1219話、ロゼッタ、夜会三日目
「やぁ、少し話せるかね」
本日も、陛下と宰相閣下が他国と折衝を行っているのを少し離れた場所で食事しながら見ていると、エルデンクロイツ帝が話しかけて来た。
正直、接点らしい接点はなく、どちらかというとザルツヴァッハ関連で敵対した印象しかない国の王様なのだけど、なんか随分疲れた顔してるね。
「ごきげんよう、エルデンクロイツ帝」
「ああ、そこまで気負わなくていい。今回はこちらから頼みを持ってきた側だからね」
「頼み、ですか?」
これはまた珍しい。
エルデンクロイツ帝国からの頼み?
ザルツヴァッハを隔てているので我が国と交流を持つ必要性は皆無と言っていい。
流通に関しても関税の関係で暴利を取られることになるので、互いに商業関連の契約を結ぶメリットもない。
そもそもそういう話は宰相に持っていくものであって私に頼むもんじゃない、よね?
となると、なんでしょう?
「実は、貴国から警告を受けて以来、娘の一人が部屋からでてこないのだ」
うん?
部屋から出てこない、娘さん?
え? それって、まさか……
「一応、食事を部屋の前に置いておくと食べてくれてはいるようなのだが、トイレに行く気配もないし、風呂に入る気配もない。何よりあの日より姿を見ていないのだ。頼むロゼッタ嬢、どうにか娘を助けてくれ」
「ちょっとあんた、エルデンクロイツ関係って言ったら、ウチの王弟を化け物にした奴よね。確か……ラトヴィール第二王女」
シャトが耳ざとく聞いていたらしく、私に耳打ちしてくる。
そうそうラトヴィールさん。私がちょっと部屋に入ってお話しした相手である。
あの日からヒキコさんになっていたらしい。
……もしかして、またやり過ぎた? はは、まさかぁ。
「そ、そうですね、国際会議が終ったら少し見に行ってみますわ」
「おお、そうしてくれると助かる。とりあえず依頼という形で、だな、ラトヴィールを部屋から出してくれること、社会復帰できること、この二点、達成してくれれば報酬を出させて貰う」
ちなみに、どちらか一つ達成時点で報酬は出してくれるらしい。つまり、二つの報酬は別途で支払われるってことか。
報酬内容はお金とエルデンクロイツ宝物庫に眠ってる魔道具らしい。
おそらく社会復帰可能で魔道具、外に連れ出せば金一封となるようだ。
別に放置してもいいけど、せっかくだしちょっと頑張ってみようかな?
「それでは、我が国で待っておけばよいのかね?」
「はい、連絡員や案内人は不要ですわ」
ま、隠密行動でいいよね?
「では、待っておるぞ」
エルデンクロイツ帝が去っていく。
入れ替わるようにやってきたのは、ルギアスさんだった。
私の傍で食事をてんこ盛りして食べ散らかしているメテオラ帝を見て、複雑そうな顔になる。
「失礼、ロゼッタ嬢、キーリ嬢、そして、メテオラ嬢」
「んへ?」
ほら、メテオラ、食事の手を止めなよ。
「ごきげんよう、親竜共和国国王陛下」
「ごきげんやー」
キーリそれ挨拶じゃないわよ。
まったく、相手がルギアスさんだからって気を抜きすぎ。
あとメテオラは今役職ないんだから、くるしゅうないとか言わないでよ。
今一瞬言おうとして慌てて口を止めたでしょ。
一応、今までの役職として挨拶するのは不味いと思うだけの精神性が残っててくれてよかったよ。
メテオラ帝は一応帝王に返り咲く予定ではあるけど、国もなければ部下もいない張りぼてなので、ルギアス王と比べると、平民と国王という状態にならざるを得ない。
つまり、本来はメテオラが声を掛けることすらおこがましい状況になっているのだ。
「しかし、ルギアスが王になるとはな……」
「メテオラ、さすがに面と向かってそれを言ったらダメなんだよ?」
「わかっておる。すでにこの国は天竜帝国ではないと言いたいのだろう。私とて理解はしているのだ。理解はしても精神が納得できているかは別でな。やってくれたなルギアスという感情がその、な?」
「そもそもウチで惰眠を貪っているメテオラと民のために必死に駆け回っていたルギアス王とどっちが王族にふさわしいかって考えたら、ねぇ」
「お飾りといいたいのであろう。だからルギアスに対して簒奪やらなにやらは告げていないだろう。私とて、奴の頑張りは理解しているさ」
ほんとかなぁ。
「ルギアス……王、その、久しぶりよな」
「はい、メテオラ……嬢も随分お綺麗……ふくよかになられて」
「っ!?」
メテオラ、びっくりするとこ違うよ。むしろルギアスさんは我慢した方だって。
私だってヤバいと思うもん。
メテオラ、お腹の肉こんなに掴めるんだよ?
「ひぃ!? ちょ、何をするのだロゼッタ。やめろ肉を掴むな」
「痩せようね、メテオラ」
「そんな目で見るなっ。優しい声を掛けるんじゃない。ち、違うんだ。私はその、この体型は……」
はいはい、どう考えても子豚ちゃん出荷完了である。
ちゃんと痩せるための運動計画作らないと。強制的にでも痩せさせないと私の沽券にかかわるんだよ。




