1195話、ロゼッタ、同年代なのに知られてないとは
私は戦慄していた。
サラディンが同年代なのにクラスメイトのほとんどが誰アレ扱いしていることとか、花嫁であるシェリーが恥ずかしさのあまりレッドカーペットに出てきた瞬間、身代わりの術みたいに丸太と入れ替わって捜索に一時間かかったとか、デリーラが暴走しかけてビル君がフォークで刺されたとかそういうのはどうでもいいのだ。
何に戦慄してたかって?
私の隣にやってきたナッシュ君。その腕に絡みつくアルケーニス首領の恋する乙女顔である。
昨日一日で何があった?
「あー、いや、その……」
「なっしゅぅ。えへへ」
「ナッシュ君、ソレはアルケーであってるよね?」
「あってますね。その、昨日、結局初夜迎えまして、えっと、覚悟決めたんです。ディムロス君に何をすればいいかは教わってたので全力で、その、皆さんと何か違いますよね、コレ?」
「こ、こまされとる……何があったんや」
キーリが戦慄するのもわかる。
あの人殺したちを取り仕切る闇の首領がここまで堕とされるとは、ナッシュ君、恐ろしい子。
「と、とりあえずナッシュ君、そこまでしちゃった以上は責任もって面倒見てあげなさいよ」
「そ、そうですね。えっと、ペルグリッドさんからも結婚どうこう言われてたんですけど、そっちはどうしましょう?」
「あ、そっちは破り捨てていいわよ。どうせあいつは愛情とかないし、多分ナッシュ君的にもまだアルケーの方が幸せになれると思うから……なれる、かなぁ? なれると、いいなぁ」
「不安にしかならないんですけど。はぁ、まぁ僕としては僕なんかと結婚してくださったアルケーさんを幸せにする努力はしますよ」
「闇組織との折衝も頑張って。無理そうなら手伝うからね。まぁアルケーがいれば大丈夫だろうけど」
「当然だロゼッタ。ナッシュの敵は俺が全て殺しつくしてやる。あー、恋ってこんなに素敵なことだったんだなぁ、うふふふふ」
「主はん、アルケーが壊れた……」
「放っておきなさい、アレはアレで正常なのよ、きっと」
っと、ようやくシェリー見つかったか。
カルシェに無理矢理連行されてきたシェリーは恥ずかしい恥ずかしいと喚きながらサラディンの元へと連れていかれる。
まったく午後に結婚式詰まってなかったからいいものの、大騒動だよ。
明日の学校皆大丈夫だろうか? 疲れて遅れたりしないでよ、ほんとに。
って、今度はアルマティエがいないし、最高司祭さんが捜しに向かったけど、おそらくシェリー探して遠くまで向かってしまったようだ。
聖女ちゃんことサクリファがむむむっと考え、聖書を携え前に出る。
前日までアルマティエがやってたことを思い出しながら、聖句を唱え始める。
が、がんばれ聖女ちゃん。
皆はらはらしながら彼女の仕事を見守る。
おお、ちゃんと祝福もできるのか。
必死なサクリファは気付いてないけど、少し前からアルマティエが戻ってきている。
それでもサクリファが頑張ってる姿を見て、ここは自分が割り入るべきじゃないと思ったようで、彼女の仕事を見守ることにしたようだ。
そして、若干もたつきながらも最後の口付けが終り、新郎新婦がレッドカーペットを後にする。
拍手で見送った私たちは、ふぃーっと息を吐いてその場に座り込んだサクリファへ、もう一度大きな拍手を送ることにした。
ほんとよくやったよ聖女ちゃん。
立派に務めを果たした小さな聖女に、惜しみない拍手が送られる。
聖女ちゃんは頭を掻きながら恥ずかしそうにしてたけど、そこにやってきたアルマティエに頭を撫でられ、次からは一人でも任せられるわね、とお墨付きを貰ったことで笑みを浮かべていた。
アルマティエ、最近結婚式に呼ばれること多くなったから半分をサクリファに割り振る気だな。
まぁ。明日から学校もあるし、聖女としての仕事もし辛くなるからサクリファが代わりにやってくれるのは願ったり叶ったりだよね。
その分サクリファに負担が行くけど、彼女にとってはむしろ仕事を任された方が嬉しいみたいだからね。
頑張り屋なサクリファにお任せしておこう。
ヤバそうなら最高司祭のお爺さんが何とかするだろうし。
最近はおじいちゃんおばあちゃんがサクリファちゃんを見守る会、みたいなの作ってるからなぁ。
あの老人会、変に権力持ってるからヤバいんだよね。どっかの元伯爵とか元侯爵とか、豪商のお爺ちゃんとかもいたよね。アルケーニスから引退したご老人もいたし影を引退した老人もいたはずだ。
各員コネがふんだんにあるので、下手にサクリファに手を出すと人生も社会性もあらゆる観点から終わらせられるという、ある種ヤバい一大組織になってるんだよね。まだ彼女が来て一週間くらいなのに。
しかも最近陛下も彼女を知って応援し始めてるらしいからサクリファを敵に回すのは国を敵にすることと同義になってしまいそうである。




