1885話、アマルガム、サイエンスフィア防衛線8
SIDE:アマルガム
―― お前たちの首魁であったロゼッタ・ベルングシュタットは敗北した。これ以上の抵抗は無意味である。我が演説が終わるまでの間に敗北を受け入れよ ――
俺たちはただ、呆然と空を見上げ、その演説を聞いていた。
まさか、お嬢が? そんな絶望的な報告に、ライオネルの兵たちも皆、士気を低下させてしまっていたのだ。
いくら強化兵たちの動きが止まったからといっても、これではもう戦いにはならない。
敗北だ。
どう考えても勝ち目がない。
「ゴルディアス。王族たちと緊急会見を開いて今後の方針を……おい?」
あの馬鹿何やってんだ!?
動かなくなった超巨大強化兵に一人切りかかるゴルディアス。
お前総大将だろ!?
「何してんだゴルディアス!」
「あぁん! 俺は既に決めたんだよ。最後の一人になろうが諦めねぇってな! 今のうちに超巨大の数を減らしとく。そっちは任せたアマルガム!」
はあぁ!?
お前ここにきて総大将の任務放棄かよ!?
「放棄じゃねぇよ。方針決めるくらいなら副総大将でもできんだろうが! 俺はまだ、人類の勝ちを諦めちゃいねぇ、たとえお嬢が負けちまったのが本当だとしても、だ!」
それは……
―― 敗北を受け入れるならば我が双神への帰依を願い、今後一切の反逆を諦め、神への絶対服従を違うが良い。さすれば今の姿のまま我が世界での生存を赦す ――
「どうするつもりだゴルディアス、このままじゃ孤軍奮闘だぞ!」
「それでもかまわん。そもそも。俺らがライオネル兵になったのは負けるためじゃねぇ。背後に存在する守りてぇもん守る為、立ち上がったんだろォが!」
それはそうなんだが。
このままだとサイエンスフィアの面々は降伏すると思うんだ。お前は味方を無くすんだぞ。守りたい相手に石投げられるような状態で、それでも守るのか!
「守るさ。守ってやるとか、守る相手に頼まれたから、そんなんじゃねぇ。俺が守りたいと思うから守る。だから、お前らは俺に気にせず方針を決めてくれ。俺はひたすら敵を狩っとく」
なんだよ、それ……
それって、なんか……
俺の方が恥ずかしいみたいじゃないか。
これ以上、言っても無駄だと理解して、俺はゴルディアスを放置することにした。
無理矢理引きずって王族たちの元へ連れてこなかったのは、きっと俺も、この役目が無けりゃゴルディアスの隣で武器を振るっていたから、だろう。
そうだよな。守るのに、理由は要らない。
俺が、お前が、守りたいから戦う。そうだよな……
―― ただし、貴様等のレベルは1に戻す。二度とパワーレベリングなんぞというふざけたものを行えんよう今後100年のレベルアップを禁止しよう ――
高らかと宣言する神の声が、先ほどまでの絶望感を感じさせなかった。
なぜだろうな。随分と滑稽な話をしているな。程度の感覚を持ってしまうのは。
もう、敗北必死の自分たちなのに。根幹を思い出したからだろうか? 一切悲壮感がない。
「サイエンスフィア王、ど、どうするのだ?」
「我が国は、降りるべきだと思うが」
「市民もこれ以上は耐え切れんだろう。王城も中破状態。これ以上は市民に被害がでるのではないか?」
「いや、そもそも、ここで神への服従を行わなければ殲滅させられるのでは?」
「し、しかしだな。それはつまり、あの強化兵みたいにされても文句が言えないということだぞ。まるで奴隷ではないか?」
「もともと神にとっては我々など塵芥に等しい存在であろう。ならば今の姿のまま生存できるならそれでいいではないか?」
「支配者が変わるだけ。市勢に変化はあるまい?」
各国の王が集まっているので意見もばらばらだ。
「し、しかしだな。レベルを1に固定されるのだぞ。ちょっとしたことで死ぬし、魔物に襲われて死ぬことだって……」
「今までとて似たようなものではないか」
王たちは既に服従に傾いているようだ。
これ以上やっても勝てないと分かっているからだろう。
消極的な反論はあれども決定的な反抗はないようだ。
とはいえ、ならば市民を無視して降伏していいのか、という意見は的外れと言えよう。
市民もまた、自分たちが殺されることになる、と考えれば、無駄に抗うよりも生き永らえる方を選ぶだろう。
そもそもこれほどの脅威に囲まれた状態でこれ以上抵抗をする意味など……
意味など、ないと、本当に言えるか?
いいや、俺は彼らとは反対意見だ。
だから。ここで意見すべきではないだろう。
「そこのライオネル兵。確か副総大将だったな。総大将はどうした?」
「ゴルディアスなら動かなくなった超巨大強化兵の撃破を行っております」
「は? まさかまだ抗うつもりか!?」
「神は言っているでしょう。服従したものはそのまま生かしてやる、と。ならば彼が己自身の覚悟をもって戦うと決めた以上、俺たちが何を言っても無駄でしょう」
「そうか、まだ、諦めきれない者もいるのだな……」
サイエンスフィア王はそう言うと、遠く、たった一人抗い続ける男の背を見つめた。
ここからだと豆粒みたいなものだが、そこには確かに、諦めの悪い兵士が動いているのが見えた。




