1198話、キーリ、王子と伯爵令息の戦い
SIDE:キーリ
主はんが未だに使い物にならへん。
学校の授業終わって放課後なったけど未だに気持ち悪い笑みのままや。
なんでそんな顔できるんやろ、人の顔芸って凄いなぁ。
「さて、わざわざ対戦を願ってくるってことは、君は強いと思っていいのかな?」
今、ウチらの目の前ではリオネル王子とエレインが対峙しとるところや。
学園の運動場の一区画を借りて、二人で模擬戦するらしい。
武器も学園指定の木剣を使い、兵士の一人が審判役となって試合を始めようとしとる。
「竜の谷レベリングを終えている。それくらいのレベル帯と思ってくれ」
「なるほど、僕よりレベルが倍近く高いわけか。なら遠慮はいらないね」
「そういうことだ。俺は実戦経験はないが、それなりに強いと思っている。だが、自分より強い奴と戦えばより高みに行けるからな。ロゼッタの婚約者となればそれなりに強いと思っている。手加減は、いるか?」
「いらないよ、まぁ、胸を借りるつもりでやらせて貰うさ、エレイン君」
互いに剣を構え、ニヤリと微笑む。
双方自分が負けるなんて欠片も考えとらん顔や。
レベルからいえばエレインの圧勝やけど、リオネルはんウチの触手攻撃躱してウチに攻撃してくる技量あるからなぁ。
「それでは、試合、開始ッ!」
初めに動いたんはリオネルはん。
開始と同時に風魔法で自身を押し出し、ノーモーションからの奇襲攻撃。
突撃してきたリオネルはんに慌てることなく剣を合わせるエレイン。
金属音とも言い難い不思議なかちあい音を響かせ、リオネルはんが駆け抜ける。
エレインの背後へと抜けた彼は、その場でギキュッと地に足つけて急速旋回。旋風を巻き上げ背後からエレインへと急襲する。
「フッ」
「様子見などいらんぞ?」
しかし、エレインもこれは読んでいたらしく、剣だけを背後に向けて受け止める。
「これは失礼。やはりレベル差は技量だけじゃなかなか埋められないね」
「そういう割には勝つ気じゃないか」
「当然。伊達に邪神相手に戦闘訓練は積んでないさ。ハイブースト、テンタクルダンス」
ちょおい!? ウチの触手避けてたことでなんかスキル生えてへん!?
さらに速くなったリオネルはんと振り向くことで彼を正面に捉えたエレインが剣を打ち合う。
木製の剣がおおよそ響かせないはずの音を何度も響かせ、ウチら高レベル組にしか見えない速度でかちあい競り合い穿ち合う。
「リオネル様ぁすてきぃ」
隣から声が漏れる。
主はん、そろそろ帰ってきぃ。
主はんがそんな状態やから収集付かへんよ。
二人の戦いはさすがにその場に留まって、というわけにもいかなくなり、あちらこちらに移動しながら時に中空で攻防が行われ、剣が火花を迸らせる。それ、木剣やんな?
常人であれば二人の姿は追うことすらできず、数秒前の幻影が打ち合う姿がかろうじて見えるくらいか、なので音の方が早く伝わり、何もない場所で剣撃が聞こえるような状態になっている。
それほどに速い戦いなのに、二人とも笑顔が見えるから怖い。
なんやな、同じくらい戦える相手見つけて嬉しいんやろな。
「驚きだな王子、俺は結構身体強化してるんだが、そのレベルで付いてくるのか!?」
「こちらこそ、そのレベル帯辺りなら圧倒できるつもりだったんだけどね。ジャイアントキリングは得意になったんだ」
魔法で剣を強化し、魔法で身体を強化し、魔法で剣撃の隙を潰していく。
双方高レベルな頭脳戦まで行っているようで、フェイントまで混ざりだす。
相手の技を潰し、相手の魔法を避け、相手の策を破壊する。
互いに互いを読み合い作戦を潰し合い、互いの手札を投げ捨て合う。
それでも決着は未だ付かず。
激しい戦いは実に三十分以上にも及ぶ。
それはつまり、何も見えない場所でずばんどばんと謎の音が鳴り続ける状態が三十分以上続いているということでもあり、ろくに実力のないものが呆れ始めている。
ただ、少しでも彼らを目で追えるのならばわかるだろう。
その技の一つ一つ、魔法の一つ一つが現代魔法とは似ても似つかない、即発動、即消去という高度過ぎるやり取りだということに。
ゆえに、上位者程全身をブル付かせながらも目を離すことができないでいるのである。
特に学園護衛用の兵士たちは想像以上の試合を見せられて武者震いを始めている。
これは試合終了後に大量の対戦が始まりそうやな。
決着のつかないまま一時間。
そろそろやめさせようかと思った時だった。
一番最初に疲労をきたしたのは、木剣であった。
今まで通りに相手の剣を受け止めた瞬間、互いの剣がはじけ飛んだ。
勢い余って二人して地面に転がり、驚いた顔をしながらも立ち上がって拳を握る。
「はいなー、それまでやー」
いつまで待っても審判が大口開けたまま見つめていたのでウチが割って入る。
主はん曰くの伝家の宝刀、はいよーちょっと通りますよチョップを使いながら間に割り入る。
「キーリ嬢?」
「さすがに武器なくなったら試合続行不可能や」
「むぅ、ようやく温まってきたところだが?」
「これはすまない、少々白熱してしまったよ」
これで少々とか冗談通り越していっそすがすがしいわ。
最後は互いに握手をして試合終了。
なんやろ、この爽やかな終わり方。納得いかへん。




