1808話、???、戦いの始まり・ヘルツヴァルデ
SIDE:???
この地に来るかどうか、ライオネル軍は最後まで迷った。
それというのも、ヘルツヴァルデのすぐ隣の国がマギアクロフトに降ったのだ。
ここからでも遠目に他国の王城に聳え立っているマギアクロフトの旗が見える。
この地は放棄してしまうのがいいのではないか?
メルクナード同様にライオネルに避難させてはどうか。
そんな話も持ち上がったのだが、結局俺たちが出張ることになっていた。
「すみませんねウチの国がまた迷惑かけて」
「プレッツィル王でよかったですかね。本当にこの地で抗うのかい?」
「正直言えば、私もさっさとライオネルに逃げたいですけどね。父から無理矢理国を継がされて、周辺国から助けを求められて、祖国から出たくないって国民から嘆願まで貰ってしまったら……もう腹くくるしかないでしょう」
「そうか、国民が願っているのか。なら、仕方ないですな」
多国籍軍の兵士たち、その質は良いとはいえない実力だ。
それでも、このメンツで戦わないといけない。
ここには、私とヘロテスが来てはいるのだが、正直戦力不足だと思っている。
おそらく、防衛の要となる七つの国、いやエグエールを入れれば八つか。さすがにあそこまで援軍を送るかは迷ったので、飛翔部隊のみを送ることになったのだが、それを含めても一番最初に敗北しかねないのはここだろう。
なにより敵軍の位置が近い。
そしてその国とヘルツヴァルデの間はほぼ平原。
つまり、伏兵を潜ませることもできず、長距離攻撃打ち放題の敵が現れれば王城や国を守るどころではなく粉砕されることを覚悟して戦わなければならない。
守るに適さない国なのだ、ここは。
ほんと、何でこんな場所に王城立てたんだ。
そりゃあ川が近いし、農地に適しているのでとても暮らしやすそうな国ではあるのだが、攻められる危険が常にある国というのも少し問題があると思う。
もう少し時間があれば国の周囲を魔改造してやれたのだが、パワーレベリングの関係で竜の谷警護をしていたからやってこれたのはついさっきである。
正直、この地形魔法で変えてしまいたいのだが、さすがにそれはだめだよなぁ。
「悪いついでなんだけど、ライオネル軍に総指揮権を任せるよ。ヘルツヴァルデの兵士たちはそこまで強くないし、訓練もし始めたばかりでライオネル程の動きはできないんだ」
「了解しました。それでは不肖私が、総司令官として指揮を行わせていただきましょう」
ヘロテスに任せてもいいんだが、あいつ絶対ぶつくさ文句言ってくるだろうからなぁ。その後強引にこっちに指揮権渡してくるんだ。
どうせ自分がやることになるなら文句など聞きたくもないのでさっさとやってしまおう。
「それで、兵士たちは?」
「国の外に集合させてる。平原での戦闘になるけど、国の、いや、最悪王城だけでも守ってくれ。国民は全員王城に避難させるから」
「了解。んじゃま、開戦の狼煙でも上げてきますかね」
王城からでて町をゴーレム馬で駆け抜ける。
丁度今から王城へと向かうらしい平民たちの一団をすれ違いながら、開け放たれたままになっている町門へと向かう。
いいのかこれ?
ああ、門の外で暮らしている浮浪者たちも王城に避難させるためなのか。
いろいろと問題起こりそうだけど、覚悟の上かプレッツィル王?
「っし、ヘロテス、兵士たちの様子は?」
先に兵士たちの元へ向かい、彼らの隊列整理を任せていたヘロテスが親指を立てる。
準備は既に完了らしい。
私は兵士たちの前に向かい、土魔法で一段高台を作る。
これで私が目立つし、全体が見渡せるようになった。
私が何かしら話をするリーダーだと思ってくれるだろう。
「あー、あー。さて」
風魔法を使って兵士たち全員に声を届ける。
「全員、聞いてくれ。ヘルツヴァルデ国の王、プレッツィル王よりこの連合軍最高司令官を任されたライオネル軍大将、アルベール=フォートライズだ。異見を唱えるのはいいが。今回は王命を拝借していることを理解しておいてほしい」
異論は、なさそうだな。
「まもなく神が宣言した時間となる。私たちは神に逆らった愚か者として、マギアクロフト強化兵による侵略をうけることになる。私たちは普通に暮らしたいだけなのに、だ。なぜマギアクロフトに神は加担する? マギアクロフトの侵略がなければ我々が戦う必要はなかった。奴らが攻めてこなければ、我々がヘルツヴァルデに来る必要はなかった。お嬢、いや、ロゼッタ・ベルングシュタットと神、その二名での話し合いや殺し合いで終わればよかった。なのに神が決断した。マギアクロフトに協力し、全世界の統一をも目指そうと。我々は巻き込まれたのだ。ロゼッタ・ベルングシュタットが悪いのではない。神がマギアクロフトと共に我らの祖国を、民を、愛する家族を蹂躙するというからっ、立ち上がるしかなかったのだ! 剣を取れ、弓を番えよ! 我々の大切なモノは蹂躙させはしないと奴らに主張してみせろ!」
ああ、来やがった。
アレが強化兵か。しかも群じゃないか。
はは、絶望的だな。平野だからこそ、その数を見て絶望感が兵士たちを支配する。
「全員、背後を見たな! 俺たちの敵がやって来たぞ。全ての国を蹂躙する侵略者がやってきやがった。だが臆するな。どんなに恐怖しようと逃げ場はない。我々には立ち向かい、抗い、あの波を突破した先にしか生存できないんだ。震えながらでいい。覚悟を決めろ。その背に存在する守るべきものを思い浮かべろ。国が、民が、家族が、大切なモノ全てがお前の背に守られている。逃げれば死ぬ、倒れれば蹂躙される。愛すべきモノを守る為、お前の全力を見せてみろ!! 全軍戦闘準備!」
さぁて、掛け声掛けながら指示出ししていかねぇとな。
今日はとても忙しくなりそうだ。