157話・ステイツ、全力で面接しなければ、殺されるっ
私の名はステイツ。
平民なので姓はない。
しかしながら持ち前の商魂と話術の御蔭で商業ギルドで人材派遣担当に抜擢されたのです。
仕事自体は大変なこともありますが、基本商業者の求める人材の確保と紹介です。
相手は大手商店から新企業立ち上げ店まで様々。出来るだけその仕事に見合った人材を見繕うのが私の仕事です。
いままでは、ええ、いままではやりがいのある仕事でしたし、そこまで困ったことはなかったのです。
今回の人材派遣、正直最初は楽だろうと思っていました。
相手は貴族の御令嬢。
目的は新しく始める商店の従業員たちを寮に住まわせるのでそこの食事係が欲しいとのこと。
どうやら浮浪者を従業員に仕立てるそうで、給金の代わりに衣食住と勉強を確約して確保したそうだ。
この辺りは普通の商業者では思い浮かばない新しい業務体系だなと感心しました。
しかし、やはり人材育成に金が掛かるのは確実。
さらにどれだけ周囲の口を塞いでも、従業員が元浮浪者だということは人々に伝わることでしょう。
そうなれば、商業を行う上でマイナス効果。儲けが減る可能性は高いと思われます。
ゆえに幾ら金を掛けないといえども、礼儀も成ってない浮浪者たちでは下手なギルド会員の従業員と比べて掛かる金額は割高になる可能性が高いのです。
そんな損して得を取るような商売方法を行うゆえに、給仕係は浮浪児相手にも分け隔てなく付き合える存在が必要になるのだとか。
つまり、その人材が浮浪者たちを罵倒したり意地悪したりすれば、紹介したギルドの問題に直結。そして、そうなった場合は、と彼女は物凄い悪人顔で告げたのです。
自分の家の力使って地獄に突き落とすぞ、と。
直接は言わずとも理解できました。
あの人は、やると言ったら必ずやる。
そしてそれは、従業員に何かを行おうとする商売敵にも向かいかねない。
恐ろしい商店が誕生してしまいそうな予感がひしひしとします。
ゆえに、ギルド長に即座に報告。
要注意商店として登録し、経過観察、ギルド員の常時監視を行うことになりました。
加え、寮に相応しい人物を各ギルドで募集。
今回来たのは厳正な書類審査を通った四人の人材でした。
一人は面接の段階で不適格。
本人は分け隔てなく接することができますといっていたものの、それは分け隔てなく自分以外を見下してますという意味だった訳で、あんな高飛車女雇ったら商業ギルドごと潰されかねない。
最悪でも私が殺される。
ゆえに即行切り落とし、別の三人の面接に力を入れる。
全力でつぶさに観察して相手を見極めねば。こ、殺されるっ。
あのロゼッタというお嬢様に闇に葬られてしまう。
「では、面接を始めます。合同面接に成りますが、ご了承ください」
「は、はぁ、それは良いですが、先程の方も面接希望者の人、では?」
「たった一つの質問で帰ってください、はさすがに酷いと思うんだが……」
「確かに、かなり厳しそうな人でしたけど……質問されたことに対してはしっかりと自分の意見を述べていたような……?」
先程からも四人で合同面接を行っていたモノの、件の女性の回答に思わず帰ってくださいと言ってしまった。面接官としていきなりここで告知するなど酷いとは思う。思うのですが……
「申し訳ございません。こちらも命が懸かってるんですっ」
「「「えっ?」」」
「募集して来られた方の要望を外す人材は選べないんですよっ、切実にッ」
どんな顔をしていたのだろう?
気楽に面接を受けに来ていた三人の目に真剣さが宿る。
余程目が血走っていたのかもしれません、しかし、こちらも本気で面接させていただくため、気を抜く訳には行きません。
「ゆえに、取り繕った回答は不要。今回に関しては自分の想いを素直に告げてください。ここに就職するということはすなわちギルドの命運を握ることと同意であるとご了承ください」
「そ、そんな大層な……あ、いえなんでもありません」
ギロリと睨むと小柄な少女は慌てて首を振って何でもないと告げて来た。
「では、面接を始めます。今回の仕事は半永久的就職の可能性がありますが、基本は寮に住まう者たちが自分で作業できるまでの補助的役割が強いです。ゆえに有能であればそのまま就職、従業員たちより仕事が出来なくなればおそらくそこで契約終了。つまり何時切られてもおかしくないということです。このことを御了承頂けない場合は席をたち、先程の彼女同様お帰りください」
ここでまた一人、席を立つ。
思ってたのと違ったらしい。
残った二人はどうか?
一人は男性だ。あまり家事手伝いなどやるべき存在とは思えないのだが、一応実施テストに関しては高得点だった。むしろ面接対象の中では飛び抜けた料理の腕前だ。
もう一人は小柄な少女。
正直背丈からするとロゼッタ嬢と同じくらいに思えるのだが、家事に関してはそこそこ。おそらくしばらくすれば従業員たちに抜かされるだろう程度の実力だ。
ただし、ロゼッタ嬢の要望からすれば一番適任とも言える。
四人になるまで書類選考で必死に絞った上でのこの二人。他にもいくつか質問したものの、決め切ることは出来ず、ロゼッタさんに直接決めて貰うことにするのであった。