158話・ロゼッタ、悪役令嬢式従業員育成法8
午後の作業は勉強会。
皆教室に待機して貰い、私が先生として教鞭を取る。
皆に羊皮紙を渡し、インクとペンの使い方をレクチャー。
その後は数字の書き取りをしてもらう。
いやー、こっちも数字だけは変わってなくてよかったよ。
アラビア数字とおんなじだったからね。
なので1を【いち】と教えるのに苦労は無かったんだよ。
書き取りの方法は1と書きながら【いち】と声に出す。
10回1を書いたら次は2を【に】と言いながら10回。
皆初めてのことなので必死に書き始める。
かなりミミズがのたくったような文字になってるが、これは書き続けて行けば問題は無い。
うん。皆熱心で結構。
やはり底辺を知ってる浮浪児だから這いあがれる方法を知ったらガムシャラだね。
ふっふっふ。これぞ悪役令嬢式従業員育成法なのだよ。
タダで雇った人員を自分の都合のいい人材に成るように育成。
そうすれば、自然私に恩義を感じてこの店に貢献してくれる。
そうなれば私は何もしなくとも、先輩達が勝手に後輩に教え始めて皆が高め合うから接客とかもどんどんよくなるし、私がいなくとも店が回るようになる。
そしてそんなメンバーだから横領だとか心配する必要もなくなるんだよ。
皆して恩義に報いようとするからわざわざ浮浪児に逆戻りするようなことをしようとは思わないんだよ。
つまり、後々楽して左団扇。これぞ貴族。これぞ悪役令嬢。
本人高みの見物で勝手に皆が働いてくれるんだよ。
なにもしなくともお金が溜まって行くんだよ。
OL時代から何時か自分の会社持ってしてやりたいシステムだったのだ。
おーっほっほっほっほ。笑いが止まらぬわーっ。
「ねーちゃんどうしたー?」
「なんでもありませんわ。おほほほほ。あ、次は7ね」
いけないいけない。思わず授業が止まっていたわ。自重しないと。
この野望を明るみに出してはいけないわ。
あくまでも彼らにただ手を差し伸べた心優しい令嬢で通すのよロゼッタ。
ふふ。目指せ左団扇の億万長者。
「はい、次は8よ」
「なぁねーちゃん、この数字? っていうのは何のために使うんだ?」
「あら? 見覚えは無いのかしら?」
「見覚え?」
クライマル君が小首を傾げる。
「君がよくかっぱらってるお店に書かれてなかったかな?」
「え? んー……あっ! 値段!」
「正解。そう、この数字というのは値段に使われてるわ。つまり、これを覚えればモノの値段を知ることが出来るようになるわけね。他にもいろいろあるけど。今の貴方たちには一番重要な文字よ。覚えておいて損は無いわ」
「そういうことなら頑張れそうだ。なんで覚えなきゃいけないのか分からなかったけど、そっか。これを覚えるのが商売ってのに必要なんだな!」
「あ、そっか、この数字を扱えば私達もモノが買えるようになるんだ。捕まってぶたれたりしなくなるんだよね!」
おお、自分たちにとってどう必要なのか分かったとたんさっきより真剣になった!?
それから9までの数をしっかりと書かせて、今日は一旦休憩。
頭を使ったので休憩におやつも追加してゆったりさせた。
食も細いからしっかり食べさせてあげないとね。
あんまり食事を増やすのも悪いけど、出来るだけ食べさせたげないと。今が育ちざかりだもんね。
さて、後半の授業はっと。
この世界の言語だね。日本語に類する【あ】から【ん】までの言語なんだけど。この世界の場合は英語の方が近いみたいだ。26文字を組み合わせて言語を作っているから覚えるまでは大変だけど覚えたら楽……いや、単語覚え切ったら楽、かな。うん、私はロゼッタの知識があったから普通に喋れるけどね。
皆も喋るだけは出来てるみたいだから書き取りもそれなりに出来るようになると思うよ。
うん、多分。綴り違いは多そうだけど。
「なぁねーちゃん。これは?」
「これ? ああ、何に使うものか、ってこと?」
「うん、それ。何のために覚える奴?」
「これはこの国の言語よ。例えば、はい。これ、読めるかな?」
適当な文章を書いて皆に見せる。
多分だけどパラセル君とレコール君は読めるだろう。一応貴族とその付き人らしいし。
「んじゃーパラセル君」
「え? あ、えっと。私はこの文字が読めます、でいいんですよね?」
「ええ。ここに使われてる文字、今皆が書いてる文字でしょ? 26文字ある文字を覚えたらこうして文章を覚えて行く予定よ。単語を理解して文章が読めるようになれば屋台とかに書かれてる文字が読めるようになるわ」
「あ、これが、文字なのか! そういえば見たことある!」
いや、見たことあるって、今まで気付かず書いてたんかいっ。ま、まぁいいや。皆が覚える気になってくれたなら問題ないよ。
でも、理由を見付けたからか皆の書き取りスピード上がったのは良いことだと思います。皆修得早いな!?