1176話、エリオット、弟が一途過ぎて眩しい
SIDE:エリオット
正直な話を言えば、弟は婚約者を放っておいて自分の趣味である諸国巡りをしているのではないか、と疑っていた。
なので、戻ってきたら苦言を呈して窘めてやるか、と思っていたんだ。
ロゼッタ嬢も平気そうな顔はしているがここ数年リオネルが戻ってくるのを待ち望んでいたからな。
市勢も二人は破局するのかもしれない、とか根も葉もない噂話を流していたりしていたし、ここはガツンと怒って婚約者を大切にしろ、と告げるべきか、と思っていたのに……
「……なので、僕はロゼッタが予言の勇者にテイムされないよう、テイム無効化の泉を探して各地のダンジョンを攻略していたのです。本来は人族領のダンジョンを調べ終えれば帰る都合だったのですが、一切見つかることがなく、仕方なく魔族領に向かったためこんなに時間が掛かってしまいました」
まさかのロゼッタ嬢のために行動していたとか、怒るに怒れないのだが。
これどうしたらいい?
ロゼッタ嬢、これは……ああ、ダメだ。久々に弟に出会ったせいで恋する乙女の目になっている。
アレはもうリオネル以外目に入ってないな。
ロゼッタ嬢がポンコツになってしまった。
「戻ってきた、ということは入手できたのか?」
ん? なんだか反応が悪いな。苦虫を嚙み潰したような顔になったな。
これは全てのダンジョンを調べて出てこなかったからあきらめて帰ってきたほうか?
「泉自体は、発見致しました。最後の最後、一番遠方のダンジョンにありまして、把握するまで時間が掛かってしまいました。なんとか四本瓶で入手したので各員に一本ずつ手渡しました。ゼオール、セルドバレーの両名はその場で飲み干しテイム無効スキルを手に入れました。僕はロゼッタのために持ち帰るつもりだったのですが……そこで」
くぅっと言いづらそうに言葉に詰まるリオネル。
何かがあったのか?
「失礼、ここから先は俺、いえ、私が引き継いでも?」
「確か、セルドバレーだったな。いいだろう。告げよ」
「リオネル王子はお嬢……ロゼッタ嬢に泉の水を持ち帰るつもりだったのですが、水を入手した直後、泉が破壊され、手持ちの瓶も割られました」
「割られた?」
「運悪くダンジョンにやってきたイブリムの魔物使いと遭遇。泉は破壊され、瓶を割られ、剣聖ベルゼガリスがテイムされました」
「け、剣聖殿がテイム!? ウソだろ!?」
「残念ながら事実です。おかげで相手のテイム方法は理解しましたが、アレは確かに危険です。目の前で視線を合わせ相手にテイムスキルを発動させるだけで剣聖をテイムしてしまいましたから」
目線を合わせるだけでテイム可能なのか。
確かにそんな危険人物にロゼッタ嬢がテイムされるのは危険すぎるな。
いや、ロゼッタ嬢だけじゃなく我が国の兵士は軒並み危険じゃないか?
「そ、それで、お前たちは無事だったのだな?」
「私めとゼオールはテイム無効スキルを入手していましたので。イブリムの魔物使いはダンジョンボスの魔物娘をテイムしに来たついでに泉の破壊を行ったようです。私が先回りしてダンジョンボスへの攻撃姿勢を見せると慌ててダンジョンボスの元へ向かっていきました。当然、すでに処理済みですので奴らは無駄足でしたがね。そのおかげで我々はダンジョンを無事脱出できました」
な、なるほど、リオネルがテイムされる危険性もあったのか。剣聖殿は残念だったが、リオネルが無事戻ってきてくれただけでも良かったというべきか。
相手の脅威が露わになったことで対策も立てられるだろう。
その相手を見つけ次第兵士たちは下がらせた方がいいだろうな。
「対処は可能か?」
「戦っていないのでわかりませんがレベル的にはまだ数百程度ではないかと、私やゼオールは同レベル帯になるやもしれませんが今の兵士たちは確か9999レベルと聞いております。おそらく瞬殺では?」
「ならば問題はテイムされずに倒せるかどうか、か」
「問題はもう一つ。奴はすでに多くの魔物娘をテイムしていました。憎悪を募らせてはいましたが彼女らはテイムされ命令に従わざるをえないようで、つまり我々が敵対する場合彼女たちが立ちはだかり、後方からテイムをかけ続けられる可能性が高いです」
むぅ、かなり厄介な存在じゃないか。
ライオネルに来ないでくれないだろうか?
無理か? 無理だろうな。
対応できるのはセルドバレーとゼオールか。
「わかった。セルドバレー、ゼオールの両名は早急にパワーレベリングを行い他の兵士たちに追いついてくれ。そのレベル帯でテイム無効であればその男には対処できるだろう?」
「了解いたしました。早急にレベルを上げておきます」
これで、大丈夫だろうか?
下手に兵士たちと顔を合わさせないよう、イブリムの魔物使いが来たらセルドバレーとゼオールを前面に押し出す形で早急に倒すしかないだろうな。
ライオネルの国内に入られると厄介だから砦で潰せれば言うことはないのだが……




