1255話、ロゼッタ、転生者はどこかなー?
「あわわわわわわ」
「ぷっ、あはは、なにそれ、新しい踊り? マジウケるー」
イスタリアが奇妙な踊りを踊りだし、それを見たレミーネが腹を抱えて爆笑する。
そのうちレミーネがイスタリアの動きを真似し始めた。
「ねーねー、皆どよ? これイスタリア音頭~みたいな?」
ぶふっと吹き出し慌てて口を噤む女生徒複数。
おそらく子爵や男爵の子供たちだろう。
さすがに伯爵令嬢の痴態を茶化され笑う訳にはいかなかったようだ。
「ああ、そうだ。レミーネだっけ、あそこの男子生徒、名前とかわかる?」
「んー? あの冴えないの? なんか震えてない?」
そうなんだよね。私と視線合ってから凄い怯えてるんだよ。私なにかしちゃいました?
「主はん無自覚に迷惑振りまくからそれに巻き込まれたんちゃう?」
「失敬な。私はそんなはた迷惑なことしませんよ」
「あの方でしたら、確か自己紹介の時にケルシスとか名乗ってましたわ」
「あれ、そうだっけ?」
なんで覚えてないのレミーネさん。自己紹介は今日の授業開始前に全員やったよね。
「もしかしてイスタリアさんは皆の名前覚えているのかしら?」
「当然でございますわ。令嬢の嗜みですもの」
「はー? またまた、ロゼちーもさすがにクラスメイトの名前は全員覚えらんないよねー?」
レミーネの言葉に他の令嬢子息がなんか青い顔になってる。
なんでだろう? あ、キーリ、自分意味わかってますけどなんでわからんの主はん。とかいう顔で呆れてるんじゃないよ。
「あら、クラスメイトの名前くらい全員覚えていて当然でしょう? ねーキーリ?」
「主はん、それクラスメイト全員に聞いてみ、仲のいい人かいろんな意味で目立つ人の名前しか知らん言うで。ウチも知り合い以外のクラスメイト名前覚えとらんし」
「ほらー、キーちゃんナカーマ! イェーイ」
なぜかキーリに向けて両掌を上げるレミーネ。
やや戸惑いながらキーリがそれに両手タッチで応える。
パリピだよね、やっぱり。
レミーネ転生者でしょ。ただし、ゲームとかなんも知らないでただ転生したタイプの。
そのうちポケベル、いや、スマホあたりを使いだしたりしないだろうか?
年代的に多分私よりも後年の女子高生辺りの年代だよね。
「まぁ、主はん頭の造りおかしいからクラスだけやないんよ、学園中の人の名前覚えとるんえ」
「……え?」
「さすがに新一年生まではまだ把握できてないけどね」
「そこまで行くとちょっと引くし……え、冗談だよね?」
「あれ? なんか引かれてる!?」
「当然冗談やー」
あ、これキーリが空気読んだ。
私も事実ですとか言わない方がよさそうだ。
「で、ですわよねー」
「そ、そうだよねー。全員の顔見ただけで名前分かるとかマジアリエンてぃ」
よくよく考えてみたんだけど、このレミーネの使う若者言葉、新旧揃ってんだよな。ってことは現代っ子の転生者じゃなくて昔のヤンママか? あるいは……いや、そんなことある?
「あーし名前覚えンの苦手でさー、とりあえずニュアンスで乗り切る感じ? シスター譲りのコミュ力使って、そのうち相手の名前が分かればいっかな―みたいな?」
「ウチもそれたまにやるー。どーしても名前でてこん場合あんた呼びしたり名前飛ばしたりしてなー」
「ナカーマ」
なんかレミーネとキーリが意気投合している。
コミュ力は確かに高そうだなぁ。
侯爵令嬢相手にも物怖じしないし、邪神ちゃん相手にも気にせず懐入ってるし。
「あ、あのー、ロゼッタ様」
「ん? どうしたのイスタリアさん?」
「こ、こちらにサインなど、お願いできませんでしょうか?」
それ、教科書なんだけど。まぁいっか。背表紙に書いとくね。
ついでに握手をしてあげると、なぜかその場で気絶したイスタリア。
とっさに受け止めたから倒れるまではいかなかったけど、なぜ気絶!?
「あー、憧れの人に会えたから嬉しすぎて気絶したんやねー」
「うっそ、嬉しすぎて気絶するとか初めてみたんだけど!?」
「えっと彼女の座席は? そっち? じゃあここに座らせとくから、皆が帰る前におこしてあげてね」
今回は顔見せだけでいいかな。
大体の人員構成把握できたし。
しかし、驚いたなぁ。チパナパが入学してやんの。
多分だけどアルケーニスも毎年、いえ、二年に一回かな、学園に一人配置しておくことで有能な人材や情報の把握を行うようだ。
私がいる間は何も行動はしないだろうけど、その後は引き抜きとかするかもしれないな、こちらからもプライダル商店のメンバー招いて邪魔しておくか。
まぁアルケーニスが裏切って王国に敵対するとも思えないからそこまで警戒はしてないけど、転ばぬ先の杖ってことで監視役は置いておこう。




