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1899/1986

1884話、ヴェスパニール、プライジャコリャ防衛線8

SIDE:ヴェスパニール


 強化兵たちの動きが止まった。

 何が起こったのかわからず、我々は呆然と動かなくなった超巨大強化兵を見上げる。

 危なかった。霊薬を体が受け付けなくなったせいでとっさに動けず、あと少し遅ければ私は肉塊と化していただろう。

 目の前にまで迫った巨大な拳が動かなくなったことに気付くまで、しばしの時間を有した。


 本当に、死ぬ寸前だった。

 戦争が起こる前は、我々ライオネル軍から死者が出ることなどありえないだろう。他の兵士たちの死者数を出来るだけ減らさないとな。なんて思っていた自分を殴り飛ばしたい位だ。

 ふたを開けてみれば、大敗も大敗。


 ライオネル兵たちは霊薬限界値まで使い尽くして皆絶体絶命に追い込まれてしまった。

 なまじ自分が強いと理解していたからこそ一番の激戦地を選び、それゆえに死にかけていたのだ。

 もしも、このまま戦争が続いていれば、おそらくライオネル軍の戦死者が各軍の最大に跳ね上がっていただろう。その中に、自分も含まれていたと分かると全身を嫌な汗が流れる。


―― 世界中の人間共よ、聞くが良い ――


 これは……神か。

 世界中に響く勝ち誇った男の声に、私は肩を落とす。

 こいつの声が聞こえるということは、お嬢が負けたということだ。


 さすがのお嬢でも、やはり神を相手には勝てなかったということか。

 ああ。国も失い、勝機も失い、旗印すら失った。

 我々の完全敗北だ。


 止まってくれたのが相手の慈悲だというのなら、我々は生かされたと理解せざるを得ないのだろう。

 悔しいか?

 当然だ。悔しすぎてたまらない。この敗北の責任を取れというのなら、迷うことなくこの場で首をかき切るくらいには敗北を受け入れがたい。


「ヴェスパニール、生きてたか」


「おぅ。ミリスタシオン。いい髪型だな。随分とはっちゃけたらしい」


「全くだ。お前だっていい男になったじゃないか。真っ赤に燃えるような姿だぜ」


「ああ。おかげで九死に一生を得たよ。はぁ、双方負け戦だったな……」


「まだ、負けた訳じゃねぇ。確かに霊薬による回復はもう、できねぇけども。ほら、俺はまだ五体満足だ。ちょいと髪が引きちぎられちまったけどな」


「頭皮が、だろ。とりあえず回復魔法掛けて貰ってこい」


「いやー、ちょいと、今動くとなんか零れそうでな……」


 重症じゃないか!?


―― お前たちの首魁であったロゼッタ・ベルングシュタットは敗北した。これ以上の抵抗は無意味である。我が演説が終わるまでの間に敗北を受け入れよ ――


「お嬢、負けたのか……」


「悔しそうじゃないなミリスタシオン」


「そう見えるか? ちょいと、自身の状態が万全じゃないからな。これ以上、戦えない俺じゃ、戦局をかえられねぇんだ。変えられ、ねぇんだ……」


 お嬢式の訓練を終えた。

 俺たちに敵う存在はなかった。

 それでも、慢心したつもりは一切なかった。

 結果、完全な敗北だった。


 いや、戦えるのだ。

 必死になって戦えていたのだ。

 相手の数が想定を軽く超えていただけで……

 言い訳にも、ならないな。


 クソッ。ここまで来て、これほどの仲間たちが力を合わせて、死んでいった者たちも必死だったのに。

 負けろってのか?

 私たちの頑張りは無駄だったと?

 物量がものを言うのだと、負けたらすべて失うのだと。

 こんな、こんな結末を、受け入れろってのか!?


―― 敗北を受け入れるならば我が双神への帰依を願い、今後一切の反逆を諦め、神への絶対服従を誓うが良い。さすれば今の姿のまま我が世界での生存を赦す ――


 誓う?

 降った国の人々を強化兵に変えちまうような神に、絶対服従を誓え、と?

 

「ああ。そこの兵士。すまないがミリスタシオンを救護隊の元へ連れて行ってくれないか?」


「あ……はい」


 皆、意気消沈していた。

 神の演説中は強化兵たちが動かないと分かったこともあるが、もはや抵抗しても負け戦確定で、これ以上抗う意味も見いだせないからだろう。

 すぐ傍に強化兵がいるのに、皆とぼとぼと国だった焼け野原へと集っていく。


 決めなければならない。

 我々は、生存者は決めなければならない。

 絶対服従を誓ってでも生き永らえるか。それとも抗い続けて摺り潰れるか。


 私も、ゆらゆらと重い足取りで集まった者たちの元へと向かう。

 リーマス王が生存者を取りまとめているが、その精神は今にも壊れそうなことがよくわかる。

 国を無くし、抗う意思を失おうとする国王は、私を見て軽く頭を下げた。


「すまない……」


「謝る必要はないです。私だって最後まで逆らうと言いながらこの体たらくだよ。お互い、辛いな……」


「どうするんです?」


「どう、しようか? 神の演説が終わるまでに、決めないとね。ヴァルトラッセが手伝ってくれてるけど、負傷者を集めるだけでも手一杯になりそうだ。悔しいな……」


 文字通り、総力戦だった。

 人材も魔物たちも、湯水のごとく磨り潰した。

 我々は必死だったが、神にとっては駒がいくら減ろうとも問題にならないらしい。

 あんな神に絶対服従を誓うのか? いつか駒として磨り潰されることが分かっていながら、恭順城というのか?

 ああ、お嬢……私は皆の為に、どう決断したら、いいのですか……


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