1790話、ロゼッタ、世界大戦への序曲
荒い吐息が三つ。
武器を地面に付きさし、私、ロゼ、キーリの三人は、下手したらこの世界初の疲労で息も絶え絶えになっていたのである。
「も、もう、復活しない、わよね?」
「ロゼはん、それフラグ……」
「やめろキーリ。マジでフラグになりかねないから」
そういいながらも、二人ともちゃんと意識は敵性存在だったマギアクロフト強化兵の残骸に向いていた。
少しでも復活の兆しが見えれば全力で潰しにかかるつもりなのだ。
もちろん私だってそのつもりだ。
「ロゼッタ。あんたの作戦、多分最善だったかも、ね」
「でしょう? でも、数時間ずっと切り続けるのは、辛いわ」
三人で絶え間なく切り続け、砂のような状態から再生を続ける肉片を必死に砂に戻すこと十時間程。ようやく復活しなくなったようで、私たちは一息ついていた。
ここからまた復活してくるとか言われたならさすがにちょっと勝てないかもしれない。
「防御力がそこまで高くなかったのは幸いね」
「私たちに有効打与えるために火力極振りなんでしょ。おかげで、なんとか」
でも二体以上出てこられたら勝てるビジョンが浮かばない。
相手が単体だったから何とかなった。それだけなのだ。
他の皆は大丈夫かな? とりあえず念話しとこう。
「そ、総員そのまま聞いて。先ほどマギアクロフト強化兵と戦闘したわ。正直言うと私でも単騎で戦うのは無理。ロゼとキーリと三人で三方向から全力微塵切りで十時間越え。それでようやく一体撃破。皆がやる場合は全力出し尽くす勢いで、ダメなら撤退も視野に入れなさい!」
「不退転を皆に徹底してたあんたがそれ言うのね」
「死んだらそれまで、引けば次は倒せるかも。だから国ごと逃走させるつもりで撤退が一番、でもそれが無理なら……ともかくロゼ、キーリ、私は一足先にライオネルに戻るんだよ。王様に伝えておかないと」
「もう総司令官じゃないからその辺りはフェイルがやると思うけど、性分なんでしょうね。いいわ、行ってきなさい。ベルングシュタット領の方に戻っているわ」
「ここ、大丈夫やろか?」
「敵性存在はあいつ以外いないみたいだし、おそらく先遣隊とかお試しとかじゃない?」
どのみちここに残っても物量で潰されたら終わりなんだよ。
一度ライオネルに戻って対策立てないと。あー、いやだなぁ会議絶対ねじれちゃうんだろうなぁ。
はぁ、でも会議でないとダメだろうし、行くしかないか。
私はもう一度マギアクロフト強化兵の残骸を見る。
人だったはずの存在。それがあれほどに凶悪な存在に造り替えられてる。あれじゃもう、人間だなんて呼べる存在じゃない。
「あれはもう人と呼べないわロゼッタ。だから、殺人じゃないわよ」
「そう、かな?」
「これからきっと何体もアレを殺すことになるわ。そしてアレを作ったのも、もう分かるわよね?」
「マギアクロフトだけじゃアレは無理。どんなに頑張っても人だけでは人の限界は越えられない、でしょ?」
だから、私たちと同等以上の生物を作るなら、それは確実に、神の御業。敵は、マギアクロフトだけじゃない。この世界の神が、ついに直接参戦してきたんだ。
「覚悟、決めなきゃ」
「難儀な性格ねぇ。敵だから殲滅、でいいじゃない」
「主はん、これはノーカンや、まだ主はん同族は殺しとらんて」
そういう問題でも、ないんだよキーリ。
「んじゃ、行ってくるね」
二人は馬車で帰る、いや、さすがに馬車の従者さんいなくなってるし、キーリ、一応クライトラントの王様に概要説明だけ伝えて帰っちゃえばいいよ。馬車いらないって自力で、ね?
「りょーかいや」
キーリの話を聞いてすぐに転移する。
ライオネルの王城前へと現れた私に、王城を守っていた兵士たちがすぐさま反応した。
「お嬢待ってました!」
「国王陛下がお待ちです、さぁ謁見の間へ案内します!」
「お、おぅ……」
話が早いのは良いんだけど、早過ぎるとこっちの反応に困るんだよ!?
私は案内役の兵士に案内されながら、謁見の間へと向かう。
扉を開くと、玉座に座るエリオット王とマルチーナ王妃、そして傍に佇む宰相サラディン。
「ロゼッタ・ベルングシュタット。待っていたぞ。時間が惜しい。臣下の礼など面倒な礼儀作法がいらぬ。マギアクロフトに関する状況を述べよ」
「はっ。クライトラントにてマギアクロフト強化兵と対峙しました。私の反射結界十連を拳一つで割り砕き瀕死の一撃を与えられました」
「え、ロゼッタ嬢が?」
「サラディン」
「……失礼」
どうやらサラディンが驚きで声を出すのも禁止されているらしい。今は私の報告最優先で話を折ってはならないらしい。
「敵性体自体はその場にいたロゼ、キーリと私の三名でひたすら切り続けることで十時間弱、敵の再生能力切れが確認されました。砂粒大ですら再生してきたこと、私の結界をたやすく破壊すること、人間の限界値と思われるレベルカンスト状態の私たち三人がかりでようやく戦えることを鑑み、これを人の手で作り上げることは不可能と判断しました。よって……」
私の言葉にエリオット王が喉を鳴らす。聞きたくないが、王として聞かねばならない言葉なのだろう。
「マギアクロフト側に、神が居ます」
敵は神、その事実は、理解していたエリオット王でさえ頭を抱えるほどだった。