128話・ロゼッタ、止められたんだよ? なんでさ?
「祖は雷帝に属す下位なる精霊、我願うは球華、我が敵を穿つ一撃を望むッ、サンダーボール!」
お婆さんが突然魔法を唱え出す。
すると、案山子に向かってお婆さんの手から飛んで行く雷球。
そう、雷球だ。
本来詠唱では発現しないと言われていた雷属性の魔法弾。
「ゲルタは魔法の構成を読み解くスキルを持っておってな。魔法を見ればどのような呪文なのかがわかるのじゃ」
それって、滅茶苦茶貴重な存在なのでは?
「新旧判定官として必須のスキルじゃよ。別に解析できたから使えるという訳でもないからの。お嬢ちゃんの無詠唱魔法も構成が難し過ぎて始めしか分からんかったわい。しかし、定型文は呪文としての効力をもっとるんじゃ。祖は雷帝に属すさえ分かれば雷属性の魔法弾位なら使えるわい」
魔法解析できる能力者ってチートだと思います。
「いいなぁ、魔法解析スキル」
「ええもんじゃねぇぞお嬢ちゃん。このスキルを覚えると日常生活に支障がでるしの」
「どゆこと?」
「魔法が使われとるモノは全て構成がでてくるんじゃ。お嬢ちゃんの周りに張られとる十枚組の防壁がのぅ、儂からは文字列の塊にしか見えんのさ。魔道具なんざ何処にスイッチがあるかすら分からんようになる」
な、なるほど、文字が邪魔して魔法自体が見れなくなるのか。
でも呪文構成は見える、と。ゆえに私の雷魔法であるサンダーショットも複雑な呪文構成が無数に重なり合ってるせいで分かりづらいそうだ。
「よいのよいの、新たな魔法体系の発見が儂の代で見れるとはのぅ、くぅぅ、老骨じゃが滾ってきたわ」
「質問だが、この雷魔法は範囲を変えれたりするのか?」
お婆さんに話しかけられていたら範囲測定官の人が話しかけて来た。
「変えれるというか、こんな感じ?」
今度は真上に雲を生み出し案山子君にライトニング。
ビシャーンと落雷が案山子君を直撃、ぷすぷすと黒焦げになった案山子君が煙をくゆらせる。
って、なんで皆無言なの?
「よし、落ち付け。落ち付きましょう皆さん。今のは魔法で再現された落雷ですね」
「たまげたねぇ。派生魔法まで習得済みかい?」
「し、新魔法、また? 雷属性カテゴリー作らないと、えっと、最初のがサンダーショット? ゲルタ様が作ったのがサンダーボール。今回は? ライトニング?」
「えーっと、次は拡散型、ですけど、見ます?」
「ま、まだあるの!?」
「やってみい。なんか楽しくなってきたわい」
お婆さんだけノリノリなんだよ!?
「よーし、お次はサンダーストーム」
黒焦げな案山子君とその隣に居た案山子君を範囲に指定し、雷撃を手に纏わせる。
ほいっと投げた雷撃は即座に紫電を走らせ範囲攻撃となり、案山子君達を巻き込む。
バリバリバリッ
な、なんか想定した以上にぴかぴか光るんだよ!?
うわっ、最初の案山子君が爆散した!?
最後にパリリ……と残った案山子君が紫電を走らせ、魔法効果が切れる。
あー、そのー、えーっと。
「さて。皆さん。まずは深呼吸して落ち付きましょう。ここはまだ冥府の入り口ですよ。正気度の貯蔵は万全ですか? 無理なら一度引き返しましょう」
ちょっとボーエン先生、なんか私が深淵生物みたいな扱いにされてる気がするんですが?
「なんというか、ロゼッタがロゼッタだって聞いてなかったら僕はもう正気度無くしてたかもだよ」
溜息を吐くリオネル様。ちょっと、リオネル様まで私を珍妙生物みたいに。
「主様、やっぱ人間じゃないんとちゃう?」
失敬な。邪神に言われたくないんだよ。
「だ、大丈夫じゃ、少し驚いただけじゃわい」
おお、案山子君が復活した!? 凄い、自動再生機能付きなんだよ!?
おばあちゃん、あれ、あの自動再生の魔法、後で教えてほしいんだよ! リジェネとか自分で考えるより定型文あれば魔道具で使えるようになるし。量産できるんだよ。
「では次は火属性にしましょうか」
ボーエン先生の言葉を聞いて明らかにほっとする属性判定官のお姉さん。
でも、私が無詠唱で緑の炎を作りだした瞬間、思わず目をこすって二度見し始めた。
「ほぉ、これは見事な緑の炎だね」
「鉱石の銅とか燃やすと色が変わるんだよ」
「ふむふむ。おー、祖は炎帝に属す下位なる精霊、我願うは緑球華、我が敵を穿つ一撃を望むッ、ファイヤーボール!」
おお、おばあちゃんが緑の火球を作りだして案山子君燃やした!?
おばあちゃん凄い!
「なるほどのぅ、エル・クレスの場所には色の指定もできるのかい。他にもあるのかい?」
言われるままに赤や橙、紫に白といろいろな色で火球を作る。
なんかお姉さんが目をぐるぐるさせ始めたんだけど、大丈夫?
「んで、これが完全燃焼」
青い轟炎が生み出され、放たれた案山子君が一瞬で燃え消えた。
消し炭がぼたっと落下し、静寂が満ちる。
「お嬢。そろそろやめましょうか」
あれ? なんかボーエン先生が真顔で中止命令して来たんだよ?
折角ノって来たのに、なんでさ?
「やりすぎです」
と、視線を向けるボーエン先生。視線の先には、属性判定官、範囲測定官、そしてギルド長さんが魂抜けたような顔で揺らめいていらっしゃった。