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1810話、???、戦いの始まり・ライオネル

SIDE:???


 お嬢はまだ来られてはないか。

 最後の準備を整えると言ってどこかへ転移してしまったが……

 まぁいい、お嬢に全ておんぶに抱っこではライオネル軍の居る意味がなくなってしまうからな。


 大丈夫。我々が訓練を続けた意味は、あったのだ。

 ここで大切なモノたちを守る為に、強くなったのだ。

 お嬢に導かれ、この大軍勢と共に、我々は神と敵対する。


 絶望的な戦いだな。

 負ければ大切なモノだけでなく人という種族すら殲滅されかねない。

 残るのは強化兵とマギアクロフトに恭順した国々だけ。

 アルカエスオロゥも向こうに恭順したらしい。あの聖女が他国に降るとは思えなかったが、国が国だから第三の聖女では止めきれなかったのかもしれんな。


 ライオネルから望む平原に、兵士たちが集っていた。

 ライオネル、メーテルゲルテン、デーバルデ、ザルツヴァッハ、カスタローレル、コウチャノサイテン、メルクナードにエルデンクロイツ。他にも複数の国が我が国に退避して来ている。

 兵は全て、市民もほとんどがパワーレベリングに参加しているため、他の国々よりも優秀な人材が多いだろう。しかし、ここはお嬢のホームタウン。敵の主力は確実にここに来る。


 ふふ。本来ならレベルカンストなど夢のまた夢。

 物語に出てくる英雄ですら辿り着けなかった遥か高みなのだがな。

 その実力ですら。この戦争で生き残るには心もとない、か。

 まさしく存亡をかけた神話の戦い。これではロゼッタ神教の狂信者たちを笑えないな。

 本当に、お嬢が神殺ししてくれないだろうか?


「全軍傾聴!」


 いつもの如く、手にした旗を地面に差し、私は告げる。

 たなびく旗はライオネル。

 お嬢に見いだされ、ずっと、共に歩んできた相棒だ。

 とはいえ、ポールの材質は最高硬度に変わっているし、布部分も最高硬度の素材で作られている。これで彩色を落とせば黄金色の輝きが生まれるのだから恐ろしい。

 下手に彩色する前の方が高貴に見えるのだからな。



「ライオネル王国軍総司令官、フェイル=バーデンバーグだ。今回ライオネル周辺国連合軍の総指揮権を託された。後々元ライオネル軍総司令官も到着するが、この軍を指揮するのは私だと思ってほしい」


 お嬢には遊撃を頼むことになる。

 というよりも、神を相手にするのだろうから、我々を指揮する余裕はないだろう。

 だから、マギアクロフトのことは我々この世界の人間が対処すればいい。


 そちらはお任せしますお嬢。

 だから、こちらは……

 我々にお任せを。なにより、貴女が託すに足る者たちだからこそ、私を総司令官として貴女は軍から抜けたのでしょう。

 ならば、この国を守るは我々です。


「まもなく我々はマギアクロフト連合軍との決戦に入る! 祖国、ひいては世界を守る戦いとなる。我々の背後に道はなく、ただ守るべきモノだけがある。撤退はない。逃げ場もない。援軍もない。孤軍奮闘。されど我らが負けるわけにはいかない。この背には、大切なモノがある。愛すべき祖国が、愛すべき民が、愛すべき家族がそこにいる。くじけそうな時、死にそうな時、絶望した時、少しで良い。顔を上げて私を見てほしい。お前たちの守るべきものはここにある! 祖国の象徴は、ここにある!!」


 すぐ傍に、はためくライオネルの軍旗。この旗折れぬ限り、我々は戦おう。

 祖国の為に、侵略者から守り切ろう。

 たとえ、たとえここにいる全ての兵が死に絶え、自分一人になろうとも、この背の先には決して……


「総員、唱和!」


 瞳を閉じ、考えた。

 私の人生もおかしな波乱に満ちたものだ。

 愛妻だけにとどまらず、なぜかこんな私と結婚したいと言ってきた聖女。

 何がどうなってこうなったのか。二人の仲はとてもよく、二人の妻を持つことになってしまった。

 不貞と呼ばれればいくらでも蔑まれよう。なれど。

 我が背に存在する愛する二人の妻には、絶対に指一本触れさせない。


「我らは、祖国の剣である……」


 今までの人生を思い浮かべる。

 お嬢と出会うまで、私はどうしょうもない貴族の一人だった。

 貴族としても事なかれ主義だったから、他の部隊長たちがやりたくないことをよく回された。

 苦労性だと言い聞かせ、文句も言わずにいたんだ。


「我らは、祖国の盾である」


 ずっと、そんな日々が続くと思っていた。

 堕落していく兵士たちを見続けて、いつかはこの体たらくでは国ごと終わるだろう。

 そんな諦めもちらついていて、でも認めたくなくて……

 くすぶっていた我々を、あの人が救ってくれた。


「我らが守るは国の民、平和な日々、愛しき家族」


 守れる力をくれたのだ。

 何もできず滅びを待つだけだった我々に。

 大切なモノを、守れる術を、思いを成す実力を。


「我らが背には国がある、国の中には民がいる。民の中には家族がいる」


 ならば、その力を十全に振るう時。

 あの人の思いに応えるために。

 守れる者を、守る為に。

 眼を見開き、遠方を睨む。

 ついに奴らが姿を見せた。


「ならば! 守り切れっ! あらゆる難敵襲えども!! 我らを越えては行かせるな!!」


 ああ。そうだ。

 このライオネル国旗は決意の証。

 私は常にここにいる。

 この旗の背後に一切の悪意を届かせないために。


 見るがいい全ての兵よ。

 見るがいい、マギアクロフトの侵略者よ。

 見るがいい、人の実力を認めぬ神よ!


「我こそが! ライオネル王国を守護する兵である!!」


 この旗は、この意思は! 誰にも折らせはしない!

 貴様等の悪意に屈しはしない。

 絶望よ、来るがいい。全霊を持って……叩き潰すッ!!

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