176話・ロゼッタ、私への客が多いんだよ? その2
店に戻ってルインクさんにクラムサージュの面倒よろしくと伝える。
とりあえず軽食取らせとけばしばらくは放置しといても問題無いんだよ。
ルインクさんの食事美味しいし。
で、商業ギルドのギルド長を応接間に案内しようと思ったんだけど、丁度店に入った途端に、カウンター近くで私を待っていたらしい、魔術師ギルドのお爺ちゃんとお婆様が軽い会釈。
いやいやいや、なんで御二人来ちゃってるの?
「おーうロゼッタ嬢、なんか商業始めたっつーから来てみたぞー」
「ウチのジーニアスがごめんなさい。別に冒険者ギルドへの来訪禁止なんてないから気にせず来てくれてよかったんですよ? それとお話が」
魔術師ギルド長たちとの遭遇で呆然としていた私に、背後から声が掛かる。
振り向けば、そこにはライゼリュートさんとペレーラさん。
冒険者ギルドまでギルド長が御来訪遊ばされた。
「「「ん?」」」
三つのギルド、その長がこんな場所に相集う。
いや、なんだこれ?
「えーっと、その、今から商業ギルドの方と話し合いを……」
「せっかくじゃ、ご一緒しようかの?」
「ゲルタ?」
「こちらも用事がありますし、冒険者ギルドもご一緒させてください」
「ペレーラ?」
えー、まぁ、私としては一回で済むから良いんだけども。
リオネッタ、悪いけど先に応接間整えて来て。
七人が使用できるように。
「さすがにムチャ振りじゃないですかお嬢様……いえ。ガンバリマス」
ごめんね。でも子供たちは忙しいし、段取り良さそうなルインクさんはクラムサージュに貸出中だ。
必然的にリオネッタになるんだよ、当然の結果なんだよ。ディアマイフレンド。
リオネッタができるだけ整える時間が出来るよう、少しゆっくりと、歩く。でも、皆押し黙ったままなんだよ。大丈夫かな?
応接間に着いたけどさすがにこの短時間で用意は無理だったらしい。
仕方ないのでリオネッタには椅子を取って来て貰って室内の改革は私が実践する。
応接用だけどさすがにこの人数相手になるとソファだけだと足りないんだよ。
うん、そういう訳で、私はダイニングルームのレコール君愛用の椅子を御借りしました。
皆は各ギルドごとにソファ一つを陣取り、冒険者ギルドの御二人には同じくダイニングルームから持って来た椅子に座って貰った。うん、ソファ二つしかなかったんだよ。あと二つくらいふやしとくかな。
三脚の丸椅子である。木で作ってある名匠の一品ですよ。
「えーっと、結局どうしたらいいのかしら?」
「あー。そうじゃの。さすがにお嬢さんにこの空気で仕切れ、というのは酷じゃろ。まずは儂らの用件からでよいかの?」
「ああ、もともと優先度が高いのは爺さんだしな。俺らの話は最後でいいぜ」
「儂らの方も軽い用件じゃし急ぎではないぞ」
どうやら商業ギルドからの用件が一番手になるようだ。
「では、まずは初めましてじゃな。商業ギルドギルド長。アランザムじゃ。後ろのは既に知っておるじゃろうが、人材派遣担当のステイツじゃ、よろしくの」
「はい、よろしくお願いしますわ。私はロゼッタと申します。このプライダル商会のオーナーをさせていただいておりますのよ」
「うむ。聞いておる。実質店の経営は店長として登録されているエルフレッドじゃったな」
「ええ。前の店で貴族に絡まれて困ってらしたので。なら丁度新しく作ろうと思っていた商会経営に引き抜こうかと。さすがに経験者は段取り力が違いますわね。正直、彼が来てくれて助かっておりますわ」
「それは重畳。しかし、軽く見させてもらったが、この商店は随分と変わっておるな」
「あら、そうかしら? お金を払って商品を買う。商売の基本でしかないと思いますが?」
「ふぉっふぉっふぉ。ようも言いおる。商品を店内に並べず見本のみで引き換え値札の持ち込みで会計。これならば不正に商品を盗む輩も盗む商品がなくてどうしようもなかろ。値札だけ奪っても無駄だしの。さらに行列じゃ。普通あそこまで規則正しく並ぶことはないんじゃぞ? 子供たちが案内することで列を作るよう仕向け、冒険者が絶えず見回りすることで暴動と危険を潰し、トラブルを無くす。さらに一列にすることであとどれだけ待てば店に入れるかが分かるし、確実に自分が入れる時期が分かるのが良い」
え? 行列も高評価だ!?
まぁ、この世界だと日本の行列は異常なんだろうね。多分順番待ちとか絶対にあり得ない筈なんだろうと思う。
うーん。今は平民だけだから問題は無いんだけど、貴族が来た場合についてはちょっと考えとかないとまずそうだなぁ。まずは構想からだから数日かかるかも? どういう形態にしよう?
「商品に関しても他の店で取り扱っているモノは適正な値段で売ってあるし、置いてあるのは凡用品じゃった。これならば他の店から苦情は来るまい。それにこの店独自の商品はどれも見掛けたことも無いものじゃ。プリンじゃったか。アレはなかなか美味いの。ただ、儂は羊羹の方が好みじゃが」
「ありがとうございますわ。ギルド長から直接お褒めいただけて嬉しく思います」
「うむ。本来ならばこのまま精進せい。とだけ言えばいいんじゃがな。少々、出過ぎじゃの」
出過ぎ?
「出る杭は打たれる。主の商店は少々目立ち過ぎだ。ゆえに他の商会から圧力がかかるじゃろう。あるいは傘下に入れと言われるかもしれん。場合によっては妨害もあるじゃろ。下手な妨害を受ければ客足は遠のくし、それに……まぁ、いろいろとの、あるじゃろ? じゃからそう言った危険をギルドが間に入って解決することもできての、その為の金額が……」
皆まで言わせず、私は笑みで持って返す。
「アランザム様の御心配はとても参考になります。私としてもとても気がかりですのよ。私が雇った子供たちに誰かが危害を加えてしまわないか。ええ。もしも加えてしまったら、そこの商会が潰れてしまいますもの」
「……ん?」
アランザムお爺ちゃんは想定していた言葉とは違った言葉を受け取り、理解が追い付かずに小首を傾げた。あは、なんか可愛い。あの髭リボン付けたげたい。