182話・ロゼッタ、私への客が多いんだよ? その8
「お待たせぇ」
「あ、ようやく来た」
「……何してんの?」
「いや、店が忙しくなってルインクさんがカウンター向ったから、その、お手伝い?」
キッチンで何か作っていたクラムサージュが困ったような顔で告げる。
作ってるのはプリンだね。
明日用だからそこまで急ぎじゃないんだよ。
「しっかし、こっちの世界来てプリン食べれるとは思わなかったわ。でも、ホントになんでここに店立てちゃったのよ、ここ錬金術師として主人公が使う場所だったのよ」
「それは私も想定外かな。まさか別のゲームが混在してるとは思わなかったんだよ」
「そう、それよ! 私としても別のゲームってのがちょっと気になるのよ。ルインクさんはともかく、レコール君もエルフレッドさんもライオネル王国の錬金術師に出て来るキャラクターなのよ!」
二人とも妙にキャラ立ってるなーと思ったら攻略対象、というか味方になって好感度をあげられるキャラだったらしい。
しかもこの子はエルフレッドさん狙いだったとか。
もう、もうっとお怒りモードだけど、プリン作る手つきは凄く慎重だ。
料理には手を抜かないタイプだね。
プリンを蒸し器に入れたクラムサージュが一息吐きながら私の元へとやって来る。
改めて確認。髪はボーイッシュなマーマレード色。カチューシャを付けているので普通に女の子に見えるけど、カチューシャ取ったら小生意気な少年に見えなくもない顔立ちだ。
小さい頃はきっと男女とか言われたんだろうなぁ。
服はエプロンしてるけどアイドルみたいなオレンジ色の服。濃淡で裾などを分けているけど全身ほぼオレンジだ。ミニスカート姿は可愛い。
よくよく思い出してみれば、確かにこのキャラクター、見覚えがある。
「それじゃ、蒸し上がるまで少し、情報交換するんだよ?」
「ええ。こちらもそのつもり。一体何がどうなってるのか知りたいわ」
ダイニングルームにあった椅子を適当に使わせて貰ってクラムサージュと対面する。
腕組んでちょっと威圧して来る姿はツンデレさんを彷彿とさせる。
怒ってますよ、と主張しているつもりらしいが、根が優しいようで、ちょっと間抜けた雰囲気が漂っている。
「まず前提として、ライオネル王国の姫巫女は知ってる?」
「姫巫女……あ、ゲームの名前よね。知ってる、やったことは無いけど」
やったことないのか。
「私はロゼッタ・ベルングシュタット。ライオネル王国の姫巫女に登場する悪役令嬢よ」
「悪役……え? それって流行りの悪役転生? ってことは今は断罪エンド回避のために動いてるってこと?」
流行りかどうかは分かんないけど断罪エンド回避中なんだよ。
「じゃあ、一応聞くけどライオネル王国の錬金術師については?」
「一回クリアしたくらい? クラムサージュんとこにそう言えば居たねエルフレッドさんと鷲鼻婆さん」
錬金道具買うのに使用した魔道具屋、よくよく思いだしたけど、ゲームで一風変わった道具屋として出てたんだよ。そりゃどうりでキャラ立ちした店員さんだと思ったんだよ。
「でもエルフレッドさんに関しては仕方無いんだよ。ウチのゲームに出て来る金髪豚野郎な貴族に目をつけられて店閉めちゃう寸前だったし」
「それイベントォッ!! 私にとってエルフレッドさんと知り合うための最初のイベントじゃないっ! なんで潰しちゃったの!? プレイしたならわかるでしょーっ!?」
「いやー、だって必死に全クリした巫女姫と違って錬金面倒だったからメインキャラで使った人以外ほぼ放置だったんだよ。エルフレッドさんも放置組?」
「な、なんてこと……」
そんなこの世の終わりみたいな顔しなくとも。
「ああ、折角新しい人生ならやり直せるって思ったのに……」
心が折れた、とでもいうべきか、テーブルにつっぷしたクラムサージュの瞳からハイライトが消えていく。
「やっぱり私なんて主人公向いてないのよ。OL時代だって折角眼を掛けてくれた人が居たのに先輩OLがクソだったせいで泣く泣く辞表だしたし、それが元でヒキコさんしてたし、あげく、コンビニに行ったらトラック転生って、はは、なんだこの人生……」
うわぁ、なんか、他人事とは思えない。
「そうよねぇ、頑張って頑張って人生生きてたのに、いきなり雑巾茶飲まされて毒殺されるとか、やってられないわよね……」
ふふ、あはは……
ハイライトの消えた女二人が乾いた笑みで笑い合う。
その光景は、あまりにも退廃的だったそうな。影のおっちゃんだけ普通に見守ってやがったんだよ。乙女の秘密だぞ、見んなしっ。
「……って。あ!」
そうだよ。よくよく考えたら別に問題無いんじゃない?
「一応確認なんだけど、クラムサージュはこの地で錬金術する予定だったのよね?」
「……ええ。クラムサージュがこの家にあった釜を使って錬金術をすることでこの国を豊かにするの。錬金術はたまに煙たがられるけど、釜にいろんなモノ入れるだけで別のモノが出来るお手軽スキルだし、団子とかミルクとかも出来るから便利なのよ。エルフレッドさんと恋仲になったらパンケーキ極めてケーキ屋エンド狙ってたのにぃ……」
「まぁ、別にイベント起こさなくても普通に恋仲になればいいんじゃない?」
「え?」
「いや、だってさ、この家の釜は普通に部屋に置いたままにしてるから、使おうと思ったら使えるんだよ。やる? 住み込み錬金術師」
「やるっ!」
即答で叫ぶクラムサージュ。
そして私は苦労もせずお金もださず、新たな働き手を手に入れたのだった。たなぼた~。