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1904/1986

1889話、フェイル、ライオネル防衛線8

SIDE:フェイル


―― 二度と抗うことは許さぬ。しかし、恭順を示し続けるならば道を示そう。繁栄を赦そう。我らを楽しませよ。お前たちの生きる価値など、神の享楽、その盤上の駒としての役割しかないのだからな ――


 絶望的な声が鳴り響く。

 ライオネル王国は既に灰燼に帰した。

 私はただ、呆然と膝から崩れ、四つん這いのまま。

 見上げた大地では強化兵たちが止まっている。


 周囲には何もできず立ち尽くす人々。

 お嬢の敗北と神の勝利宣言。

 もはや、敗北は確定してしまった。

 これ以上は、無理だ。戦うだけ、無駄だ。


 暗雲が立ち込め、空は光を覆い隠した。

 曇天からさらなる黒へ。

 まるで敗北した我々の心情を表すように、雨が降り出した。


 この先、あの神に絶対服従の生活が待っている。

 これ以上、抗う意味は何もない。

 神を相手には誰も勝てないと、お嬢ですら勝てないと分かってしまった。

 もう、私には……


 溢れる涙に視界がにじむ。

 必死に抗った。

 沢山の仲間が集ってくれた。

 魔物すらも戦友となった。

 それでも、勝てなかった。


 お嬢。

 お嬢っ。

 ロゼッタ・ベルングシュタット嬢!


 貴女が居なければ、ライオネルはもう、ダメなのです。

 貴女が負けてしまっては……


 瞳を瞑り、慟哭する。

 周囲からもすすり泣く声が立ち上り、激しくなっていく雨音にかき消されていく。


 眼を瞑り、何も見えなくなった世界で、どうするか考える。

 もう、皆満身創痍だ。戦える者も少ないだろう。

 最悪を考えて頼んだオスカーたちはどうなっただろうか?

 パンダフ、トラヴィス、バリー。お前たちは戦場に辿り着けたか?

 その前に敗北を知り、私のように地に伏しているか?


 ああ、皆を守る為に、私は降伏を選ばねばならんらしい。

 あの神に屈服の意志を示さねばならぬらしい。

 悔しさに嘆けば、思い出すは今までの訓練模様。

 あの必死の訓練は一体何だったのか。

 あの苦労は、あの日々は。何のためのモノだったのか。


 力及ばず。我々は十分戦った、でも、負けるのだ。

 経戦能力がなかったために、これ以上戦えないから……

 だから……


―― 諦めるのか? ――


 ゾクリとした。

 今の声は……

 ああ、いや、誰かが告げた言葉じゃない。

 私の記憶の中の言葉だ。


 その言葉を機に、その言葉を吐いた少女の姿が浮かび上がる。

 何年前のことだっただろうか?

 今でも鮮明に覚えている。


 訓練場に突然やって来た侯爵令嬢。

 ガレフの奴が突っかかって、軽々倒されて。

 ああ、そうだ。あの時から、私たちの中に、あの言葉が刻まれたのだ。


―― いいか。お前はなんだ? 兵士だろう? 兵士とはなんだ? 国を守る存在だ。ならばなぜ国を守る? 侵略する敵国の兵士から、魔物から、盗賊から、国が滅ぼされるのを守るためだ。ではなぜお前が守らねばならない? 別にお前じゃ無くても兵は幾らでも居る ――


 そうだ。兵はいくらでもいるんだ。でも、負けた。


―― ならばお前が兵士になった理由はなんだ? ――


 記憶の中の少女が問いかける。

 私が兵士になった理由。

 最初の理由は、大したことはなかった。妻を安定した収入で生活させるために。


―― お前の後ろに何がある? ――


 ああ、そうだ。突き詰めればそれは……私自身の手で、愛する妻を守る為だ。

 私の背には、常に妻がそこにいる。

 今は二人に増えた妻だし、そこに子供が生まれればさらに増える。


―― お前の後ろには同じ仲間たちがいる。そしてその後ろには守るべき祖国がある。この国だ。今、お前の目の前にいる者は侵略者だ。別に、兵士はお前でなくてもいい。だが、いいのか? お前がここで諦めれば、お前が育ったこの国が、この町が、この仲間たちが。知人が家族が、恋人、子供、あるいは孫も、あらゆる全てが侵略者に奪われる ――


 神は、そう、今の神は、侵略者だ。

 私がここで諦めれば……この国が、この町が、この仲間たちが、知人が、家族が、愛しき妻たちがッ、侵略者に嬲られる。それで、満足か?


―― お前でなくても兵はいる。だが、お前が守りたいモノを守ってくれるのか? それを他人に委ねていいのか? そいつが守ってくれる保証があるか? 自分の大切な者が、家族が、恋人が、侵略者に蹂躙されるのをただ見ていたいのか? それとも、自分が死んだらもうどうでもいいか? ――


 ……嫌だ。

 ただ、負けて蹂躙されるのを良しと等、出来ない。

 自分が死んで、それで満足も、できはしない。

 大切なモノを守れる者は、いつだって、そう、いつだって自分しかいないのだから。


 思い出の中で、少女が叱咤する。


―― 兵など幾らでも居る。だが、お前の守りたいモノを守れるのはお前だけだ。家族を守れ! 恋人を守れ! 知人を守れ! この国に生きる人たちを、営みを、仲間たちを守れるのはお前だけだッ! ならば立て! 相手が子供だろうが小物だろうが死力を尽くせ! お前が立ち上がらねば、背後の大切なものが穢されるだけと知れ!! ――


 そうだ。守れるのは……

 お嬢が負けたから、終わり?

 神の勝利が揺るぎないから、降伏?


 違うだろう!

 守れる者は、戦える者は、ここにしかいないのだ。

 私しか、いないのだ。


 立ち上がれ、武器を取れ、構え雄叫び上げて走り出せ。

 ああ。声が聞こえる。

 毎日何度となく、皆で告げたあの、声が!


「我らは……祖国の、剣であるっ」


 ああ。そうだ。

 謳おう。

 絶望的な今でこそ、我らは立ち上がらねばならぬのだ。

 この、ライオネルの旗がある限り!

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