1197話、エレイン、王子登校
SIDE:エレイン
冬休みが終り、学園に登校することになった。
面倒なことこの上ないが、父上からは卒業すれば自由にしていい、といわれているので学園卒業は必須条件だ。
伯爵家を継ぐ気はないので兄弟に任せることはすでに伝えている。
俺はマリアネージュと相談してスローライフのために各地を放浪するつもりだ。
あと一年。本当は結婚するつもりなどなかったんだがな……まぁ、致し方ないか。
マリアネージュも俺のことを理解しながら告白を続けていたわけだしな。
それよりも、今日はいろいろと大変らしい。
クラスメイト達にも結婚式の話は伝わっているので敵対派閥だったせいで結婚式に呼ばれなかったメンツも連続結婚という話題を上げないわけにはいかず、結婚したメンバーの元には多くのクラスメイトが集っていた。
俺? さすがに俺に話しかけてくるような奴はいないだろ。
伯爵家の恥さらし、我がまま令息だからな。
「おーいエレイン、お前も結婚したんだって。いやー、お前が結婚するとか世も末だよなー」
「黙れディムロス。貴様こそまだ結婚していないのか?」
「ぐはっ、そいつぁ俺に効く」
「ぬはははは、反撃にあったなディムロスよ」
「いや、メテオラさんよ、あんたも結婚はしてな……太った?」
ん? 言われてみれば随分と横幅が増えたような?
「な、ななな、女性に対して何たる侮辱! 貴様皇帝によくも言ったな!」
「おいロゼッタ、子飼いの皇帝が随分まるまるとしているが、非常食にでもするつもりか? ロゼッタ?」
「えへへへへ……うへへへへ……」
なんだ? ロゼッタが珍しく凄い顔をしている。
嬉しすぎて表情が崩れているのか?
「主はんはしばらく使いもんなれへんよー。今日からリオネルはん来るから待ち遠しすぎて笑顔がゲシュタルト崩壊や」
「言葉の使用方法に問題がありそうだが意味は伝わった。なるほど、王子が来るわけか」
「今は職員室でいろいろ話し合い中や。ホームルームには来るやろ」
「はー、また王族が増えるのか」
「しかもロゼッタの婚約者、どんな男か楽しみだな」
リオネル王子、何度かあったことはある気はするが、そこまで深く親交を深めたことはない。
王族というだけでなくあのロゼッタの婚約者だ。どんな性格なのか楽しみだな。
実力も気になるし、あとで手合わせ願ってみるか?
「あ、ちなみにリオネルはんはまだレベル500から1000くらいやで」
「そうなのか、では手合わせはしない方がいいのか」
俺のレベルはすでに3000に近い、たまに竜の谷ダンジョンに潜らせて貰っているからな。
とはいえ一人だけで潜っているので安全策のためなかなかレベルが上がらんが。
「ま、でもリオネルはん剣術は結構なレベルやし、意外と良い感じになるんやないか?」
「このレベル差でか? それはそれで試してみたくなるな」
ふむ、一度本当に申し込んでみるか。
そろそろ時間だし、バルバロイ先生と共に来る頃か?
そう、思った矢先、扉が開かれバルバロイ先生が現れる。
その背後から、一人の少年が現れた。
背丈こそ俺より低いが、容姿は正直男の俺でも綺麗だ、と思えるくらいに整っているな。
これが、リオネル王子か。
女性陣が黄色い悲鳴を上げている。
しかも王族としての所作を持っているためか動きが洗練されている。
歩くたびに揺れるサラサラの髪も目を引くところだ。
確かにこれはロゼッタでなくとも恋する瞳になろうというものである。
「皆さん初めまして、二年後期からですが、皆さんと一緒に勉学に励みたいと思っております。リオネル・ライオネルと申します。婚約者のロゼ……ロゼッタ共々よろしくお願いしますね」
にこりと微笑む魅惑の笑顔。女性陣が恋する瞳を一瞬したものの、聞き捨てならない言葉に我に返る。
「こん、やくしゃ?」
「ロゼッタ……ロゼッタ様の婚約者ぁっ!!?」
一瞬にしてクラス中がざわめいた。
ロゼッタは、と言えば未だに心ここにあらずといった様子でえへへと呟いている。
これは本当に、ロゼッタは使い物になりそうにないな。
珍しいことこの上ない。
あのロゼッタがここまで使えなくなるほどに惚れこんでいるということか。
まぁあの容姿なら気持ちはわからんでもないが……
「えぇと僕の席は……」
「ああ、ロゼッタ神様の隣を空けておきました」
「そう、ありがとうございますバルバロイ先生……ん? ロゼッタ、神?」
ああ、そういえばその辺りは知らないのだったな。せっかくだ教えておいてやるか。
ホームルームが終り、最初の授業開始前に軽く挨拶を行う。
エレインが行ったとか、殺し合いかとかお前ら俺を何だと思っているんだ。
まぁ、確かに対戦の申し込みはしておいたが、一応レベル差についても伝えたが問題なく対戦を受けるらしい。胸を借りるつもりで戦うとか言われたが、正直俺が勝って当然と思っていいのか、少し不安になるな。相手が飄々としているからか、なんとなく、手を抜いて勝てる相手じゃないくらいには本能的な何かが疼いている。
こちらも全力でやるしかないだろうな。




