1789話、ロゼッタ、三位一体
遠く潮騒の音が聞こえる。
いつの頃だっただろうか?
仕事に疲れて海が見える場所に向かったんだ。
休みの日に電車を乗り継いで、当てもなくただ海を求めて。
何時間経ったっけ? ようやく見つけた場所は海岸で。夜中に一人、佇んでいたっけ。
音を聞いていれば自然精神が落ち着いてくるような気がして……
次の瞬間ライトが当てられて地元のおっちゃんたちにここは進入禁止だべ、とか自殺はやめるだぁ、とか言われて強制連行されて海岸から連れ出されたっけ。
うん、良い思いでとかじゃなくただの黒歴史なんだよ。
って、今のもしかして走馬灯見てた?
ふっと、意識が浮上した。
全身に激痛。
意識しても体が動かない。
むしろ意識もすぐに痛みで途絶えそうになる。
体が死に瀕している。
理解した。このままだと、私は死ぬ。
全身の骨という骨に感覚がない。
動かそうとするが動く場所が見当たらない。
瞬間的に体を動かすのを諦め魔力に意識を向ける。
アイテムボックスからソレを魔力の腕で取り出す。
急げ、急げ、命が尽きるその前に……
エリクシールとアムリタの混合霊薬を無理矢理自分にぶっかける。
ぐぅぅ、痛い痛い痛いっ。
何でこんなことに、というか今どういう状況?
頭回ってないから理解も出来ない。
とにかく、生存本能に従ってアイテムボックスに腕を突っ込みもう一つ混合霊薬を取り出し、今度は瓶を割らずに蓋を開けて一気に飲み干す。
けぷっと思わず口から漏らし、私は自分の体の動きを確かめる。
変なくっつき方はしてない。精神も大丈夫、ようやく頭回って来た。
そうだ、私真上から襲ってきた巨大な人型に殴られたんだ。
反射結界十連で張ってたのに全部粉砕して殴られた。
それってつまり、相手は私よりも格上だってことだ。
私、レベルカンストだぞ!? それより格上とか意味が分からないんだけど!?
今は、喧騒が聞こえる。
どうやらロゼとキーリが戦ってくれているようだ。
追撃されていたらさすがに私も死んでいた。
よし、体調問題無し、体の動きに軋みなし。
ロゼッタ・ベルングシュタット、完全、復活!
よくもやってくれたなコノヤロウ。タダでは済まさんっ。
アイテムボックスに手を伸ばす。
取りだすものは、最高硬度に打ち直してもらった龍鱗殲滅刀。
柄を握り、刀身を引き抜く。
「スキル発動、身体強化、腕力強化、脚力強化……永続自動発動システム起動。多重強化できるものは全部使う。全力全開、確実にぃ、ぶっ潰す!」
「主はぁん!」
一歩、砕けた地盤を踏み越えて。
二歩、全ての力を一点に。
三歩全力、滅鬼ノ太刀!
踏み込みと同時に敵性生物を増したから切り上げる。
衝撃波が巻き起こり二つに割いた物体を内側から巻き込む様に破壊する。
「ロゼッタ、超速再生有りよ!」
「っ!」
ロゼの言葉に残心せずにその場を飛びのく。
一瞬遅れ、断ち別れたマギアクロフト強化兵の拳を私のすぐ隣を粉砕した。
あっぶな、ロゼの言葉で回避に移って無かったら、颯爽登場してぶっ殺されるお約束キャラになるとこだった。
「結局なんなのこいつ!?」
「私が知るか!」
「ウチ等だけじゃ勝てそうにないんやけど、主はんなんかいい方法ある?」
かーっ、さっきの一撃ももうくっついてるし。
こりゃ確かに再生能力が頭おかしいレベルよね。
「これって二つに割いたあと引き離したらどうなると思う?」
「嫌よ、二人に別れたら勝率がさらに下がるわ。すでに1%未満なのに」
ロゼでもそう考えるか。
確かに、結界が意味を成さないとなれば私たちの実力を軽く倍以上越えてる可能性がある。
まぁ攻撃力だけだろうから防御はそこまで突出してないだろうけど。
しかも暴走状態だから防御したりフェイントしたりして来ないのがいいよね。愚直な攻撃ばっかだからよけやすくはある。
むしろそのおかげでまだロゼもキーリも致命傷受けてないってだけだけど。
一撃でもまともに食らえば、おそらく瀕死。二撃目はどう考えても耐え切れない。
「仕方ない。ロゼ、キーリ、三位一体攻撃を仕掛ける!」
「「は?」」
「つまりジェットストリームア……「そっちは聞いてない!」」
「えと、主はん、ウチ等協力しても勝てへん、いう話やん?」
「そうよ。おそらく数時間、下手したら数日掛けて倒すしか……」
「ロゼは右、キーリは背後から洩れを確実に、全員一斉に切りかかって微塵切りにしてやるんだよ!」
「! そういうことっ」
「どーいうこと!?」
「とにかく斬りまくれってこと! 作戦開始! 十六分割なんて生ぬるい。再生できなくなるまで粉々に砕いて遺灰にしてあげる!」
「短期決戦。フルスロットルで駆け抜けるわよキーリ!」
「あーそういうことなん。了解や!」
私は左、ロゼは右。キーリは背後に回って一斉に突撃。
さぁ、どれだけ再生するか、見せて貰うんだよ!