142話・ロゼッタ、雪が降ったと思ったら別のモノだった
冬が来た。
8歳の終わりが近づきつつある。
私の誕生日って春らしいんだよ。
というか、この世界春夏秋冬があるみたい。
ゲームの時も春には桜が舞ってたし、夏は暑かった。
秋はススキが生えてたし、冬は雪が降り積もる。
そう、雪が降り積もるのだ。
でも、なんか、違うよね、これ?
降り積もった雪が白じゃないんだけど、白銀の銀世界でもない。
なんていうか、黒い?
私達は本日、家から出るのを急遽取り止め、窓から降り積もる雪を見つめるだけだった。
気温もそこまで寒くないのになんで降るんだろうね?
「ロゼッタ、雪がどうのこうの言ってるけどこれ、雪じゃなくて雪虫の大量発生だよ?」
「……え?」
ゆき、むし? 何ソレ!?
「あ、これは前世の記憶にもないのかい?」
凄く嬉しそうに告げるリオネル様。うぐぅ、なんか悔しいんだよ。
でも、そういえば昔ちらっと聞いた気がする。確か北海道辺りに生息してるんじゃなかったっけ?
「一応、名前だけは……」
「そうなんだ? 雪虫自体は可愛いよ。ふわふわしてて綿毛みたいな身体をしててね」
待って、リオネル様、それ私の記憶にある雪虫と違う。
「空中をふわふわ浮きながら風に揺られて降って来るんだ。なぜか地面に辿りつくと死ぬらしくて、一節では落下ダメージ? を受けて即死してるとか」
儚な過ぎるよ雪虫さんっ!?
「いつもは遥か空の高みに生息してて、そこで増えたりしてるらしいよ?」
また聞きなのだろう。誰かから聞きましたという話を得意げに告げるリオネル様。
小さい背丈と相まって背伸びしてる子供みたいで、可愛い。
ああ、駄目よ寛子さん。出て来ないで。なんか勢い余ってリオネル様を抱きしめて良い子良い子しちゃいそうよ。さすがに恥ずかしいからステイステイ。
「なんにせよ、今日は一日外に出ない方がいいだろうね」
雪虫塗れになりたくなかったら外出るなってことだよね。
当然、私も虫はあんまり得意じゃないから出ないんだよ。
一応ね、近所の子供が好きそうなカブトムシとかセミとかは素手で掴めるの。
クワガタ使って対戦ゲームとかは昔やったよ、最初に借りて闘った時に相手のクソガキが女が男の勝負に参加して来るんじゃねーよとかボロクソに言って来て悔しかったから必死にクワガタ調教して再戦。負けたソイツをボロクソに言って泣かせたなぁ。ああ、あの時も、恋愛フラグ折った気がするんだよ、ホロリ。
そういえば、あの後から動物とか見ると調教出来るかどうか考えるようになっちゃったんだよね。
ペットとか見るとついついどう躾てやろうかって考えちゃうんだよ。
最近は、キーリの態度を改めるべきか考えてるし、私、キーリの事ペット扱いし始めてない?
ちょっと、人としての尊厳を与えておくべきかもしれないんだよ。私の思考、恐ろしいな。
「ふぅ、さすがに雪虫が舞う季節は外出が辛いですね。お嬢の防壁スキルがなかったら地獄でしたよ」
と、部屋に入って来たのはボーエン先生。
おおぅ、そう言えば今日については休んでという連絡入れてなかったんだよ。
「気にしてませんよ。今までと比べれば随分マシですから。そもそも防壁が無い時など身体中雪虫の死骸だらけで……」
ひぃぃ、さすがにその話は聞きたくないんだよッ!?
「それで、今日は何を致しましょう? 影兵さん達に教えるのも継続しますか?」
外に出るのは止めて部屋の中で勉強しちゃうんだよ。
えーっと、今日の勉強は……
「既に基礎的なモノも応用的なモノも教え終わりましたので、お嬢にはこいつを持って来たよ」
うん、この書類は……
「魔術師ギルドで俺が持ちだせる魔術理論の証明論文だ」
「ちょ、それ学士号ないとみれない奴じゃないか!?」
「リオネル様、そうは言うが、お嬢だぞ。教えるモノなんてもうないと言わせて貰おう」
それじゃ家庭教師終了宣言だよボーエン先生。
でも、魔術理論かぁ、ツッコミとか入れちゃえるし、本当に可能性のある理論もあるかもだから読んでみよっと。
「あ、そうだわ。ボーエン先生もちょっと考えてくださらない?」
「何をでしょう?」
「これから商業を行うに当たってやっとくべきこととか、やっといた方がいいこと?」
「ふむ、俺に商業を問われてもさすがにちょっと。そう言うのに得意そうな奴は知り合いにいないのか? こぅ、商業は得意です、みたいな知り合いは?」
商業に精通した知り合い……エルフのお兄さんを抜かせば、うん、魔法店のお婆さんかな? あとはギルドで尋ねるしかないか。
とりあえず必要なのは従業員と商品。あとは……強豪店と競合店への挨拶周り、かな。これからよろしくお願いしますって最初に伝えておくこと。ま、これはしなくてもいいんだよ、ただ新しい店を始めるだけならした方が良いけど、貴族様なんだよ私は。悪役令嬢様は権力をフル活用、邪魔する奴らは無礼討ちなんだよっ。ふっふっふ。
「主様ー、見て見てー、外出てみたら全身真っ黒やー」
ぎゃぁ――――ッ!?