1831話、ザントベルグ、親竜共和国防衛線2
SIDE:ザントベルグ
うっし、ようやく本格的な戦場だ。
ライオネル軍の訓練は確かに有用だしこういう時を想定しての訓練なんだが、どうしても命のやり取りができる場所じゃねぇんだよな。
このひりつくような感覚。
迫りくる殺意の嵐。
守る側の兵士たちの熱気が周囲から立ち上っていて殺伐として、しかしどこかお祭りめいた感じがして……ああ、血が滾って来るぜ!
「ヒューマ、中型が動き出したな!」
「そ、そうですね。バンディッシュ総大将から許可も出ましたけど、あの飛行型放置でいいんですか?」
「ああ。俺らは弓や魔法よりも白兵戦が得意だろ。ああいうのはオリールのおっさんたちに任せてりゃいい。俺らは……ちょうどいい。あそこの軍が瓦解してるぜヒューマ、早速救出に行こうじゃねぇか!」
「は、はい! うわぁ、まさか本当に命がけの戦いが始まるなんて思ってなかったなぁ」
「ああん? 怖気づいてんの……」
ああ、違うな。その顔は怖気づいて逃げ腰になってる顔じゃねぇ。
お前も随分と獰猛な顔ができるじゃないかヒューマ。
こいつ、口調は丁寧だけど、しっかりと自分の芯を持ってやがるから気に入らない命令には最後まで食って掛かるんだよな。とはいえ、兵士の一人だから上官命令にはしぶしぶ従ってるが。
今はいいが、こいつが昇進しちまったらどうなるだろうか?
俺の一存で昇進はさせてねぇが、いつまでも伍長のままにさせとくわけにもいかねぇし、悩みどころだな。
おそらく、こいつは普段は大人しいが潰す、と決めた相手をどんな手を使ってでも潰し尽くすヤバい奴だ。
そんな奴の部下に着く奴が出てくると、下手すりゃ使い潰されるんじゃねぇかとついつい老婆心がでちまうんだよな。
いや、実力はしっかり認めてるんだぜ? 俺だって認められるもんはちゃんと認める。
ロゼッタの嬢ちゃんにはまだ屈服する気はねぇが、あの人がすげぇってのも認めてはいるしな。
「オルァ、助っ人だ!!」
瓦解する兵士たちと拳を振りかぶっていた中型強化兵が驚くなか、中型強化兵の側面からドロップキックで参戦だ。
「ええぇ!?」
「おらヒューマ! 驚いてねぇでお前はあいつを仕留めろ!」
真後ろからこちらへ合流しようとしていた中型強化兵を親指で差してやると、ヒューマは直ぐに狙いを変えて、俺の背後から迫る中型強化兵へと吶喊。
身の丈に合わない巨大な剣が中型強化兵の首をやすやす刎ね上げる。
「おいおい、マジか」
続く一撃で体を真っ二つにされた中型強化兵が慌てて再生しているが、それよりも早く巨大な剣が中型強化兵の姿を細切れへと変えていく。
クソ、先越されたな。こっちも負けてらんねぇ!
ドロップキック食らっただけで跳ね飛ばされていた中型強化兵へと剣を構える。
さぁて、ここから先はお前の相手は俺だぜ?
「楽しい戦いにしようぜ、なぁ侵略者!」
おーおー、声にならない絶叫迸しらせて、やる気十分じゃねぇか。
「はは、良い勢いだ。でも、遅ぇ!!」
立ち上がって駆け寄って来た中型強化兵。
拳を振り上げこちらへと殴りつけてくるも、ギリギリを避けて肉薄。
焦る強化兵の顎を柄頭で跳ね上げ、振り上げた剣で袈裟懸けに切り裂く。
「オルァ!!」
っし、再生始まったが攻撃する余裕は無くしたな。
後は切りまくるだけの簡単なお仕事だ。
「馬鹿な!? 我々があれほど苦戦した敵が、一撃で……?」
「そっちの兵士たちは小型強化兵を頼む。そいつらも放置してれば親竜共和国に突っ込んじまうぞ!」
「し、しかしっ」
「いいか、俺らはデカブツ相手の為に訓練して来た。あんたらは対軍を想定して訓練してただろ。適材適所って奴だ。俺らにゃ軍として迫りくる小型強化兵を全て相手取ることは出来ねぇ。任せるぞ!」
「う、うむ。わ、分かった。こちらは任せろ」
不平不満が生まれる前に、体制を立て直した他国の兵が小型強化兵の駆逐に乗り出す。
っし、この辺りの小型強化兵はこいつらに任せりゃ大丈夫そうだな。
「ヒューマの野郎、もう一体目撃破かよ!?」
「ふぅ、再生続けられる前に全ての細胞を魔法で破壊してしまえば再生し続ける前に倒せますよ、高温で一気に燃やし殺すのが正解みたいです」
一体倒して余裕が生まれたヒューマは俺の元へと戻って来るが、中型強化兵はどんどん来てるぞ。
「ヒューマ、休憩なんざしてる場合じゃねぇぞ。あそこの中型倒してこい!」
「ああ、もう、こんなに近くまで来てる!?」
「俺のところにいちいち戻らなくていい、とりあえず目についた中型を徹底的に駆逐していけ! 後は総大将の指示に従ってりゃ大抵問題はない。散開だ」
「わ、分かりました!」
ヒューマが次の中型へと突撃していく。
あいつの発想真似したらかなり早く強化兵倒せたな。念話で全軍に伝えておくか。