1883話、シュヴァイデン、ファーガレア防衛線8
SIDE:シュヴァイデン
状況は最悪だった。
魔物たちの協力で一時上がった士気もすぐ後に現れた超巨大強化兵の群れに挫かれ、その後にやって来たヴァルトラッセ達の助っ人も、士気を上げるには遅すぎた。
さらに最悪は続く。
戦争初期から必死に戦っていたライオネル兵たちが霊薬無効となって戦力から外れ始めたのだ。
皆、血だらけで致命傷寸前だったこともあり、次々に傷病人として臨時施設に運ばれていく。
他国の映像も見たが、国として機能が残っている城下町はこのファーガレアだけのようだ。
他の国は悉く強化兵たちに駆逐され、見るも無残な瓦礫の山となっていた。
それでも、市民の安全だけは確保できているようなので、まだ致命的、というわけではないのだが。
ここもミリア嬢の結界が壊れた瞬間蹂躙が始まることは確定している。
あとは、ミリア嬢が回復不能になるのが先か、我々の回復不能者が霊薬で復帰できるのが先か。
正直言えば、復帰できる可能性すら不明なのだ。
確実にミリア嬢の回復不能で都市壊滅が確定的だと言っていいだろう。
辛いな。負けることが確定してしまっているのは。
十分戦いはした。
皆、己の実力を存分に発揮して、やれることをやりきった。
それでも、敵が強大だったのだ。
よくやった。
私たちはよくやったんだ。
十分頑張った。がんば……った。
ふざけんなっ。
これだけの戦力を揃えて、勝てなかった、で済ませられるか!
こんな結末の為に訓練して来たんじゃない! 守る為に戦ったんじゃない! この地に集まったんじゃない!
私たちは、この絶望に打ち勝つために集まったんだ。
なのに、なのにっ。
……ん? なんだ? 強化兵たちが、止まっている?
突如動きを止めた強化兵たち。
この機に、撃破、と息巻くのはまだ余裕のある冒険者や闇の者たちだ。
兵士たちは皆、何が起こったのか理解できずその場に立ち尽くしている。
死力を尽くして戦っていた相手が突如動かなくなったのだ。攻撃を続けるよりも何が起こったか把握する方が重要だった。
「生存者は傷病人を運んでくれ。強化兵たちが動きを止めている今のうちに死んでいない仲間を助けるんだ! 急げ!」
道半ばで倒れた兵士や冒険者たちは、回復すらされずにその場に捨て置かれている。
理由は助ける余裕がなかったから。それに尽きる。
皆自分のことで手いっぱいだったんだ。すぐ傍で仲間が倒れるのを見ても、歯を食いしばって敵を食い止める。
仲間に手を差し伸べる余裕なんてなかったのだから見捨てるしかできなかった。
手を伸ばせば助けられる。そんなすぐ隣で死を迎える友人を見つめながら、自分も殺されないために抗うことしかできていなかった。
生存者は少ないだろう。それでも、レベルカンストしている面々だ。いくらかはまだ生きてる可能性がある。
いくら霊薬が効かないと言っても回復魔法や自然治癒はなんとか効いてくれるようなので、今のうちに少しでも命を繋ぐべきだろう。
私からの念話を受け、負傷した仲間たちを必死になって回収していく。
私もすでに霊薬の効きが悪くなっていたし、今は正直止まってくれて助かる。
助かるのだが、どうにも嫌な予感しかしない。
いつ動き出すともわからない強化兵たちの森を彷徨いながら倒れた仲間たちを回収していく。
ああ、ザイン、コパ、レミントまで。志半ばで倒れ、そのまま放置されていた仲間を回収する。
皆、生きてはいる。しかし虫の息で全身怪我のない場所が見当たらない。
このまま放置されれば確実に死ぬ。それだけの傷を負っていた。
ブレン、ロンベルト。ああ、レンデルクまで倒れているじゃないか。
シュートラウアたち飛竜族も打ち落とされている個体が結構いる。
彼らは自分で霊薬が使えないので、飲ませてやれば復帰できるらしい。
シュートラウアを復帰させ、レンデルクたちの護送を頼む。
プルータリスも心配だが、倒れたままのライオネル兵たちの安否も心配だ。
皆、強化兵たち相手に必死に戦っていた。
霊薬切れで倒れた者は何百人といるはずだ。
そのうち、何人を生還させられるだろうか……?
―― 世界中の人間共よ、聞くが良い ――
なん、だ?
これは、まさか男性神とかいう奴の?
なぜ、なぜ今彼の念話が届く?
お嬢と戦っていたはずじゃないのか?
なぜ? なぜ強化兵が止まった? なぜ奴は普通に世界中に声を届けられる?
お嬢は……どうした?
―― お前たちの首魁であったロゼッタ・ベルングシュタットは敗北した。これ以上の抵抗は無意味である。我が演説が終わるまでの間に敗北を受け入れよ ――
……なん、だと?
それはまさに降伏勧告。
ファーガレアの人々は、力なく両手を垂らし、空を仰ぎ見る。
もはや、誰も彼も、絶望的な顔しか存在しなかった――――




