116話・ロゼッタ、想定外だったんだよ
「リオネル様ッ!!?」
正直ここでリオネル様が殺されるとは想定外過ぎた。
まさか執事として一緒に来ていたネムロスとかいう男が裏切ってリオネル様を刺し殺すなんてっ。
ネムロスはにやりとあくどい笑みを浮かべると、私に向き直り、軽く礼をする。
「貴方たち二人にはここで死んでいただきましょう。なぁに、どうせ生き残ってもリオネル王子暗殺の首謀者になるだけですからな。クク、では、オサラバ」
ナイフ片手に襲いかかってきたネムロス。その首に、馬車をぶっ壊して侵入して来たタコ触手が絡みつく。
「がぁッ!?」
そのまま外へと連れ去られてしまった。いや、まぁキーリがやったんだけどね。
敵対存在全て捕縛するようにって伝えておいたんだけど、どうも私達が生きてると暗殺が全て私達の仕業にされそうだし、このままだとガイウスの独り勝ち。それは面白くない。
よくも、リオネル様を……
「キーリ、皆殺しッ」
「おー、ええんかぁ。ふふ、主様大判振る舞いやわぁ。ウチ、猛ってまうわぁ」
これで、暗殺者がガイウスの元に戻ることは無くなるだろう。
邪神の索敵範囲から逃れられる暗殺者がこの場に居るとも思えない。
だから、私はリオネル様の亡骸を前に膝を付く。
「御免なさい、リオネル様……私、守ろうって、暗殺のこと、ずっと前から分かってたのにっ」
助けられなかった。
自分の婚約者を、折角、折角こうして冒険者として紛れ込んだのに……
相手の方が一枚上手だった。
まさか、何年も前からリオネル様の傍付きをして信頼を得ていたなんて……そんなの、ずるい。
「……やっぱり、ロゼッタだった」
「……え?」
痛みに呻きながらも、リオネル様が薄眼を開く。
「生き、てる……?」
あ、れ? 視界が滲んで……
生きてるって安心したら、あ、ちょ、止まんない……
感情が溢れだしてきて嗚咽が漏れる。
大丈夫なのか、死んじゃわないか聞かなきゃいけないのに、涙が、溢れてぇ……
「コレの効き目、凄いね」
力無く笑いながら、リオネル様は首元に手を入れる。そこから取り出されたのは……私が、プレゼントに上げた身代わりのペンタグラム。ただし、粉々に砕けていたけど。
「あぁ、折角ロゼッタに貰ったのに……」
役目を終えたペンタグラムは誇らしげに砕け散っていた。
溢れる感情そのままに、私はリオネル様を抱き締める。
「ろ、ロゼッタ?」
「よかった。よかったよぉっ」
「ちょ、苦しいよロゼッタ」
「あ、ご、ごめんなさいっ」
ちょっときつく抱きしめ過ぎたかしら?
あ、そうだ。一応命を取り留めたとはいえ、刺されたわけだし、エクストラポーション使っちゃおう。
はい、リオネル様、飲んで飲んで。
「ちょ、それ国宝級の、うぐむっ」
これでよし、あ、しまった。リオネル様が生きてたんだし暗殺者たちも……
「キーリ、暗殺者……」
「どしたん? もう全員頂いて貰ったえ?」
リオネル様に肩を貸して外に出てみると、ミイラみたいに萎れた暗殺者……おい、待て。私ら以外全員死んでるじゃないっ!?
「ちょっとキーリ、暗殺者だけって言ったじゃない!?」
「全員暗殺者やってんもん。ウチのせいちゃうよ」
「ぜ、全員!?」
嘘でしょ? まさか護衛全員リオネル様の暗殺者!?
「は、はは。そっか。僕、周り敵だらけだったんだ……」
「リオネル様……」
これ、私の記憶なくてロゼッタだけだったら……リオネル様は誰にも守られることなく暗殺されていたって、こと……そんなの、酷過ぎる。
「あの、これからどうしましょう?」
「さすがに、この状況で挨拶周りなんて無理だよ。ロゼッタ、いや、今はベルンだっけ。悪いんだけど王城に戻る時一緒に来てくれる?」
「一緒に、ですか?」
「うん。父上に今回の挨拶周り失敗を伝えるためにも、自分が切り抜けた理由を伝えないとだし、その場合全員が暗殺者でギルドからの冒険者が守ってくれたって言っても本人が居ないと……」
「仕方ありませんね」
「なんやぁ、結局外殆ど出れんかったなぁ」
「いいわよ。帰ったらお父様が喜ぶわ。あ、でも。リオネル様はこのまま戻るだけだと暗殺の危機は去らないわね。どうしたらいいかしら?」
「なんやったらウチが一度付いてったげよか? 悪意持ちとか調べるくらいならすぐできるえ?」
「そう、か。そうね。じゃあリオネル様の周辺が安全だと分かるまでキーリに出張って貰いましょうか?」
馬車を私が動かし、キーリがリオネル様の護衛に付く。
暗殺者たちは放置だ。
ちょっと、外回りってやつ体験してみたかったんだけどなぁ。
でも、良かった。リオネル様が生きててくれて。
あ、そうだわ。リオネル様に一回限りの防御結界張っとこう。
一回指定なら維持のために魔力使う必要も無いし。
物理と魔法双方ね。これで、よしっ!