11話・ロゼッタ、買いモノをする6
良い買い物をした気分で揚々と馬車に乗る。
目指すは最後の魔道具店である。
三つ目は、かなり奥まったところにあるんだよね。
「おや、いらっしゃい」
長鼻のお婆さんが店員さんの暗い店内。
二つの魔道具店とは全く違う、しいていうなれば黒魔術専門店、といったところか。
店の構えからして人通りが少ないし、ちょっと薄暗い。
さらに店自体が異様な雰囲気を醸し出している。
正直入るの躊躇するレベルだよ。
なんか店が傾いてる気がするし、床にビー玉転がしたら、ころころころーってなりそうだ。
その内、地盤沈下でぺしゃんこになるんだよ、恐いな。
勇気を出して店に入る。
瓶の中には無数の変な物体。
あそこにあるのはマンドラゴラ、その横には羽の生えた目玉、妖精のミイラもあるようだ。
禍々しいのが多いなぁ。リオネッタったら一歩入った瞬間ひぃっと慌てて下がってしまった。
「お婆様、ここは他の二大店舗とだいぶ違うのですね」
「ひぇっひぇっひぇ。そりゃぁそうさぁ、ここは黒魔術に錬金術やっとる奴らが来る魔道具店さぁ、コアな奴らばっかりじゃからのぅ、一応普通の道具ならそこに申し訳程度あるぞぃ」
最初の店で買った基本魔術書がまさかの3万サクレである。
安いよ? 安すぎじゃない?
これで儲けなんてでてるの? 赤字じゃない?
「安いじゃろ。そりゃ客寄せ用じゃ。あたしの店はねぇ、深みに嵌るほど金を放りだすようにできてんのさぁ」
な、なるほど、最初は儲けさせて後から搾り取る、という奴ね。気付いた時にはもう……麻薬か!?
怖いよ、この魔道具店怖いよ!? でもあそこの魔道具ちょっと欲しい。安いからちょっと欲しい。ぐぅぅ……
ダメよロゼッタ。これは罠よ。
いけないわロゼッタ。買ってはならないの、深みに嵌ったらもう抜けだせないわ。
魔道具店止めますか、人間辞めますかって奴よ、ダメ、絶対なのよ!
ダメなの、ダメなのよロゼッタ、ダメよ~、ダメダメ……らめぇぇぇぇ。
……
…………
……………………
「まいどありー」
……かっ・ちゃっ・た♪
身代わりのペンタグラム買っちゃった♪
一度だけ致死の一撃を無効化する魔道具買っちゃった♪。
一千万サクレだったところを一万サクレで売ってたから買っちゃった♪
滅茶苦茶安くし過ぎてて買っちゃった。
もうダメ、この魔道具店無しじゃ生きられないのぉっ。
「良い買い物はできましたか、お嬢様?」
「……ええ。わざわざ付き合ってくれてありがとうリオネッタ」
「は、はい」
私の言葉にリオネッタは意外そうに驚き笑みを浮かべる。
あれ? 私ちゃんと笑み浮かべてありがとうって言ったよね? やっぱり吊り眼な私の笑顔はダメだったの? 笑顔が犯罪なの? 微笑むだけで兵士さん案件なの? レアリィ? カツ丼食べていい?
「ひぇっひぇっひぇっ。なぁんかお嬢さんからは常連の匂いがするねぇ」
ひぃ、目を付けられた!?
ダメよ。常連になんてなってしまったら、お金を絞り取られてしまうわ。
いけないわお婆様、おやめになってぇ。
「こいつぁねぇ、普通は一見さんには紹介しない商品なんだけどねぇ。いやさお嬢さんになら特別に、ええ、特別にお見せしようかねぇ」
ゴクリ。ヤバい、今の常套句はヤバい。
買い物に来たおばさまに対して貴女に特別なんて……これは、来る。ヤバいのが来ちゃう。しかもお得ですよ攻撃、もしくは今なら○○も付けちゃいます宣言が来ちゃう。
いや、下手したら今ならもう一個付いてお値段変わらずドーン、とか言われるかもぉっ!?
「こいつぁ」
「お嬢様、そろそろお時間でございますッ」
何かを察したらしいリオネッタが、食い気味に話を聞こうとした私を無理矢理引っ張り外に出る。
おや残念。とお婆さんはにやにや笑いながら見送った。
きっと放っておいても常連になると分かっているんだろう。
ヤバいよ、この店はヤバい店なんだよ。
入り浸っちゃったらもう抜け出せないんだよ。
人が変わったようになっちゃうよ!
ヤバい店からリオネッタによって引き上げられる。
無理矢理馬車に乗せられ、リオネッタが命令して馬車を出発させた。
リオネッタ、何時の間に馬車の人に命令出来る立場になったの!?
あと護衛のおっちゃん、馬車から出てた? なんかずっと馬車に乗ってた気がするよ?
おーう、終わったかー。じゃないよ。
護衛だろ!? 護衛しようよ。なんで令嬢より馬車に乗ってる時間が多いの!?
これじゃあ護衛され兵なんだよ。意味無いな。
「ふぅ、お嬢様、この店には絶対に一人で行かないでくださいっす」
「えー」
「えー、ではありません。既に無駄な買い物してたじゃないですか」
無駄じゃないし、一回死んでも死なないんだよ!? 凄いでしょ?
「死ぬような目に遭おうとしないでください」
しないよ!? なんで私から死地に突っ込む気満々なの!?
リオネッタは心配し過ぎなんだよ。