1824話、ネイサン、ナゲキノカルマ防衛線1
SIDE:ネイサン
「ネイサン、意外とちゃんとできてるな」
最弱強化兵たちが攻め寄せ、人間の兵士と魔物の兵が別々に対応しながら撃退している。
共闘は、今の段階では無理だろう。
双方相手が強いことは理解したが、戦い方というべきか、バトルスタイルが違いすぎてパーティーを組んだりレイド戦の協力パーティーを組むまでには至らない。
仲間内で役割を分けて戦う人間と、個のスキル、特性を存分に生かして吶喊していく魔族たちでは求められる仲間の能力が違うのだ。
人間の中にも兵士と冒険者でバトルスタイルの違いが如実に出ていて、下手に一緒に戦わせるよりも、冒険者は冒険者たちとレイドパーティーを、兵士たちは軍でまとまった運用を、といった感じに個別に戦わせた方が今は真価を発揮してくれているようだ。
「ガレフか。そういえばお前は魔王側で戦うんだったな」
「おぅ。その、カミさんがな、一緒に戦うぞ、そこに来ててよ」
「魔王パステルか。その背後にいるメンツは戦闘に参加しなくていいのか?」
「俺らが手伝うほどの戦力でもねぇだろ。他の魔族たちに華を持たせてんのさ。なぁキリハの嬢ちゃん」
「別に私はそんなつもりはないですが。ネイサンさん。お久しぶりです」
一つ目族のキリハさんが私の元へやってきて軽く挨拶。
今は魔王をやっているのでお辞儀すらできないようだ。
まぁこちらの方はお辞儀をしておくのが礼儀だろうな。
「魔王キリハ殿。そちらにいる魔王ボーエン殿も、自軍に居なくともよろしいので?」
「今は雑魚相手でしょう? 手伝うほどでもないでしょ」
「ウチの人材も後続への駒として使ってくれ。ロゼッタ嬢の訓練方式ですでに訓練済みの兵士たちだ。魔族兵だがライオネルに引けは取らんよ」
それは朗報だな。
「しかし、他の魔族軍や国軍は、なんっつーか、苦戦気味だよな」
まだ最弱強化兵としか接敵していないが。すでに押されている場所もあるくらいだ。
数こそ一番多い小型の強化兵たちだが、彼らは力任せに進んでくるだけだからまだやりやすいと思うんだが。
そもそも魔族と人族が手を取り合えれば、もっと有利に進められるはずなのだが。
「おお、いたいた。おいそこの人間! お前がネイサンでええんか!」
「はい、ネイサンは私で……キーリ嬢!? あ、いや、色が違う?」
「我が名はコーネリア・プライダルだ! キーリ婆ちゃんに頼まれたから手伝いに来てやったぞ! 我がプライダル軍の兵をウチ諸共お前の指揮下に入ったる!」
「おお、これは嬉しい報告ですな。コーネリア嬢、是非によろしくお願いします」
「うむ。婆ちゃんがどうしても、っていうからな! ふふん、ウチが手伝ったるんや、泥船乗ったつもりでおりぃな! あんな奴らちゃちゃっとイワしたるわ」
「あのー、泥船だと沈むのでは?」
「……一つ目の嬢ちゃん、そういう揚げ足取りはしたーあかんねん」
「あら失礼。キーリさんなら笑って触手で船底押し上げたるから問題無しや、くらいいいそうだけど」
「なんやて?」
おい、なんで人族と魔族じゃなく魔族と魔族で敵対しそうになってるんだお前たちは。
「ん? お、見ろよ、敵さん第二段階に入ったぜ」
「短期決戦よりはまだマシだが、波状攻撃の上に倒した先からさらに強い敵のおかわりは……」
「面倒でしかないな。さて、それでは皆さんの軍に通達を。ライオネル兵もアップさせておきますが、先にあなた方の実力を見せていただきましょうか」
「面白い冗談ね」
「ま、せっかくだしやってみるかー、パステル、あいつら中型強化兵と戦えそう?」
「中型の中でもピンキリだからな。弱い部類であれば単独撃破もできよう」
「人数はかなり多いし、一体の中型相手に三人組以上で当たるよう伝えてほしい」
「三人以上?」
「もしもの場合の安全策だ。一人がダメージを負っても他の二人にスイッチすることで回復時間ができるからな。互いに前衛を変わって敵を引きつけつつ回復スキルを全て使い切らせてトドメを刺すんだ。時間はかかるがある程度の兵士ならできるはずだ」
「なるほど、人族なら安易にできるだろうが、魔族軍ができるかな?」
「ウチは大丈夫だぜ。パステルと一緒にライオネル式訓練で兵士ども鍛えたからな」
「私の軍も問題ありません。私の意向に逆らう者が居ませんので」
「ってことは、問題があるとすりゃそっちのプライダル軍か?」
「むぅ、三人一組で連携か? 婆ちゃんが鍛えてたからある程度は出来るぞ。そっちの優男はどや?」
「ウチも問題はないよ。嫁が率先してロゼッタ嬢の為に鍛えてたから」
ボーエン殿の妻、確かプライダル商店にいた孤児の一人だったはずだ。なるほど、彼らならお嬢の訓練はよく知っているだろう。
つまり、ここにいる面々の軍はライオネル同様として扱ってよさそうだな。
これは戦略の幅が広がりそうだ。