1886話、バンディッシュ、親竜共和国防衛線8
SIDE:バンディッシュ
―― お前たちの首魁であったロゼッタ・ベルングシュタットは敗北した。これ以上の抵抗は無意味である。我が演説が終わるまでの間に敗北を受け入れよ ――
その宣言は、人類を絶望させうるのにあまりにも絶大な一言だった。
戻って来たルギアス王に歓喜したはずのメテオラ妃、その瞳から光が消える程の衝撃。
せっかく信望した神が負けたというのだから、そりゃあもう、縋った柱がすぐに倒れたくらいの衝撃だろう。
片腕を負傷しながら生還したルギアス王がなんとかなだめているが、刺激が強すぎたのだろうな。
精神的に、戻って来れるかどうか……
しかし、お嬢、マジで負けちまったのかよ?
これかりゃどうすりゃいいんだ?
自分だけでは判断できず、俺は念話で各国の総大将たちと連絡を取ることにした。
―― 敗北を受け入れるならば我が双神への帰依を願い、今後一切の反逆を諦め、神への絶対服従を違うが良い。さすれば今の姿のまま我が世界での生存を赦す ――
神のクソみてぇな嬉しそうな声が響き渡る。
厳かに伝えているつもりなのだろうが、言葉の端々に喜色がにじみ出ている。
よほどお嬢に勝てたことが嬉しいんだろう。
つまり、本当にお嬢が負けたんだと思っていいだろう。
問題なのは、神が認識しただけか。本当にお嬢が死んじまったのか、それだけは問題だろうけどな。
だが、ライオネル兵はともかく、民間人はもう、無理だろうな。勝利は出来ないと分かれば、無駄に死ぬよりは奴隷のような扱いであろうとも、あるいは家畜のような、いつか屠殺される可能性があろうとも、今死ぬよりはと受け入れるだろう。
今後一切神に逆らえないという楔を打ち込まれてでも、生存する日々を求めて。
それが悪いわけじゃねぇ。
でも、俺はまだ、納得できてねぇ。
すでに全身血塗れだし、霊薬も効かなくなっちまってるが、まだ負けたくねぇ、負けてねぇと思っちまうのよ。
それは、お嬢が負けたと知らされた後も変わらなかった。
やっぱさ。お嬢に頼ってないんだわ。俺には守りたいもんがあった。だからお嬢が居ようが居まいが精神的な支柱が変わらんのだわ。
―― ただし、貴様等のレベルは1に戻す。二度とパワーレベリングなんぞというふざけたものを行えんよう今後100年のレベルアップを禁止しよう ――
お嬢の台頭がよほどトラウマらしいな。
くく、神といえども人に振り回されるのは嫌らしい。
神ならばもっと上で大仰に構えておけばいいのに、随分と人間らしい思考回路だ。
しかし、なんか一部の総大将に連絡付かないな。
あぁん、ゴルディアスの馬鹿動かない巨大型を倒してる?
おい、ソレいいじゃん。
「ルギアス王、ここの方針どうすんだ?」
「ん? それは他国とも話し合うことになるはずだが……」
「そうか。なら軍部総大将の意見としては戦闘続行だ、つーわけで、俺らには気にせず議論しといてくれ。オラ、戦闘可能な奴! 抗いたい奴だけでいい、動きが止まってる今の内に出来るだけの超巨大型から核を引き抜いちまえ! 神とかいうのの演説が終わるまでの短い時間だ、急げ!!」
念話にフェイルの声がなかったのが気がかりだな。
お嬢と一番密接な関係気付いてたのはあいつだったしな。
だが、ちょっと考えりゃ気付けるはずだ。
お嬢の願いを、お嬢が俺たちを鍛えた理由を。そいつは、お嬢が死ねば終わり、じゃないだろ?
むしろお嬢は自分が居なくなった後を考えて、俺たちに託したんだ。
お前なら、必ず気付けるはずだ。絶望に曇った眼をさっさと拭え。
「ま、待てバンディッシュとやら」
お、メテオラ妃復活できたか。
「なんですメテオラ妃」
「ロゼッタは……ロゼッタは負けたのだろ? もう、神に抗う術はないのだろ? なぜだ。なぜ。お前たちは死にに行く!?」
「んなもん。決まってんでしょ」
もちろんだが、俺たちに死ぬ気はない。
死ぬ気はないし帰る気満々だ。
この戦い終えて自宅に戻って秘蔵の酒を開けてよ、ロッキングチェアにでも座って軽く一杯。そのまま音楽でも聴きながら眠るんだ。最高の一日になりそうだろ?
「この背によ。守りたいもん背負ってんだ。たかがお嬢が死んだ程度で、肩の荷下ろすならライオネルの兵なんざやってねぇ。俺らが守るのはお嬢じゃねぇ。この背の背後にいる、家族であり、市民であり、国だ。だから、そいつらが一人でも残ってくれてるなら、俺らは命を掛けて守るのさ」
―― 二度と抗うことは許さぬ。しかし、恭順を示し続けるならば道を示そう。繁栄を赦そう。我らを楽しませよ。お前たちの生きる価値など、神の享楽、その盤上の駒としての役割しかないのだからな ――
ひでぇ宣言だな。お前らを都合のいい駒として生存させてやるって。
勝手に攻めてきて勝手全てを壊しておいて、死にたくなければ駒として生きろ。
とんでもねぇ言い分だ。本当に、お嬢の言った通りだ。自分がやらねぇと、大切なモノ全て奪われちまう。
辛いな、本当に。でも……それでも、立ち上がらなきゃ、よ? 誰も守っちゃくれねぇんだから――




