1258話、エレイン、毎年毎年面倒ごとに事欠かんな
SIDE:エレイン
ロゼッタの内面に封印された悪役令嬢ロゼッタ、か。
噂には聞いていた。
あいつが転生したという話の中で前世の記憶を思い出す前のロゼッタの記憶は統合されたのだろうか、という疑問は確かにあった。
どうやら悪役令嬢の方は悪人過ぎたようで思考が相いれなかったようだな。
「それで、原因は分かったが、お前の話からすると、悪役令嬢の方は未だ目覚め切っていない、ということでいいのか?」
「あ、はい。正確には表の人格を封印して自分が表に出てくる状態をゲームでは完全覚醒と言ってました」
「それは、今のロゼの人格を封印する、ってこと?」
「はい。なので、そのイベントが始まってしまうと誰にも止める手立てがなくて……」
「だが、そのイベントが始まる前なら止める手立てが存在する。だな?」
俺の言葉に、ケルシスは浮かない顔になる。
「理論上は、あります」
理論上? 随分と不可能そうな言葉を使うじゃないか。
キーリとリオネルはわかってないようだが、どうも嫌な予感しかしないな。
「聞こう」
「そやな、まずは回避方法聞かせてくれへんか? 他の方法があるかもやし」
「……他の方法なんて、あるんですか? まぁ伝えるだけはタダですし。伝えますが……」
やや投げやりに、ケルシスが告げる。
「ヒロインであるレミーネと六人の攻略対象の一人がとある洞窟に向かいます。理由は様々ですけどロゼッタさんの異変に気付いた攻略対象がなんとか救おうとするんです。それで、その洞窟で分離の杖を手に入れるんですが、そこで悪役令嬢ロゼッタに気付かれ襲われます。レベル差でなすすべのない二人ですが好感度が一定以上ある場合に限り、偶然飛ばされた先で二人は偶然にも分離の杖見つけ、これを発動させ、偶然無防備な状態の悪役令嬢ロゼッタに直撃、偶然反撃もなかったので二人は無傷で生き残り、ロゼッタさんと悪役令嬢ロゼッタが分離、二人の戦いが始まり、ヒロインたちはただただ見守るだけのイベント戦闘が始まります。これにロゼッタさんが勝利することでイベント成功となります」
偶然に頼りすぎじゃないか?
「主はんの虚を突くとなるとそれくらい運が良くないと無理やね」
「それは、確かに」
納得は出来る。
なるほど理論上は可能、か。
悪役令嬢状態のロゼッタとロゼッタを分離する。そんな杖があるのか?
「キーリ、分離の杖なんてもの知ってるか?」
「いやー、さすがに知らんで」
「イベント発生日は8月17日。この世界では日付の概念ありますか?」
「いや、ない。が、ロゼッタのおかげで日付の概念は理解している。つまり夏休みの間にロゼッタを分離させるイベントがある、と覚えればいいのだな」
「は、はい、そんな感じ、です。僕としてはロゼッタさんに杖の魔法を当てるのはこのイベントをこなさない場合不可能じゃないかと思ってます」
「常時魔法反射か無効化結界張っとるからなぁ主はん」
「なるほど、だから理論上可能、か。ケルシス、お前が考えうる成功までの課題はいくつある?」
「え? えっと……まず分離の杖がある洞窟が不明なため探さないとです。それからイベント発生日までにヒロインが攻略対象の好感度を一定まで上げる必要があるのと、ロゼッタさんに見つからないこと。疑われないこと。杖の存在を知られないこと。それから……杖の発動時にロゼッタさんが無防備に受けること、分離した後すぐに動ける必要があるし、勝たないといけない。でもそんな課題よりも重要なのが……」
「重要なのが?」
「ヒロインのレミーネさん、お淑やかなはずなのにパリピになってるんです。あれ絶対転生者だよぉ」
そして再び頭を抱えるケルシス。
その顔は絶望に彩られている。
な、なるほど。ヒロインの性格、また違ってるのか。そりゃあ絶望的だな。
少しでも違えば結果が違うことになるイベントなのにヒロインの性格が真逆だとでもいうのなら結果は確実に違ったものになるだろう。
攻略対象の受ける印象もかなり変わるだろうし、これはかなり面倒なことになりそうな気がする。
「そ、その分離の杖は好感度が高くないとダメなのかい?」
お、リオネルが復活したか。自分がやらかしたと絶望していたが再起動できたようだ。
「好感度が一定以下の二人が触れても反応しないんです。理由はよくわかりませんが、相手への好意に反応するんじゃないですかね。実物がないので何とも言えませんけど」
杖の発動方法も懸念事項か。そう考えると懸念事項が多いな。
まるでロゼッタを破滅させようという強い意志を感じる気がする。
「そういえばリオネル、お前数々のダンジョン潜っていたよな。杖について何か知らんか?」
「……残念ながら。多分行ったことのあるダンジョンのどれかにあるんでしょうが、僕は泉だけを探していましたので」
「そうか……」
しかしレミーネとかいうヒロインも気にはなるが……好感度が高ければ他の奴ではその杖使えないのだろうか? 例えば、例えばなのだが、俺とマリアなら悔しいが好感度はかなり高いはず。杖さえ見つかれば、あるいは……




