1814話、ロゼッタ、本当の怪物
飛行魔法で必死に避ける。
一瞬前にいた場所向けて、巨大強化兵の拳が次々に襲い掛かって来る。
一つ一つが音速を越え亜光速に届く速度で六つの拳が連続で襲い掛かってきている。
反撃になんて移れない。
というか、どこまで逃げれば攻撃範囲から逃れられるのこいつ!?
ロゼが言ってた巨大強化兵、ガイウスとペルグリッドの側近二人の融合生物は、側近の一人を中央にすることで彼の思考をメインにこちらを攻撃して来ているようだ。
あいつ、確か弓が得意な奴だったわね。
その左右の肩部分にガイウスとごっつい男の上半身がでているので、パワーファイター型二人が両腕の動きをサポートしているんだろう。
おかげで動きも読みにくいし、避けるだけで反撃に移れない。
一番の問題はあの化け物の移動速度。
あれだけ巨大なら重鈍のはずなのに、その動きはまさに光の如く。
私の動きに普通についてきているのだから手に負えない。
私たちじゃ勝てないって言うのもよくわかるわ。
っていうかもう飛んで逃げるだけじゃ逃げ切れないからショート転移も駆使して避けていくしかないんだけど、あの拳の範囲に転移するとこっちが爆散しかねない。
ええい、何で私は残機1のシューティングゲームみたいな状況になってんのよ!
弾幕という名の拳の応酬がひどすぎる!
「主はんっ」
「キーリ、こいつは私が引きつけるから強化兵の強めの奴間引いちゃって!」
「無茶言うやん!?」
多分レベルカンスト以上の強化兵はキーリでも苦戦するだろう。でもマギアクロフトから湧きだした今がチャンスなのだ。
本格的に稼働する前の強化兵だから動きが単調なのである。
ここから襲撃予定国に到達するまでに徐々に覚醒していき。強化兵どもが手に負えなくなっていくのである。
「頼んだキーリ!」
「ああもう! こうなったらアレしかないわ! いあ! いあ! ふんぐる……」
キーリに任せるのは不安だ。
別にキーリが弱いわけじゃないし、何かやらかすことを心配してるわけじゃない。
キーリの能力的には十分戦えるんだけど、相手の強化兵は群れを成している。
それこそ、マギアクロフトから湧きだしてるせいで、何千何万の強化兵を一人で相手どらないといけないのだ。
死なないでよキーリ……キーリ? 何してんの!? ちょっと、それ召喚魔法!?
キーリの召喚により、マギアクロフト中心部より少しずれた場所に魔法陣が生み出される。
そこに……なんかヤバいの出たぁ!?
「ちょ、キーリ!?」
「こっちも出し惜しみしとられへんのよ!」
ソレは私の知ってる現代世界では創作神話でしかないモノに出現していただけの存在、のはずだった。
黒い仔山羊がゆっくりとせりだしてくる。
あれ、ほんとなんなんだろう。
うっわ、周囲の生物見境なく攻撃し始めた。
まぁ周囲にいるのが強化兵だけなんだけど。
っと、私はそっち見てる余裕すらないってか!?
ガイウスの扱う腕三つの方がよけやすいのだけど、そのせいで的確で素早い逆の三つの腕との速度差で逆によけにくくなっていたりする。
何度か危うい攻撃を回避しつつ、距離を取ろうとするのだけど、転移した先に的確に迫って来るせいで上手く逃げきれない。
こういう場合は一気に世界の裏側辺りに転移するのが一番なんだろうけど、私がこいつを振り切った際にこいつがどこへ向かうかがわからないのがネックだ。
こんな化け物がライオネルに襲い掛かってきたら……ライオネル城ロボ化させないと対応できそうにない。
残念ながらその機構は付けようとしたけど宰相閣下が絶対にやめてくれ。と懇願されちゃったから取り付けてないんだよ。
うーん、あの時秘密裏に付けちゃえばよかったかなぁ。
「っ!?」
急に悪寒を感じて後ろを見ることなく転移。
大きく距離を取った場所に出現した私は、先ほどまで自分が居た場所へ魔法と思しき連撃が襲い掛かっている光景を見ることになった。
あ、あの化け物、あの巨体で六つ腕振り回してその全てが亜光速で動きも私についてこれてそのうえ魔法まで無詠唱で唱えてくるの!?
あ、待って。なんか私を見たあの化け物、体を抱きしめて震えだした。
次の瞬間、ばさぁっとその背中から飛び出す白い翼。
マジで天使じみた羽生えてきたんだけど!? っていうか、飛ぶの!?
ばさり、羽ばたき始めた巨体が空へと浮かぶ。
私を追い詰めようと、ついに空にまで追って来た巨人。攻撃する暇なんてない私はここからもまた逃げるしかできなかった。
神の御使いと言えば天使だけどさ。こんな肉塊生物が天使だとか世も末だわ。
まぁどう考えてもこの世界、終末状態だけどさ。
それでもこんな化け物が天使として崇められる世界になるなんて、絶対に認められない。
反撃の一手を手に入れるため、私は相手がぎりぎりまで近づいてくるのを待って魔力をため込んでいく。
まだだ。まだ抑えろ。逃げに徹して確実な隙を探すんだっ。




