1806話、???、戦いの始まり・ウラギ=プライジャコリャ=ヨラバタイジュ連合国
SIDE:???
リーマス・ウラギ王が代表で、元プライジャコリャ王国に周辺国家を集めた。
各国の王が何とも言えない顔で顔を突き合わせているのは、つい先日までこのプライジャコリャを奪い取らんとして争った仲だからである。
ヨラバタイジュ国に唆され、四方八方の国々がリーマス王に敵対宣言をしたのである。
まぁキーリ嬢に瞬殺されて鎮圧された訳ではあるが、そんな曰く付きの国々が集まってプライジャコリャに全ての臣民を避難させている状態だ。
「えーと、今回は私が盟主としてこの国を守る訳だけど、異論は本当に無いかな?」
リーマス王は恐る恐る告げる。
とはいえ、すでに決まったことだ、今更ぐちぐちと蒸し返す馬鹿な王はいないだろう。
ヨラバタイジュの大馬鹿王は処刑された後だしな。
「では、マギアクロフト軍と対決する我が連合軍の総司令官は、ライオネル王国から派遣されたヴェスパニール=フォールデン殿とさせて貰う。異論は悪いけど認めないよ。マギアクロフト強化兵との戦闘経験はライオネル軍が一番あるからね」
「謹んで拝命いたします。各国王を前に宣言させていただきますことをご容赦ください。我々は本日よりこの国を守る連合軍となります。各国の軍全ては我が配下として使わせていただく。ではこれより軍への声掛けをしてまいります」
私はあまり納得してない王たちの前で一礼し、その場を去る。
リーマス王がここで暗殺される可能性も無きにしも非ずだが、ここにはリブロース王国の王、はなまる君もいるので最悪彼女が守ってくださることだろう。
申し訳ないが、今回はマギアクロフト強化兵対策に全てを費やすつもりだ。彼らの安否までは責任が持てないのだ。
「ヴェスパニール、どうした? もしかして柄にもなく緊張してんのか?」
「ミリスタリオン。やはり分かるか?」
当然だ。フェイルに頼まれたとはいえ、俺が総大将だぞ。
俺の采配次第でプライジャコリャに集まる無数の国家が滅びてしまうんだ。
背中に乗ったモノが重すぎていけない。
「こういうのは、初めてだしな」
「いつも通りでいいんだよ。いつもだってライオネルを背にしょってるんだぜ?」
「分かってる。今回は複数の国だという認識がな、どうしても精神的に来るんだよ」
「気持ちはわかるが、やることは一緒だろ?」
……まぁ、そうだな。
ああ、やることは一緒だ。
背後の大切なモノを全て守り切る。
我々を越えては行かせない。
ああ。そう考えると、何を背負ってようが問題ない、な。
「よし、行こう!」
頬を張って気合を入れ直す。
「うむ。その顔なら問題ない。死亡フラグだきゃ立てんなよ?」
「そりゃこっちのセリフだ。この前みたいに変なこと言うんじゃないぞ」
前の戦いの時はこれ終わったら酒場で打ち上げしようぜ。皆揃ってよ。とか言い出した時には思わず頭を叩いて兜を凹ませてしまったものである。
練習用だったからへこんでしまったが今回の防具だと手を痛めかねないな。
気を付けるとしよう。
王たちの会議室から出た我々は、王城を出て城下町、そして町門を出て多国籍軍の集まる平野へとやって来る。
すでに各国ごとに兵士たちは並んでおり、軍旗をはためかせて戦争の始まりを今か今かと待っているようだ。
「全軍傾聴!」
ミリスタリオンの言葉に各国からざわめきが消える。
「諸君! リーマス王より今回多国籍軍となった我々の総司令官を務めるよう要請されたライオネル王国軍大将、ヴェスパニール=フォールデンである。異論があるのは認める。だが今この時は、その異論を飲み込んでほしい。今回敵対する存在は、味方内で敵を作っていては絶対に勝てない程危険な軍だ。我々全員が死に物狂いで力を合わせてなお、届くかどうかわからない程に凶悪な意志を失ったバケモノたちの軍勢だ。ゆえに今までのように敵軍を適当に叩けば撤退してくれる、なんて思いは捨ててくれ。モンスターパレードの終わりがない奴だと思ってくれ。竜の谷洞窟で皆危険な魔物は倒しているな? アレが群れでくるようなものだ。敵対していた兵士がすぐ傍にいたからそいつもまとめて切り殺そう。なんて思っていれば諸共に飲まれてこの国まで牙が届くだろう。そのこと、肝に銘じてほしい。我々は一蓮托生だ。元敵であろうが共闘しなければ生存はない。全力で抗うしか生還の道はない。そして我々が突破されれば次に彼らが殺し尽くすのは、戦う力のない市民だ。君たちに大切な人はいるか? 守りたい者はあるか? 死にそうな時、もうダメだと思った時、自分の背にあるものを思い浮かべてほしい。自分が死ねばどうなるか、想像してほしい。死んでも抗え! そして自分が死ねば彼らも蹂躙されると理解しろ! 全て守って生き残る。その気概で臨んでくれ! ライオネル式で済まないが、気合を入れるために唱和を願う。全員斉唱!」
背中に背負ったモノによる緊張はいつしか止まっていた。
自分で言って自分で理解したのだ。
守るべきモノの為に、命を掛ける覚悟ができたと。
もう、大丈夫。いつも通り、やればできるさ。
ミリスタリオンに視線を向ければ、彼も頷いて返して来た。
さぁ、始めよう。生き残るのは、マギアクロフトじゃない。私たち全員だ!