183話・パルボラ、仮想敵国で見付けたやべー奴1
「王子、あまり言いたくありませんが常軌を逸しています」
「おいおい、さすがにそれは言い過ぎだろ。ただちょっと市井を見に来ただけじゃないか」
はっはと笑う快活な男。こいつは不肖私のご主人様だ。
ゼルディス・メルクナード。
今年の格闘大会を見学しに来るための下見と銘打ってわざわざ隣国のライオネル王国へとやって来て市民にまぎれて放蕩している変人である。
変人で出来れば関わり合いに成りたくない存在ではあるが、私は王族に昔から仕える暗殺者の子孫であるためしぶしぶ王子の身の周りの安全とお世話をするように取りきめられてしまった。
下手に仕事放棄すると私が家族に暗殺されてしまうので、泣く泣く、本当に泣く泣くこの変人の護衛としてライオネル王国まで付いて来たのである。ちなみにメイド服なのはこの変態の趣味である。
あまり束縛さえしなければ私が付いてくることに対して何も言ってこないので、当初こそ監禁生活で身の安全を確保しようと躍起になっていたモノの、あらゆる手段で王城から逃げようとする王子に根負けし、王子のしたいようにさせることにしている。
その御蔭でわざわざ隣国まで連れて来られたのである。
「ふーむ、毎年来ているがここは変わらんなぁ」
「そりゃあそうでしょう。毎年変化し過ぎる国は革命や下剋上が起こっていると思われますので変わり出したらしばらくは絶対に来ないように致しますもの」
「メイドが主人を束縛するのはどうかと思うがね。まぁ、俺としてもそんな場所には行く気も無いが。さーて今年は面白いこと起こるか、なっと」
手を額に翳して周囲を見回す王子。
お上りさんでもまずやらない行動で衆目を集めるのは止めてほしい。
こいつが王子でなければ今この瞬間に首をベキリと折り曲げで証拠隠滅しているところである。
「お? 見ろパルボラ。なんかあっちが騒がしいぞ」
「そんな昆虫見付けた少年のような目をしないでください御労しい」
「なんだと!? このキラキラした希望に満ちた瞳を御労しいとは何事だ。ほら、行くぞパルボラ」
「はいはい、走らないでくださいみっともない。捻り潰しますよ」
「お、おお!? なんだこりゃあぁ! 人が、人が列作ってるぞ!」
「おや、珍しい。人気店がイベントでもやっているのでしょうか? しかしこの近辺に店は無かった筈……」
私が困惑していると、王子は行列の最後尾にいた立て札を抱えた少女に声を掛ける。
「君、この人だかりはなんなんだい?」
「あ、数日前に新規開店したプライダル商店の行列です。只今半鐘程の待ち時間になってます」
半鐘!? かなり長いじゃない。どうやってそんな行儀よ……敵意!?
視線を感じて慌てて振り向けば、ゴツい容姿の男が睨みつけるように行列を見ながら歩いていた。
なんだあの冒険者は? 王子に仇なす存在か?
「嬢ちゃん嬢ちゃん。さっきからなんか監視される気がするんだが?」
「あ。御免なさい。皆さんの安全を確保するためにウチで雇った冒険者さんが行列で抜かしたりしてる人がいないかとかトラブル起きてないかって見回ってくれてるんです」
「へー、じゃああの厳ついおっちゃんも雇われ冒険者か」
「えっと、チーム名未だ無名、のカルデモンおじさんだよ。顔は怖いけどすっごく優しいの。私の作ったクッキー食べておいしいって言ってくれたのよ」
「ほぅ、クッキー作れるのか」
「うん。お兄さんも良かったら買っていってね。私のにはイチゴが入ってるんだよ」
「へー。嬢ちゃんが作ったってなら買わなきゃな」
相変わらず女性に優しい王子様だこと。でも恋愛対象に見ることは無くただただ優しいだけの性格だから罪作りよね。そのせいで勘違いした羽虫が寄って来るから駆除しなきゃいけなくなる。
面倒だから硬派な兄上様を見習ってほしいモノだ。
それからしばらく、私達は行列に並び続ける。
先程会話していた女の子も、私達の後ろに平民たちがやってくると、最後尾更新ーっと楽しそうに駆け去って行った。
買い物だけだからだろうか? 行列の進み具合が速い。
それでも、確かに半鐘くらいの時間でようやく店の中へと辿りついた。
これで商品が大したモノでなければ……!? なに音楽が流れてる!?
これは……あの物体から! すごい、宮廷楽団の曲じゃない!
「おー。置いてあるのは見本だけなのか。確かに本物置かなくてもこういうモノがあると分かれば買い物は可能だわな。ふむふむ。随分と変わったものが多いな。なんだこれ? ハブラシ? ほぅ、歯を磨くためのモノなのか。商品の説明書きが隣に書かれてるのは分かりやすくて良いな」
王子の言葉で我に返る。
今は王子の付き人として来ているのだった。
危ない危ない。危うく王子を見失って暗殺される所だった。
後ろ髪引かれる思いで円盤が回る音の鳴る機械から遠ざかる。
あの機械。自室にほしいな……
「お、あの娘が言ってたのはこれか」
「イチゴ味でしたね。いくつか種類があるのは別々の人物が作ったから、でしょうか。500サクレ……微妙に高い?」
「いや、絶妙な値段だな。これ以上下げるとおそらく赤字だ。砂糖を使ってるんだろう、利益が出るぎりぎりの値段にしてある。このクッキーでの儲けは期待してないらしいな」
「はーい、追加でプリンと羊羹限定100個なんだよー。お一人様一つを守ってねー独り占めはだめなんだよー」
元気一杯の少女が新しい商品をカウンター前に並べ始める。
ちょ、皆が一斉に殺到し始めた!?
「パルボラ、一種類づつ二人分だ」
「了解しました」
ここまで客が反応するということは何かある、と王子の目の色が変わった。
ゆえに、客には悪いが私は暗殺術を駆使して雑踏に紛れ込み、必要な分を素早く確保させて貰うのだった。
くぅ、子供が手に入れられずに凄く哀しそうな顔をしている……でも、敵国、ここは仮想敵国だから手を差し伸べちゃだめよパルボラ。というか話題っぽいお菓子私も実食してみたいから諦めて。




