1263話、ランカスター、兵装更新
SIDE:ランカスター
去年の紅月見の季節に新兵としてライオネル王国兵として新たな募集に受かった。
そこからは正直想定していた以上に過酷な訓練だったと思う。
だったはずなのだが、俺にとっては瞬く間に過ぎた訓練の日々だった気がする。
一緒に新兵となった奴らも数名いたが、今は二人しか残っていない。
残りは最初の篩で諦めてしまったのだ。
何しろ新兵として訓練に参加した最初の訓練がベテラン兵の一人と戦うというものだったからだ。
それも兵士一人に対して新人兵全員。
当然腕に覚えのあるものもいたし、ベテラン兵だろうが自分なら倒せると慢心していた奴もいた。
箔が付くという貴族の坊ちゃんもいたし、憧れの兵士に慣れればそれでいいというやる気のないものもいた。
その全員が、たった一人の兵士により叩き伏せられ、プライドを圧し折られ、地面に這いつくばった。
そこで他の兵士たちの鼓舞に立ち上がれた者は、今もまだ俺と同じように訓練を続けている。
あの場で心折れた者たちはすぐに立ち去ってしまい、今はもう赤の他人でしかなくなった。
仲が良かった奴らも、俺たちを見ると化け物みたいな目で見るようになってしまった。
自分は折れたのに、なんでまだ続けられるんだ、という僻みが存分に入っているのは理解しているのだが、仲が良かっただけに、悲しい気持ちになってしまった。
とはいえ、彼らとの縁が切れても新しく繋がった縁もあるわけで。
このライオネル兵訓練所にいる兵士たちはもう、ほとんどが顔見知りである。
たまに喧嘩もあるし、方針の違いで口論もあるが、皆根っこのところでは同じなのだ。
すなわち、国を守る。国に住む市民を守る。市民の中にいる、大切な人々を守る。
だから、決定的な亀裂が入ることはない。
たとえ気に入らない奴が居ても何かしらのところで認められる仲間として、俺たちは結束していた。
そんなある日のことだった。
フェイル隊長が珍しく訓練終わりに皆を集める。
今までは訓練終了後は解散で、新兵もベテラン兵も一緒に思い思いに羽を伸ばし、明日に向けて英気を養うはずなのだが、この日は違ったのである。
「全員喜べ。お嬢から新しい武器防具が届いた。部隊長以下古参組は特殊武器が届いている。他のメンバーもローゼタリス製武具と防具が基本兵装となる。他の武器防具に関しては各武装により異なるらしいが、強度は今までと段違いだ」
「いや、フェイル、今までのデスワワームトゥース製装備じゃねーか、え、それよりヤバいのできたの?」
「うむ。今回鍛冶屋から伝えられたのは、お嬢が作った特殊鉱石ローゼタリスを使い作られた装備らしい。正直どうやったらこの強度が作れるのかわからんが、私の全力攻撃で突いた防具は傷ができることなく、デスワワームトゥースの旗に付いた穂先の方が割れた。武器もデスワワームトゥース製の防具を易々貫いたぞ」
「どんな装備だよ!? レベル2000超えのドロップアイテムが歯が立たんとか!?」
「お嬢、やり過ぎだろ、いつものことだがよっ」
「こりゃ今まで以上に他国に渡せねぇな……各自、戦闘時以外はアイテムボックス入れとけよ、新兵は悪いが訓練で使う武装はデスワワームトゥース製防具と木製武具にしておけ、早急にアイテムボックス使えるようになったらローゼタリス製武具を送るぞ」
いやいやいや、ちょっと待ってください先輩っ、いくら型落ちしたからって新兵用の防具にそんな国宝級防具使わないでくださいっ! 恐れ多くて着れないっ!?
「ちなみにこれがローゼタリスアーマーだ」
「ちょ、黄金色に輝きすぎ!?」
「と、塗装しねぇと普段使い出来ねぇぞそれ! 目立ちすぎるっ」
「でも、この装備纏った兵士の群れとか圧巻なのでは?」
「今年の国際会議これ全員で着ません? 他国の反応ちょっと見たい」
「宰相閣下に聞いておくよ。さて、早速だけど一人一人受け取りに来てくれ」
フェイル隊長自ら手渡ししてくれるようだ。
ベテラン兵たちがものすごく嬉しそうにしている。
「新兵は武器庫の装備入れ替えを行うから付いてきてくれ」
一早く装備一式を貰った部隊長たちが俺たちを先導する。
いいな。俺も専用装備ちょっとほしい。
「おいランカスター、あれ、凄くカッコイイな」
「ああ、あの輝く鎧、凄く着てみたい。たとえ塗装するにしても一度はそのままを装備してみたいな」
「くぅー、心折れないでよかった。あいつら、ほんとに残念過ぎるだろ。俺は兵士に成れてよかったぜ」
「ああ、俺も、あいつらとの縁が切れちまったのは辛いが、それだけの価値はあったと思うよ。あいつらはあいつらの道を行っちまった、俺らはこの道を行こう。いつかきっと、胸張って会えるさ」
「笑い話になるといいよな。さぁ、倉庫整理といこうじゃねーか」
俺は仲間たちと共に武器庫へと向かう、相方は倉庫と勘違いしているようだが、ここは武器庫、倉庫とは違うのだ。まぁ、言わぬが花というものだろう。




