131話・カルロッソ、気付きたくなかった事実発覚
「ふぅ……」
魔術師ギルドのギルド長室で、ギルド長カルロッソは大きく息を吐いた。
なんだかたった一日で一年ほど寿命が縮んだ気分である。
今日だけで増えた新魔法と呪文の登録を終えた彼は、机に置かれた書類に視線を向ける。
「ええ娘なんじゃが、なぁ……」
「おや、そりゃあ私の事かい?」
何時の間に部屋に入って来たのだろう? ゲルタが執務机に近づいてくる。
「なんのようじゃ?」
「何の用も何もあのお嬢ちゃんたちのことじゃよ。一応伝えといたほうがええかと思っての」
伝える? 何かまだ情報が抜けていたか?
「お嬢さんの名はロゼッタ。ベルングシュタット侯爵の一人娘。第三王子リオネル様の婚約者。そして冒険者ギルドではライオネル王国初のS級を賜った冒険者。じゃったか」
「そうさね。いやー、ボーエンとかいう教師が詳細教えてくれたからS級冒険者じゃと分かったが、侯爵令嬢が冒険者ねぇ。正直よくわからんわい」
「確かに、ぶっとんだお嬢ちゃんじゃな。エペックもシゼルも想定外過ぎてしばらく使いもんにならなくなってしまったしの」
「全く、自分の想定外の魔法が出て来たくらいで精神異常なんざ気構えが足りんさね。未知の呪文なんてそれこそ日々産まれとるっていうのにのぅ」
「……ん? 言う事はロゼッタのお嬢ちゃんのことじゃないのか?」
「ありゃ確かに破天荒じゃが周りに悪意を持つ大人がおらんから問題ないわい。おってもあの子ならなんとかなるじゃろ」
ふむ。そうなると……
「リオネル王子か」
「確かに、なぜ魔術師ギルドに来られたのかは気になるが、今王城では王子暗殺の噂で持ちきりじゃ。おそらくベルングシュタット家に逃げとる最中じゃな」
それ、初耳なんじゃが。お前、ほんとどっからそういう情報仕入れて来るんじゃ? 昔から頼りにさせては貰っておるが、正直得体のしれん婆じゃな。
「むぅ? 今誰かが儂の悪口を言ったような?」
「気のせいじゃろ。それより、リオネル王子、のことでよいのかの?」
「違うの。リオネル王子も確かに気にはなるがそれよりも……」
「ではボーエンか、あ奴、巧妙に隠してはおるがおそらく魔族じゃな。お嬢ちゃんに教えてやるべきかとは思ったが連れのキーリ? あれも魔族じゃったし、おそらくボーエンの種族も知っていて一緒におるのじゃろ。問題は無いと思うが?」
「いや、ボーエンでもないわい。ちなみにアレ魔族の王子じゃぞ」
「は?」
「魔王と仲が悪くて人族領に身を隠しとるんじゃ。野良の魔族よりは信頼出来る人物じゃし放置でええじゃろ。それよりも、お前さん気付いとらんのか?」
ロゼッタの嬢ちゃんもリオネル王子もボーエンも違う?
消去法で残るのはキーリという魔族の嬢ちゃんじゃな。
「キーリの嬢ちゃんは確か、ロゼッタ嬢が拾って来た魔族のお嬢さん、義妹として引き取ったとか? 何か問題でもあったかの?」
「かー、それでも魔術師ギルドの長かえ。ありゃ巧妙に実力を隠しちゃおるが、邪神キーリクライクじゃ」
「なんと邪神……ん? ……はァッ!?」
え? 何、じゃしん? 邪まな心を持つ魔族? 蛇人だ。そうだな! 蛇人族の魔族なのだな?
「うむ、アレが邪神洞窟に封印されとった邪神、キーリクライク・プライダルじゃな。初めて見たが儂の目は誤魔化せんわい」
「あ、あばばばばばばばっ」
「ふぇっふぇっふぇっ。既にテイムされとったから危険は無いじゃろ」
「はぁ? いや、邪神じゃろ!? え? なんで外出とるんじゃ? なに、どういうこと? 邪神?」
「お嬢ちゃんが言うとったのが真実じゃろ。ロゼッタのお嬢ちゃんが邪神洞窟で邪神を拾って飼うことにしたんじゃろ」
いや、そんな捨て猫みたいな……え? 本当に邪神なの?
そういえば、魔法は自分しか扱えないから問題ないとか、邪神だからか? 邪神だからなのか?
あ、あはは。邪神をテイム? 邪神ってテイムできるのか?
はは、あははははは……
「ゲルタ。儂、ちょっとしばらく有給取るぞ」
「何を言うとるんじゃ。忙しい日々がまっとるわい」
「嫌じゃ、原っぱの上で寝そべってお日様浴びながらえー天気じゃのーとかいいながらぼーっとするんじゃーっ」
「いかん、精神年齢が壊れおった。おい、戻れ。戻らんかっ」
「嫌じゃ嫌じゃ、儂もー働きとうなーいっ」
椅子から転がり落ちて床をごろごろーごろごろー。うはははは。楽んのしーいっ。
「お、おい、落ち着け、さすがにそんな姿威厳がなさすぎるぞぇ!?」
「休みじゃー、今日も明日も明後日もーっ。休みじゃーいっ」
「あぁ、駄目じゃったか。さすがにあの魔法のすぐあとにこの現実を伝えたのは失敗じゃったなぁ……仕方ない、三日だけ副ギルド長と儂で回すから、必ず還ってくるんじゃぞ。うむ、帰るでも返るでもなく還るんじゃぞー」
ふへへへへ、休日じゃーい。