1811話、ロゼ、早期決着を求めて
SIDE:ロゼ
その日、私は当然の如くマギアクロフトへと侵入していた。
強化兵どもは隠蔽スキルで素通り。
いちいち相手してられないわよ。こんな面倒な生物。
戦争が起きるなら起きる前に首謀者を倒せば終わる。
だから私が目指すのはヨーデリヒとガイウス、そして神の三人を暗殺すること。
ペルグリッドもついでに処したいけど、あいつはロゼッタが殺すの躊躇うくらいヤバいらしいし、下手に手を下してこちらが不利になっても面倒だからね。今回は狙いから外しておくわ。
事前に入手していた情報から地下施設へと向かう。
ネズミどもの話だとこの辺りのはずだけど……
あった。これよね、巨大強化兵。
十メートルは軽く超えるわね。水槽内部だからどれくらいの高さになるかちょっとわからないけど……きのせいかしら? ペルグリッドの腰ぎんちゃくどもが一緒に入ってる? それに、ガイウス!?
あのクソ男、まさか自分まで強化兵にされてるとは思わないでしょうね。
そうかそうか、そんな終わり方なのね。
それじゃあ、夢見ながら死にな!
こいつを破壊してしまえば目覚める前に消せるでしょ。こんな化け物目覚めさせる意味がないわよね!
「おっとロゼッタ嬢。そこまでにしてくれないかね」
「……あら? ヨーデリヒじゃない。貴方もここにいたのね」
魔法を唱えて一気に殲滅しようとした私に、背後から声がかかる。
変ね。人なら反応するように探知してるはずだけど。それに私、隠蔽中なんだけど?
振り向いて、理解した。
「ヨーデリヒ、あんたも人、辞めたのね……」
「神に進化して貰ってね、く、くひ、HIHIHI? ずいぶん、気分がいいんだ。今なら君相手でも、負ける気がしないね」
体半分が強化兵と同様肉が膨れ上がったような姿のヨーデリヒ。
神の奴、こいつ迄強化兵にしてしまったのか。
つまり、マギアクロフトはもう滅んでたわけね。神のやるこっちゃないわ。
「ペルグリッドはどうしたの? あいつだけ見当たらないけれど」
「神にアピール中だよ。相手にもされてないようだがね。全く、神の御加護を受ければいいのに、あいつだけかたくなにいらないの一点張りでね。そんなものより貴方の愛がほしい、とか神を相手に頭おかしいんじゃないかな」
頭以前に体おかしい自分に気付けよ。
「神はどこかしら?」
「ロゼッタ嬢に挨拶に行ったよ。ん? あれ? ロゼッタ嬢はここにいるのにロゼッタ嬢に会いに行った? あれ? あれれ? あ、ぼ、ろぽぁ?」
ついに人語すら話さなくなったか。
怪しい瞳でこちらを見ていたヨーデリヒ。
次の瞬間、私向けて跳んできた。
「くのっ」
手にしていた魔法をヨーデリヒに撃ち放つ。
ガイウス入りの水槽粉砕する威力を込めていたため、ヨーデリヒの体を軽々吹っ飛ばし壁にめり込ませる。
肉塊へと変わったヨーデリヒ。しかしすぐに再生を始める。
「ああそう、まぁそうなるわよね」
「は、ひ、くひっ。ろ、ろろろろえっだぁぁぁ?」
復活と同時に駆けてくる。
単調な動きだと魔法を用意していると、急にサイドステップ踏みながら翻弄を始めて来た。
どんなに翻弄しようが仕掛けるときは私に向かって近づいてくるので、それを見計らって魔法を叩き込む。
ほら爆散。
……再生速いわね。
あんたの相手してる暇はないのよ。さっさと倒して神を……
え?
一瞬、何が飛んできたのかわからなかった。
水槽の透明な壁が遅れて爆散し、野太い拳が襲い掛かる。
一瞬で体を庇ったものの、反射結界全てが粉砕され、私の体が軋みを上げた。
壁に激突して、一瞬意識が途切れる。
壁から剥がれ落ちたところで、ガイウスたちの融合強化兵が拳を打ち込んできたのだと理解した。
もう、動き出した!? くっ、全身の動きが……視界も赤いし、これはマズい。
ヨーデリヒもこちらに向かってくるし、二対一は分が悪い。
残念だけど撤退ね。
そもそも神がいないんじゃ襲撃失敗だわ。
このまま逃げるには余裕もないし、今の状態で回復アイテム使ってる余裕はない。
回復魔法なんてさらに無理。
「死、ネ!」
迷ってる暇、ないわね。
戦略的撤退。転移っ!!
一瞬にして視界がぶれる。
場所の指定してなかったからとりあえずロゼッタを指標にして飛んだけど、ここは……?
「……失敗?」
不意に聞こえた声に顔を上げれば、ロゼッタの姿。
彼女の周囲には無数の属性魔法球が浮かんでいた。
どうやら、二次策の準備は完了らしい。
できるなら、神を殺して終了と行きたかったけれど。
「さすがに神は殺せなかったわ。それと、あの地下にガイウスたちと思われる融合体がいたわ。あれは、ヤバい。多分私たちでも勝てないわ」
私の言葉を聞いて、彼女も覚悟を決めたらしい。
ため息一つ。眼下に収めたマギアクロフトの国を見下ろす。
「ロゼ。先に戻っていて」
「ええ。けれど、本当にいいの? これを行えば貴女はもう……」
「いつまでも、清廉潔白じゃいられないんだよ。リオネル様、嫌いになるかなぁ……」
「そんなことはないでしょ。だから、さっさと帰ってきなさいよ」
悔しいけれど、彼女にこの選択をさせたのは私ね。
神を殺せなかったのが悔やまれるわ。




