1829話、ヴェスパニール、プライジャコリャ防衛線2
SIDE:ヴェスパニール
正直に言わせて貰うと、だ。私は早速総大将の任を放り出したくなっていた。
ここまで命令を聞かないのも珍しい。
各国命令系統が違うのはわかるが、総大将だぞ? なんで命令無視するんだあいつら?
「ヴェスパニール総大将、どうすんすか? このままだと中型相手に大損害でますよ。大型が出てきたらライオネル兵もフォローできなくなりますし……」
「分かってんだよそんなことは。なんであいつら命令聞かないんだ!」
「自国の兵で戦えることを証明したいんでしょうな」
「上官の命令だぞ!? しかも各国王から指名された。命令違反とか軍法会議確定だろ!?」
「覚悟の上、とも思えませんな。おそらくそこまで深く考えていないんでしょうな。あくまで各国軍の盟主扱いで上官だと思っていないのでは?」
だろうな。
ええい、こっちは的確な指示を出しているのに従わずに敗北しましたとか処刑確定だぞ。
仕方ない。
念話でリーマス王に連絡し、各国王の王命許可をいただく。
まどろっこしいが委任状がなければあいつら話を聞くこともしないだろう。
なんともしがたい状況をライオネル兵を巧みに動かしながらなんとか潰走だけはさせないように危険な強化兵から潰していく。
おかげで一部の小型強化兵たちが野放しだが、これはもうあいつらのせいだからな。
覚えてろよお前ら。
「ギルドレイ、悪いが南東のフォローを頼む。リオルガ、北東から小型強化兵が抜けた。駆逐してくれ」
「面倒くせぇ!?」
「うへぇ。何匹抜けてんだよ!?」
致命的な失態には繋がっていないが、そろそろ不味いな。
中型の数が増えだしてるのがさらに面倒だ。
「総大将殿!」
「待ってた!」
兵士が一人、駆けつけてきて、手渡しで各国の王たち全員の委任状を貰う。
うん、全員分あるな。
これでやれる。
んじゃこの近辺一体に風魔法で声を届けるか。
「全員そのままで聞け! もう一度だけ告げる。私はヴェスパニール。この連合軍の総司令官を各国の王より委任されたものだ。つまり、我が指令を無視することは自国の王命を無視することと同義であると心得よ。これより以後、命令違反した軍は後日纏めて自国で軍法会議にかかって貰う。軍兵である諸君らが上官の命令に従わぬというならば仕方なし、命令違反者は以後手助け無用、勝手に潰れろ!」
っし、さっさと命令させて貰おうか!
「全軍、中型強化兵はライオネル兵に任せ小型強化兵の突破阻止に向かえ! ライオネル兵。命令違反者は強化兵諸共駆逐してやれ!」
「貴様! それが総司令官が下す命令か!!」
「黙れ! 命令を聞く気もない、クソの役にもたたんなら後方で震えていろ! 命令違反で勝手に潰走する奴らの面倒まで見ていられるか! 我々の目標は強敵の撃破じゃない! プライジャコリャに避難している者たちに強化兵たちの脅威が届かないよる守り切ることだ! その程度も理解できん兵などいらん。町に戻って門でも守っていろ!」
「言わせておけば!」
「おい、これでも理解できてないそこの阿呆を王族侮辱罪で捕縛しろ」
もう、いい。徹底的にやってやる!
使えるもんなんでも使ってやるからな!!
「な、何を言うか!? 私はプライジャコリャ陸軍最高司令だぞ!?」
「だからどうした、こっちはプライジャコリャ国王より総司令を委任されたぞ。お前の上官だ。上官の命令に従わないのだからどうなるかはわかるだろう。そもそも、委任を受けた以上私の命令は国王陛下の命と同義、それに従わないということは王族を舐め腐っていると自分から宣言しているのだぞ!」
「っ!? そ、そんなつもりはない! 貴様の命に従いたくないだけだ! なぜ私が若造の命令なんぞに!」
「だから言っているだろうが! お前の上司である国王陛下よりお前の軍に指令して使ってくれ、と委任されたんだよ私は! その命令に従わないってことは国王陛下が決めたことに反旗を翻すってことだろうが!!」
ようやく理解が行ったのか、青い顔で押し黙るオッサン。
今まで自分が命令下す側でしかなかったから命令聞きたくなかったんだろうが、そういうのは今いらないんだよ! ここのやり取りも風魔法で全軍に届けているので、ようやく他の軍も自分勝手に戦闘を行うことはマズいと気付いてくれたようだ。
戦争指示の責任は全部俺に来るからな。ここからは判断ミスしたら後々面倒になるぞ。
いや、いい。ともかく守るべきものを守る為に全力を尽くすだけだ。
ようやく個別行動する軍もいなくなったので連合軍が一丸となって強化兵に抗えるようになったらしい。
ま、今更感はあるけどな。最初っから俺の指示に従ってくれれば余計な士気低下や兵力低下しなくて済んだんだぞ。
これから立て直す時間、あればいいんだが、強化兵どもは、待っちゃくれないだろうな。総大将、引き受けるんじゃなかった……