1823話、ヘロテス、ヘルツヴァルデ防衛線1
SIDE:ヘロテス
正直言わせて貰えば、アルベールと二人だけで大将格として指揮しないといけないと言われて俺は不安を覚えた。
今までの訓練ではどんなに大変だろうとフェイルやネイサン、シュヴァイデンたちが居たのだ。同じ隊長格といえども彼らに任せておけばどんなキツい状況でもなんとかなる。そう思っていた。
ここでは俺とアルベールが最後の関門だ。
同じライオネル兵はちゃんといる。ツイテルもプリムローズもいるし、カシムたちだって歴戦の英雄だ。
でも古参からの部隊長は俺とアルベールだけである。
最後の最後、責任を取る側で、最も皆に頼られる側だ。
正直、柄じゃないんだ。俺は。
同時期に部隊長やってたってだけでお嬢に大将までのし上げて貰った。
でも、実力も指揮力も文章力だって他の部隊長に劣る。
元来難しく考えるのが苦手なのだ。
だがゴルディアスのように即断即決腕力でなんとかなるさ、というほど考えなしじゃない。
ああでもない、こうでもない、と考えているうちに絶妙の一手を打つタイミングを失うタイプの残念な思考を持つタイプなんだ。
だから何度だって失敗してきた。
お嬢からいろいろ習って訓練も行ってきたからある程度のカバーは出来るようになってるが、それも結局人並みだ。
自分の実力を考えれば、下手したらヒューマやザントベルグにすら劣ってるんじゃないか、と不安になる時が多々ある。
それでも、責任ある立場になったからには、守りたい者を守る為に必死にやって来た。
いつも、思うんだ。自分をがんじがらめにしているこのお嬢の呪縛を投げ捨てて、何の気負いもなく兵士を止めてみたらどうなるんだろう、って。
でも、しばらく夢想していると、なぜかいつも辿り着く。
いつかどこかで、知らない誰かが、ライオネルに攻め寄せる。
俺は兵士じゃないから奴らが蹂躙する姿をただただ見つめながら、後悔するんだ。
なんで俺は、兵士を止めちまったんだろうか、って。
そんな妄想をしていると、頬を張って気合を入れたくなる。
まだやれるだろ、俺にしかできないことがあるだろ。
そう自分に叱咤して、毎日兵士として訓練へと向かうのだ。
ああくそ、まさかその夢想が現実になっちまうとは。
訓練だけで終わるのが理想だった。
老兵としてガタが来て、後進に場所を譲って昼行燈。
そうなって初めて、俺がんばったよな。そう思って死のう。それが理想だったのに。
視線を向ければ、アルベールが無数の他国兵へと指示を出している。
すでに接敵もしており、一番小型の強化兵と連合軍の兵士が平野で激突していた。
何時間経っただろうか?
兵士たちは訓練が杜撰だったのか、一進一退、自分たちより格下のはずである小型強化兵に苦戦中だ。
それでもライオネル兵の参戦は控え、他の国の兵たちのみで戦線を維持して貰っている。
理由は簡単だ。後詰めの敵がヤバいからだ。
すぐ近くに存在するマギアクロフトに降った国、そこに無数の巨大な強化兵たちが屯している。
絶望的な光景だ。
あの一体一体が俺たちと同等かそれ以上。
兵士の数こそこちらが多いが、戦力的にはおそらく向こうが強い。
一騎当千、万夫不当の強化兵が多数存在しているのだ。
ライオネル兵たちは既に理解している。
この戦い、無事では済まないと。
見知った仲間が何人も死ぬだろう、と。
それでも、倒し切らないと、俺たちは全滅だ。
だから、覚悟しよう。
夢想した時のように、俺は兵士を辞めてない。
アルベールと共に総大将としてこの地に存在しているのだから。
「ライオネル兵戦闘準備! 中型強化兵の進出確認!!」
「上空より飛来物アリ! なんだありゃ!?」
上空からは羽の生えた強化兵。
中型だからまだマシだ。
大型以上に飛ばれたら詰む。
飛行型中型強化兵たちは、空から俺たち向かって急襲を仕掛けて来た。
重力に任せて拳を振り上げ、地面にたたきつけるつもりらしい。
「させるかよ!」
当然、ライオネル兵たちはいっせいに土魔法を使ってロックニードル。
硬い岩でできた無数の針で強化兵たちを串刺しにして威力を殺す。
それでも、ロックニードルを粉砕して一部強化兵の拳が地面を割り砕く。
周囲にいた他国兵たちが吹き飛び空へと舞い上がり、拳が撃ち込まれた地面は粉砕されてクレーターが出来上がる。
「怯むな! まずは羽を斬り落とせ!」
「中規模強化兵へライオネル兵対処!」
さぁ、俺もそろそろ行きますか。アルベールに指揮は任せて、現場の指揮権は俺がやるかね。
俺だって一応副総大将だしな。
アルベールが指示しきれていない場所に向かって大雑把に指示をしていく。
この辺りはそれなりに有能な指揮者がいるようで、大雑把な命令だけで十分戦力維持ができるらしい。
持ち直したなら別の兵士たちのフォローだ。
さぁ、忙しくなるぞーっ。