1132話、???、その日、世界は震撼した
SIDE:???
それはとある国のとある物語。
ロゼッタ嬢の冒険譚とは別に同じ世界で進行していた一つの英雄譚。
その物語は、すでにクライマックスへと突入していた。
古の祭壇の下、黒き神官服を着た男が両手を広げる。
祭壇には一人の少女が横たえられており、男の手には儀式用のナイフが握られていた。
男は邪悪なる祝詞を唱え、最後の仕上げとナイフを振り上げた。
「さぁ、キーリクライク・プライダルと対を成す我らが邪神ルーガグ・ラスターよ、この贄を持って現界せよ!!」
そして、迷うことなく少女の胸元へ、ナイフを突き立てた。
ガキィっと祭壇に勢いよく突き立つナイフ。
しかし、そこに少女はいなかった。
「うぬぅ?」
「あっぶねぇ。ギリせーっふ」
不意に聞こえた声に、祭壇の下へと視線を向ける。
少女をお姫様抱っこで救出し、今、地面に横たえたソレに向け、誰何した。
「貴様、何者だ!」
それは燃えるほどに赤い髪の青年だった。
武装はほとんどなく、赤いジャケットを着込み、年季の入ったダメージジーンズ。おおよそこの世界の服装からは逸脱した格好で、拳に巻いた帯をぎゅっと握りしめる。
「たとえ世界が違えども、そこに悲劇があるならば、救ってみせようこの腕でっ! 愛と勇気と少しの希望。少女の嘆きが俺を呼ぶ、悪、即、殲滅! 爆熱戦隊、熱きハートのバーニングレッド!」
「え? お、おぅ?」
誰何したものの、相手の圧に思わず押される神官服の男。
しかし、彼が引いていることなどまったく気にせず赤い男が拳を突き上げる。
「ラスター教最高司祭ギルダーバーツ! 貴様の企みはすでに暴かれた! 邪神の復活なんて、絶対にさせないぜ!」
「ふ、くく、はははっ! なるほど、奴らの犬か。だが、残念だったな、生贄が一人増えただけのこと! さぁ、ルーガグ・ラスター様の贄となるがいい!!」
「っ!? なんだ?」
神官の周囲が波打つように波紋が広がる。
空間からゆらり、にじみ出るように黒い粘体が現れた。
「爛れて死ねぃ!」
「ホーリーノヴァ!」
が、生み出された黒い粘体の群れは、その場全てを覆いつくす光により消し飛ばされた。
「なにっ!?」
驚く神官の胸元に、何かが飛翔、貫いた。
「がァ!?」
「この馬鹿レッド! いつも言ってるだろうが、独断専行するんじゃないと!」
「ブルー! リーリル! クエリス!」
「まったく、ブルー、あんたの相方なんでこう勝手にいなくなったと思ったら変なのに絡んでるのよ!」
「クエリスもう慣れた。今回のえむぶいぴー」
少し離れた場所から現れた三人の男女。
水色の髪のどこか冷たい印象を持った男、ブルー。
ピンクの髪に魔女ルックを着崩した魔法使いリーリル。
狩りで仕留めたデスベアの皮を鞣して作った服を着た緑髪のクエリス。
三人はレッドの元に集い、油断なく神官に視線を向ける。
「心臓撃った、もうお前は死ぬ」
「残念だったなギルダーバーツ。貴様の野望もここまでだ」
「ったく、なんでこう毎回ヤバそうな奴の野望潰しまわってんのよこいつらは……」
「ギルダーバーツ! 邪神復活は諦めろ!」
「く、くく、ははは。バーニングレッドだったか、残念なのは貴様らの方だ」
「なに?」
「わかっていないようだから教えてやる。ルーガグ・ラスター様の復活に必要なのは高魔力持ちの人間だ。それもあと一人いればいい。その娘が生贄となれば言うことはない、が、替わりはいるのだよ」
「馬鹿な!? 生贄はこの少女だけだったはず!」
「くく、ははは! お姿を見れぬは非常に残念でございます。しかし、ああ、しかしっ!! 我が体を糧に、甦りください、ルーガグ・ラスター様ァ!!」
「しまった!」
ブルーは気付いて走り出すが、ギルダーバーツを止めることなどできなかった。
その場で自身の心臓へとナイフを突き刺し、穢れし祝詞を唱えあげる。
神官の男は血を吐き散らしながらも、笑みを浮かべて息絶える。
そして……最後に贄が、揃ってしまった。
その日、世界は震撼した。
その日、世界は慟哭した。
はるか昔に封じられし邪神が、長き眠りから目覚める。
祭壇は崩壊し、崩落し、ゆっくりと……その瓦礫の中から巨大な何かが現れる。
「うそ、でしょ……」
「アレは……無理。クエリス勝てない」
「邪神が……復活する」
天高く、それはゆっくりとせり上がる。
「くっ、ブルー、やるしか、俺たちでやるしかねぇ! 世界を守るために、あいつはここで倒さなくちゃ……」
世界を呪いし災厄の邪神。レッドをして、それと戦うことが無謀であると理解させられた。
古文書に曰く、ソレが甦る時、世界は崩壊を迎えるだろう。
世界を滅ぼす邪神が、復活してしま……その時、不思議なことが起こった。
光が、走った。
はるか遠方より、強大な光が走り抜け、邪神の上半身を完膚なきまでに吹き飛ばし、遥か彼方へと消え去った。
邪神だった残骸が盛大に降り注ぐ中、四人の男女は、ただただ茫然と邪神の消失を見守るしかできなかった。
そして……最後に贄が、揃ってしまった。(邪神君)
その日、世界は震撼した。(あんたなんてもん発動しようとしてるんだ!?)
その日、世界は慟哭した。(や、やめろ撃つなぁぁぁっ)




