1194話、ロゼッタ、愛が重すぎるとこうなる
「うわー……」
昨日に引き続き、本日も結婚式。
なぜか私の隣にやってきたアルケーがその会場を見て呆れている。
そりゃそうだよね。なんで会場いっぱいにビルの肖像画が書かれてるんだろう。
これ一体いつ用意したんだ?
本来双子神の像がある場所にもビルの銅像立ってるし。
「さすがはデリーラ、愛が重いわ」
「わ、私、デリーラさんと合同結婚式じゃなくてよかった……」
デリーことフレデリカが安堵の息を吐いている。だからケリーと一緒の方がいいって言ったでしょ。ふふん。私いい仕事した。
それはともかく、アルケー、ナッシュ君と離れてるけど良いの?
「それだよロゼッタ、聞いてくれ。昨日初夜を迎えようとしたらあのヘタレ逃げよった」
「逃げたのナッシュ君」
「逃げられんように窓のない部屋にわざわざ監禁して裸で迫ろうとしたのになぁ、壁ぶち破って二階から逃げ出しおった。ええい、貴様がパワーレベリングなどしているからっ」
あんたの方がレベルは上じゃん。
追えば捉えられるでしょ。
「ふふ、でもそれがいい。嫌がる猫程愛おしいものなのだよ。なぁにすでに夫婦となった身、どれほどヘタレていようが袋のネズミよ。ふふ、ゆっくりと追いつめてやるさ」
アルケー、それやっぱりフラグな気がするよ。
いや、まぁ本人がそれでいいならいいんだけどさ。
ナッシュ君甘く見ちゃだめだよ。彼の持ち味は追い詰められてからの爆発力だから。
覚悟を決めてからが凄いんだよ。
「うわー、ロゼ、ビル君凄く凛々しいよ」
リオネル様? ああ、ビル君は凛々しいんじゃなくてすでに不退転の覚悟を決めたからカッコよく見えてるだけなんだよ?
自分にはもう逃げる場所はないと知り、背後はもう振り向かないと決めているんだ。
覚悟を決めた人はカッコイイんだよ。
でも彼の場合は何があろうともデリーラと添い遂げるという不退転の覚悟だからねぇ。決死度が凄いんだよ。
私にはできない、かな。
父親に連れられてレッドカーペットにやってくるデリーラ。
その姿は綺麗の一言で、参加者の視線を一身に集めるほどに壮麗に見えた。
ウェディングドレスが風になびく。ほぅっとため息が漏れるほどに魅了された女性陣がデリーラの後姿を目で追った。
容姿は、凄く綺麗だものねデリーラ。
しかし、デリーラさん、壇上に近づくごとにもう待てないっとばかりに足を速めていく。
父親が焦るが、もはや邪魔。とばかりに父親の腕に絡ませていた腕を引き抜き、乙女走りでビルの待つ壇上へと走り出す。
「ビル様ぁーっ」
そしてビルはそれに驚きもせず両手をだして彼女を受け止める。
勢いを殺し切れずにくるくると回転しつつもなんとか受けきった。
トンっと自分の隣にデリーラを下ろし、見つめ合う。
あ、キスしやがったあいつら。聖女のお話もまだだろが。
「ビル様ぁ」
「デリーラ、ほら、皆置いてきぼりだから、ね、結婚式しよう」
「辛抱なりません。キスだけ、キスだけでいいですからぁ」
なんだこのバカップル。衆目監視の前でちゅっちゅちゅっちゅと、爆発させればいいのかな?
「ロゼッタ、あの二人、爆発させればいいかしら?」
「バーデラ侯爵、お供いたしますわ」
「いや、止めろよ。リオネル王子、こいつの手綱はあんたの仕事だろ」
「アルケーさん、僕がロゼのやること止める訳ないじゃないか」
「こいつぜんぜん役立たねぇ!?」
「はいはい、主はんバーデラはん落ち着きぃ」
触手に額をぺちんっと叩かれ正気に戻る。
あっぶねー。今一瞬だけ悪役令嬢化してた気がするわ。
やはりカップルは害悪ね。
「で、では気を取り直しまして……」
「まぁ、愛する二人の仲を邪魔するなんてあなた……死にたいの」
ちょおぉい!? アルマティエびびってるじゃない、何で威嚇するのデリーラ!?
「デリーラ。聖女様は俺と君の結婚式をしてくれるんだよ。もしかしてデリーラは俺と結婚したくなかったのかな?」
「そ、そんなことありませんっ、申し訳ありませんでしたわ聖女様、ど、どうぞ進めてくださいまし」
「え、ええと、いい、ですか?」
「すみません、お願いします」
ビル君すげぇ、あのデリーラを完全に手懐けてやがる。
もはやデリーラの手綱を握れるのは彼しかいない。
そして彼はしっかりと理解しているのだ。
驕ってはならないと。
デリーラは自分ならどうにでも扱えると思ってはならない。
そう、ヤンデレにとって、理想から逸脱してしまった愛しい人は愛しい人ではなくなってしまうのだから。
ビルは今も未来も常に綱渡りの生活となる。
何しろデリーラにとっての理想のビルと現実のビルが乖離した瞬間、現実のビルは消すべき異物になってしまうのだから。
彼女にとっての理想を考え演じ、彼女に違和感を与えることなく添い遂げる。
それはあまりにも大変な……いや、本人たちが幸せなうちはあえて何も言うまい。お幸せにー。




