152話・レコール、困った仲間
「ふはぁ、またベッドで寝られるなんてな」
んーっと背伸びをして、私は起き上がる。
私、なんてどれだけぶりに自分の事呼んだだろ。
路上生活中は貴族としての生活など忘れて、俺と自称しながら必死に生きて来た。
心に余裕がなかったから、必死に自分を強く見せようとしていたんだ。
御蔭で子供たちが集まって来て、皆で協力すればなんとか生活出来るグループを作り上げることに成功した。
例え一人が失敗しても他のメンバーが食料を調達すればいい。
御蔭で今まで生きて来れたのだ。
たまに、浮浪児の餓死死体が路上に転がってるが、私達は生存し続けたのだ。
なんとか人並みの生活が送りたいとは思っていたが、まさかまたベッドで眠れる日が来るとは。
思い切り昼から夕方にかけて寝入ってしまった。
いままで路上の硬い地面が寝場所だっただけに、この柔らかさは抗いがたい物がある。
いや、確かに貴族生活でのベッドからすればこれはベッドとはいえないと声高らかに宣言してもいいのだろう。
貴族のベッドはふかふかでもっと寝心地は良かった筈だし。
でも、でもだ。下手な市民よりも安全に快適に寝られるベッドなのだ。
こんな寝心地を知ってしまったら、もう路上生活になんて戻れる訳がないだろう。
「ふぁ~。おはようございますレコール様、いいですね、周辺を気にしながら寝なくていいって」
「パラセル。苦労掛けたな。私に付いて来たばかりに……」
「いえ、あ、レコール様、昔に口調が戻ってますね」
「この家が安心できるとわかったからな。ああ、一応全体を見回ったが、御蔭でここが安全だっていうのは理解出来た。外に出るのを禁止というのは外に張られた魔力が何かしら作用してるのだろうな。アレはかなり強力だ。外からのモノを通さないようだ。おそらく掛けた本人以外は解けないんじゃないかな?」
「寝る前に見回っている時感心してましたけど、そんな凄い魔法が? 私は魔力を見る術を持ちませんのでよくわからないのですが?」
「基本魔力を見れるかどうかは魔力に触れたことがあるかどうかだ。貴族でないなら仕方がないさ。しかし、今回の貴族に付いて行く決断、英断だったやもしれんな」
「それは良かったです」
もともと、パラセルは私の執事となる予定の少年だった。御蔭で私がこの国に逃げる際、一緒に逃げて来たのだが、路上生活をさせることになろうとは思ってもみなかった。
私を見捨てることなく本当によく尽くしてくれたものだ。忠臣だな。見限られないようにしないとな。
そのためにも、リーダーとしてこれからのことを皆に伝えておくとしよう。
「もう夕方だ。全員を一旦起こして食堂に集まろう。顔を洗いたいな。確か洗面所という場所で顔を洗えるのだったか?」
「ロゼッタ様がそう言ってましたね。別れ際の口頭説明でしたが、そこで顔を洗ったり歯磨きをしたりするのだとか、明日の説明だそうですが?」
「できるのならば今しても問題あるまい。行くぞ」
この寮という場所、子供たちだけで生活ができるよう、文字さえ読めれば使い方が分かるように要所要所に説明文が立て掛けられている。
御蔭で洗面所の使い方をある程度把握できた私は顔を洗い、さっぱり気分で皆を起こして回った。
そういえば、カリバルの奴部屋に居なかったな。まぁ元から一人で行動するタイプの少年だったし、私達と行動していたのは飯にありつけるからという理由だけだったから、気に入らなくて居なくなったのかも知れない。
食堂に付くと、ああ、こっちに来てたのか。
既にお昼の残りを食べ始めているカリバルがそこに居た。
皆もソレを見て遅れてなるかと食事を始める。
慌てなくても自分の分はあるんだが。
ああ、私のぶん、まだこんなに残ってるのか。
うぅ、昔なら全部食べられたのにな。今は三分の一食べるだけで満足してしまう。
「美味しい、この葉っぱ美味しいっ」
それはレタスっていうんだよララーレ。
「パン。屋台の硬くて黒いのじゃない。真っ白、ふわふわ」
本当にね。私も食べたのは初めてだ。一応貴族の朝食には白パンは出て来たが、ここまで軟らかくは無かった。
一体どんな方法で作ってるんだろうか?
「チッ。お前ら呑気だな」
カリバル?
いち早く食べ終えたカリバルが席を立つ。
「俺はこれから狩りに出るぜ。どうもあの女いけすかねぇ。ここにいると後悔することになるのは分かり切ってる」
「それは……また路上生活に戻るってことか?」
「ちげぇよレコール。今まで通り自分たちで食料を調達しに行くだけだ。何が外に出るなだ。俺らだって人間だぞ。檻に閉じ込めれるとか思ってんじゃねぇ」
「いや、それは違うぞカリバル。外見てみたが、確かに魔力による外敵避けの何かが張られてるんだ。彼女の言った通り、こっちから出るのは可能だろうけど外から入って来るのは無理みたいだ。一度でも出ればもう、ここには戻れないぞ?」
「はっ! そんなにあの女に尻尾振りたいのかレコール。まァ見てなって。あの女の鼻っ柱折るために、俺が証明してやるよ。ちょっと露天でかっぱらってくるぜ」
「あ、おいっ!」
止めるのも聞かず、カリバルは外へと向かって行った。
ああクソ、あの魔力の事、もっとしっかり伝えてれば……
いや、もう遅いか。今から追いかけると私もここに戻れなくなる。
さすがにそれは、辛い。
折角皆と楽しい暮らしが待ってそうなのに……カリバルの馬鹿野郎。




