?」
「ミノタウロスの骨とか削って作れば良いんじゃない? 同じレベルの素材なら普通に切り裂けるでしょ。詳しくは職人さんとの話し合いになるだろうけど」
「んー。まぁそうか。ちょっと尋ねてみるわ」
「あ、それなら私の懇意にしてる鍛冶屋があるから紹介するんだよ」
「そんな鍛冶屋がいるのね。可哀想に」
ちょっと待とう、なぜ可哀想? ちょっとそれはお話が必要な気がするんだよ?
ねぇ、ペレーラさん、どういう……
「あ、今ある依頼でS級絡みと言えば、酒場のマスターが何か依頼だしてたわね。ちょっと持ってくるわ」
あれ? ちょっと、ペレーラさーん?
何か察して逃げおった。
「はい、こんな依頼はどうかしら?」
渡された羊皮紙を見てみれば、どうやら酒場で変な生物を見たというおっちゃんが結構な数いるらしい。危険な生物かもしれないので安全かどうか確認してくれという難易度不明の依頼だそうだ。
本来であれば低ランクパーティーに回される依頼なのだけど、生物次第で難易度が跳ね上がるので、高ランクパーティーが受けてくれるならそっちの方が都合が良いらしい。
「じゃー折角だし受けるんだよ。酒場って何処?」
ペレーラさんから酒場の場所を聞いて、私はパルクールしながら街中を走る。
うん、やっぱ一人だけだとパルクール走行がとっても楽しくて楽なんだよ。
影のおっちゃんがぜぇはぁ言いながら追ってくるけど、おっちゃん、身体強化息してる?
ちゃんとやっとかないと付いて来れないよ? え、限界まで使ってる? そりゃ失礼。
「おじゃましまーす」
件の酒場にやってくる。
子供が一人やって来たので皆が視線を向けて来るけど、私は気にせずカウンターへと向……
ん? な……あの人はッ!!?
その人物を見た瞬間、私は全身に電撃が走ったような衝撃を受けた。
まさに運命の出会いではあるまいか?
ああ、アレは、間違いない。
エールを樽の端材で作ったジョッキでごっきゅごっきゅ飲む赤ら顔のおじさん。
でっぷり肥った太鼓腹、銀髪の禿げあがった頭、妙齢の脂ぎった中年男性の朗らかな顔。
まさに陽気なおじさん。ああ、見付けた。見付けてしまった。
これほどハマった人材、見付けてしまったらもう、もう……
両手を頬に当て、まさに恋する乙女の瞳で、私はおじさんにくぎ付けになったのだった。