1791話、ロゼッタ、神敵宣言
「嘘だと言ってくれ……」
しばし瞑目したあと、エリオット王は虚空を見上げて呟く。
「言えれば良かったのですが。どうにも私がバハムティルウスなどを撃破したのが気に食わないようで、双神の兄神に疎まれているようなのです」
「はぁ。つまり君を擁護するライオネルは神敵、という訳か」
「それがそうともいえなくて、ですね」
「うん?」
「妹神の方は私たちに協力的なのです」
まぁ彼女の場合純愛を見たいという理由から、リオネル様と私とロゼのどっちがくっつくかやきもきするのが好きなのだ。だから私たちを応援してくれているに過ぎないので、ここでリオネル様がどっちかを選ぶ、あるいは両方娶ります。とか言った瞬間、妹神まで敵に回ってしまうのである。
「な、なるほど。つまり純愛を見るのが好きな妹神にとっては君とロゼが死んでしまうと純愛を見ることができないので、リオネル含め三人が死なないために手伝ってくれる可能性があるのか」
「とはいえ、どうも妹神は兄神のように積極的に下界に降りてくる感じではないんですよね」
さて、どうしたものか。
「ほ、報告! 陛下! 今すぐ部屋のバルコニーより外をご覧ください! 大変なことになっております!!」
兵士の一人が慌てて謁見の間にやってきて叫ぶ。
緊急事態の際のみこうやって勝手に入ってくることを許可しているのは、ライオネルくらいのものである。
他の国だとこの瞬間あの兵士は断首確定なんだよ。よかったねライオネル兵で。私が王族に許可を出していただいたんだよ。国王に必須な緊急連絡だけは必ずするようにって。
私たちは兵士に急かされるように謁見の間から王の間へ。私も入っていいんです? サラディンもいるし今更か。
そしてバルコニーから見えた空には、巨大なディスプレイのようなものが浮かんでいた。
「あれは……ロゼッタ嬢、あれはなんだ!?」
「陛下、落ち着いてください。アレはおそらく竜珠と同じ性質を持つ魔法か魔道具です」
「竜珠と? ということは、映像を映す魔法か」
「空に、映像を映すだと? そんな魔法この世に存在するのか!?」
「現存しないのなら行える存在は一つだけ、です」
そう、それはまさに神の御業。誰が行っているかなど分かり切ったことだろう。
【あー……あー……ふむ、こんなところか】
誰かの声が聞こえた。
それはまるで雷鳴の如く高らかに響き渡り、ライオネル王国全ての民に聞かせる声だった。
【我が世界に存在する全ての人間よ、我が声を聴くがいい!!】
厳かに、恐ろし気に、それは威厳を交えて見下すように告げられた。
【貴様等人間の中に我が怒りを買った者がいる。大体は分かるだろう。ライオネル王国にいるロゼッタ・ベルングシュタットだ。あろうことか奴は自らを神と名乗りロゼッタ教なんぞを広め始めた】
いや待って。私広めてない。広めてないよ!?
【そればかりか我が世界終末の為に用意していた三つの獣を悉く殺し尽くした。まさに神に仇なすものである! その蛮行は筆舌尽くしがたし! 我が神像を破壊し、我が眷属を粉砕し、世界の理すら変えようとする蛮行、もはや許せぬ!】
う、うーん。確かに神像壊したことは、あるような、ないような?
【よって、我は奴を神敵と認定する! 奴に味方する者は全て悉く我が眷属たる使徒により駆逐させて貰う。今より一週間、貴様等人類に猶予をやる。奴を殺す、あるいは捕縛し我が前に連れてくる、あるいは敵対を表明するならば我が眷属として救いをやろう。我が眷属となる覚悟が出来た国は自国の国旗に使徒が持ってきたマギアクロフトの国旗を並べ立てよ】
ちょっと、それって実質マギアクロフト傘下に入れってことじゃない!?
【一週間後、マギアクロフトの旗がない国は使徒の攻撃対象としてロゼッタ諸共駆逐させて貰う。とくに、ライオネル王、神敵と共に国を滅ぼす愚王となるか、賢王となるか、貴様の選択に期待している】
それだけを伝えると、ぶつんっとテレビ画面が消えるように空中ディスプレイが消え……あ、ごめん、この消え方ブラウン管テレビだから今のテレビとしての消え方とは違うんだよ!?
「神敵……かぁ」
「ロゼッタ神教がついに異教扱いだな、ロゼッタ嬢」
「そのようですね。で、どうなさいますか、陛下」
「ふ、そんなことは決まっている。正直、国を思うのならば君を捕縛し、焼き討ちにでもするのがいちばんなのだろうけどな。弟の妻候補だぞ。私がそんなことするわけないだろう」
「エリオット王……」
「サラディン宰相、緊急会議を開く。大臣級は全員出席、父上とお前の父もケツを叩いて引っ張り出してこい」
「はっ!」
「ライオネルの命運はライオネルが決める。ロゼッタ嬢、君は一週間、居場所がわからない場所に逃げておくといい」
「さすがにそれは……ん?」
ディスプレイが消えたはずの空に、再びディスプレイが出現していた。
バルコニーから引っ込もうとしたサラディンを陛下が慌てて呼び止め、王妃共々四人で空を再び見上げる私たちだった。