175話・ロゼッタ、私への客が多いんだよ? その1
「いやー、今日も大盛況だねー」
初日、さすがに客が来過ぎたので今日からは商品を多めに作成、ルインクさんには苦労掛けました。
あとさすがに彼だけだと負担が大きすぎるのでウチの料理長にお願いして大量に作っていただきました。
これでプリンと羊羹以外は在庫大量だぜぃ。勝ったな。この二つだけは時間限定品にしておくんだよ。その方が客寄せになるみたいだし。作るの大変だし。
ギルドに頼んで応援の増員頼んだし、ルインクさんがカウンターに出なくても良くなったから料理の追加も可能になった。クッキーは皆が頑張って焼いてたので昨日より数が多い。
昨日は興味本位で皆クッキー買って行ってたから、今日からが勝負だな。皆の作ったクッキー、ちゃんと売れるといいなぁ。
「クソみたいに大盛況だな、人手が足りないんじゃないか?」
「あら?」
背後から声が掛かった。
聞き覚えのある声だったのでゆっくりと振り向く。
少し不敵な笑みをしてしまったのは許して欲しい。わざわざこいつが声を掛けて来たんだから挑発的になるのは仕方無い事なんだよ。
「いらっしゃいカリバル。残念だけど私の店ではかっぱらいは出来ないわよ?」
「はっ。随分と余裕そうだな。良いのか? 俺を雇いたいんじゃねーのか? 人手が欲しいなら手伝ってやってもいいんだぜ?」
「お生憎様、人員は間に合っているわ。あなたは自分から出て行ったのだから、もう店員として雇う気はありませんわ」
「ッ。テメェ……」
「見ての通り忙しいの。用事がないならお帰りなさいな」
無言で睨むカリバル。しかし、私が譲る気はないと分かったようで、舌打ちと唾吐きを残して立ち去って行った。
「……いいのか嬢ちゃん?」
「影のおっちゃん。良いんだよ。そもそも、彼が何かできると思って?」
「いや、通常なら何も出来やしねぇと言いてぇんだが、ああいうのに足掬われるってのが世の常だぜ? 夜道で刺されるとか、笑い話にもなんねーぞ?」
「私、結界魔法使ってるから暗殺者相手でも寝首かかれないんだよ。そこは安心かな」
「そういやそうだった。お嬢は心配するだけ無駄だったな」
「いえいえ、心配してくれてありがとおっちゃん」
「……それが仕事だからな」
おやおやー? ちょっと顔赤くなってない? 美少女にお礼言われてドキッとしちゃったのかなー? はぅっ!? 自分で美少女宣言とか、良く考えるとイタい!?
「ちょっとあなた!」
ん?
聞き覚えの無い声が私に向かって来たので振り向く。
こちらにずびしっと指先向けた活発そうな女の子が一人。
ショートカットで一見ボーイッシュにも見えるけど、カチューシャが可愛らしいので女の子だと分かる。
というか服装可愛いな。どっかのアイドルかな? オレンジ色を基調とした濃淡で裾とか襟を表現したミニスカファッションだ。オレンジな髪と相まってなんというか、ホント可愛い。羨ましい。私なんて笑顔がSAN値チェック付きなのに。
「ごきげんよう」
「え? あ、えっと、ごきげんよ……あっぶな。ミニスカートでやったらパンツ見えちゃうっ」
ちょっとオツムが残念な子なのかな?
「ま、まさか、私を辱しめるために!?」
「いえ。普通に挨拶ですわ。それで、貴女はどちら様?」
「あ、そ、そうだわ。貴女、てんせ……っと、ちょっと失礼(転生者でしょ)」
ちょっと失礼、と言った後、無遠慮に寄って来て耳元に小声で告げて来る。
お、おおぅ!? なぜバレたし!?
「出来れば穏便に、私のスタート地点返して欲しいんだけど」
スタート地点?
小首を傾げてこてんっとしてみれば、彼女も首を傾げる。
二人揃って意味が分かってないんだよ? 困ったな。
「あの、もしかしてライオネル王国の錬金術師、知らない?」
「錬金……ああ。確かにイアイアワールド社が出してた気がするんだよ。でもこの世界はライオネル王国の姫巫女の方なんだよ?」
「いやいや、だって私が主人公のクラムサージュで……」
「「ん?」」
二人揃って小首を傾げる。
これは、ちょっと詳しく情報交換が必要なのでは?
「お嬢さん、ちょっとよろしいかね?」
私とクラムサージュが同時に小首を傾げていると、横合いから声が掛けられた。
反射的に私が振り向くと、おや、そこにいるのはステイツさん。ステイツさんが付き人のように一歩後ろで待機しており、髭がふっさふさなお爺さんが私の元に近づいて来た。
ステイツさんが商業ギルドの人材派遣担当者だから、その上司だね。これは応接間案件だ。
「少しお待ちを。クラムサージュさん。詳しい話は後で、お時間があるようでしたら店内でおまちいただけますか?」
「え? ええ。時間はあり余ってるから良いけど……」
「ではご一緒に」
クラムサージュにそれだけ告げて、私は声を掛けて来た人物に向き直る。
「お待たせしました。商業ギルドの方とお見受けしますが、よろしければ店内でお話などいかがでしょう?」
「おお、これはご丁寧に。御言葉に甘えさせていただこうかの」
ふぉっふぉ、と髭をさすりながら好々爺といった様子で同意して来るお爺ちゃん。多分だけどギルド長か副長さんだろうなぁ。