1804話、???、戦いの始まり・ファーガレア
SIDE:???
その日、神により定められた侵略の時。
世界に彼らは、音もなく現れた。
世界各国、巨大国家、中型国家、いくつもの国が寄り集まって近場の国で防備を固め、ライオネルの兵士たちの一部がその国を守るために派遣されていた。
そんな国々に、一斉に、筋肉が肥大化し、醜悪な樽型生物が地平線より一体、二体……
見張り塔にいた兵士たちが声高に叫び、国中に不気味な鐘の音が鳴り響く。
空はどんよりと曇り始め、まるで神の怒りを体現するように、世界から光が消えていく。
「はは、まるで世紀末だ……」
フェイルに頼まれ、俺たちはファーガレアを守るため、この地に駐屯していたのだが、まさかこんな地獄みたいな光景を他国で目にするとは……
「さて、全員、まだ距離があるが、我が声を聞いてくれ!!」
国壁の上にたち、私は眼下に集った仲間たちを見下ろす。
ファーガレア前門前には、一糸乱れぬ兵士たちが並んでいる。
様々な国旗が掲げられ、その全ての兵が、私を見上げていた。
ここには、無数の国の志願兵たちがいる。
ファーガレアの兵士たち、ファーガレアに支配されながらも自国の兵を名乗る恭順していない兵士たち。
犬猿の仲であり、互いに国内の勢力争いをしている彼らも、今回だけは協力する。否、しなければ罪なき民が死に絶えると分かっている。だから、敵の敵を味方として呉越同舟するのである。
また、小国の一部、ファーガレアに近い国々が全国民を避難させている。その志願兵や冒険者たちも、国の防衛に加わってくれいる。
皆、いろいろと自分の敵がいることを押し殺して、使徒との闘いに参加してくれていた。
「この度、ファーガレアの地を守護するリーダー役をやらせて貰う、ライオネル王国軍副総司令官シュヴァイデン=リーデンベルグだ。地元であるファーガレアの兵士長ではないことに疑問を持つ者もいるだろうが、ジームベルク王がお決めくださったことだ。なんとか腹の虫を押さえ、私の指示に従っていただきたい。我々の目的は誰が指揮者で戦うか、ではない、ファーガレアに住む人々、ここに避難して来た祖国の仲間たち。国に存在する君たち兵士の守りたい誰かの為に、迫りくる敵を討つ、それが今回の戦いだ。目的を見失うな。くじけそうな時は思い出してほしい。自らの背後に、大切な誰かが居ることを。無慈悲に迫りくる使徒たちに、大切な何かを蹂躙させてはならないことを」
まさか、フェイルの傍で戦うのではなく、自分が代表となって他国を守ることになるとは思っていなかった。
しかし、この国は大国で、世界の国々を守るうえで滅ぼされてはならない要衝だ。
重要な国であるからこそ、私が代表に選ばれた。
祖国で戦えないことを、フェイルに恨むのは筋違い。必要だからこそ、託されたと理解している。
だから、最悪この地で倒れる覚悟をせねばならない。
必ず生きて帰るつもりだが、それはここにいる皆も同じだろう。
それでも、この中にいるどれほどが死に絶えるか……
いいや、それを今考えても仕方ない。
すでに賽は投げられた。
敵はやがてここへと至る。
こちらに援軍はなく、相手の兵力は未知数。
国を破壊されれば失敗、全滅しても失敗。守るべきものがあるゆえに、侵略者側有利の戦いとなるだろう。
あるいは、お嬢が神を打ち滅ぼしてくださるならば……ふふ、そんなことになればまさに神話の話じゃないか。
「我々は守る側だ。侵略者の数は未知数。そして我々の数はここにいるメンバーだけだ。万を超す仲間がいる。だが援軍はない。無限に迫る敵に少しずつ、すり減らされていくだろう。あるいはすぐ隣の仲間が死ぬ姿を見るかもしれない。だが臆するな。死にたくないと逃げたところで逃げ場はない。全てを見捨てて逃げたところでどうせ死ぬ。ならば死を恐れるな。必死に抗い相手を殺せ。自分の生還はあの使徒どもを駆逐した先にしかないと覚悟を決めろ。ここからは、申し訳ないがライオネル式で宣言させて貰う。全員目を閉じ、思い描け! 自分が守りたいものを。父か、母か、妻か、娘か、息子か、それともペットか。大切な家族居るか? 大切な彼女、彼氏はいるか? 大切な恩師はいるか? お前が生きてきた中で世話になった人はいないか? 酒を酌み交わした仲間はいないか? 譲れない物を思い出せ! 失いたくない物を思い出せ! お前が諦めたその時が、その全てを蹂躙される時だと覚悟しろ! 全員斉唱!!」
本来は、ライオネル王国のための掛け声だ。
だから、少しだけ、変えさせてもらう。これはお嬢からも許可を得ているので問題はない。
さぁ、戦を始めよう。
大切な物を全て守るための戦いを!
理不尽に全てを破壊しようとする侵略者から、誇りを、国を、大切な者を守る戦いを!!
だから、我々は高らかに宣言する。
我らは祖国の剣である
我らは祖国の盾である
我らが守るは国の民 平和な日々 愛しき家族
我らが背には国がある 国の中には民がいる 民の中には家族がいる
ならば 守り切れ あらゆる難敵襲えども 我らを越えては行かせるな
我こそが 世界を守護する兵である
兵士たちの鬨の声が響く。私はその決意の声を聴きながら、曇天を睨んだ。
神よ、見届けるがいい。お前たちが創造した子らの実力を!