1107話、ロゼッタ、お久しぶり
本日も商店があるのでキーリは少々不安そうだ。
何しろ昨日は品出しも会計もすべて彼女がこなしたらしいからね。
いくらギルドから派遣された凄腕でもあの人数を捌ききれるかといえば無理だと思う。
なのでキーリが補助することは確定といっていいだろう。
学校の授業は大体落ち着いてきたかな。
変なテンションの先生も鳴りを潜めたし、やらかす生徒もいなくなった。
一年の方にはまだいるようだけど、私が何かする必要はなさそうだし、見回りの兵士たちだけでなんとかなるでしょ。
「ごきげんよう、ロゼッタさん」
「あら、ごきげんようバーデラさん。その後どう?」
「ええ。正式に侯爵の位を継いでバーデラ・クロイツェフ侯爵になったわ。まったく。なぜ私がこんな面倒なことをしないといけないのかしら。寄子回ってきたんだけど、酷いのよ。ウチの学園の生徒たちがほとんど地位を継いで何もわからないまま暴走してたから手直し必要だったし。私も学生なんだけど?」
困ったわ、とため息吐くバーデラさん。
なんというか、絵になるなぁ、さすが侯爵令嬢。
いや、もう令嬢じゃなくて侯爵様になるのか。
なんてこった私より地位が向上しちゃったぞ。これからどう接すればいいんだろう。
あ、そっか。総司令官としてなら地位的にはそこまで違いはないはず。うん、今まで通りでいいかな。
「学校来てよかったの?」
「コボルトさんたちと妹が張り切っていてね。お姉ちゃんは一生に一度の学生生活満喫してきて。こっちは任せろ。ですって」
「妹さん、いらしたんですね」
「ええ、いたのよ、会うのは二度目だったけれど、随分といい子に育っていてくれてよかったわ」
私、把握してないなぁ。
影の人ちゃんと仕事してよね。まったく。
おそらく継承とか関係なくてどうでもいい存在として育てられてたんだろう。
あるいはよそに嫁に出す用の娘さんだったのかもしれない。
あんまり言いたくはないけど、貴族の娘って二通りあるのよね。
一つは高位貴族に嫁入りさせるための貴族令嬢としての能力を持つ娘。
もう一つは知り合いの特殊性癖者に差し出す生贄的な娘。
バーデラさんの妹さんはおそらくこちら側の娘さんだったんだろう。
別に学力は必要なく、礼節もいらず。女としての体さえあればいい。
そのため何の教育もされずにただ侯爵家の娘というラベルのみを手にした娘さんだ。
彼女にとっては家長であるクロイツェフ侯爵がいなくなってくれて幸運だったかもしれないわね。
きっと黒い繋がりの貴族を引き込むか何かするため用に用意した娘さんなんだろう。
願わくばバーデラ侯爵の元でのびのびと成長してもらいたいものである。
「それでね、申し訳ないのだけれど、同じ侯爵として先達であるベルングシュタット侯爵にいくつか質問などしたいのよ。一番面倒な対価なく教えてくれそうなのがベルングシュタット侯爵だけだから」
「一応敵対勢力なんだけど?」
「父は父、私は私よ。利用できるのもはなんでも利用しないと侯爵家の運営とかやってられないのよ。あ、コボルトさん正式にウチで採用していいかしら?」
「いや、助っ人なんだけど!?」
「今彼らに帰られるとウチは潰れるわ。それに侯爵家の現在状況詳しく知ってる彼らを国に戻すのは、ねぇ」
まぁ確かに、クロイツェフ侯爵としては自分とこの経済状況が陛下に筒抜けになるのは避けたいだろう。
父の残した負の遺産とかいろいろ出てきてるだろうし。
ふむ、そういうことなら。
「一応宰相閣下に確認してからになるけど、問題なければそのように。あと黒歴史的なアレの処理に困ってるでしょうから歯茎さんを派遣するんだよ」
「歯茎?」
「ケーニスのおじいちゃん」
あの人年齢不詳だからじいちゃんと呼んでいいかわからないけど、まぁ問題はあるまい。
大体黒塗り資料は彼らアルケーニスに任せてしまえばよいのである。
ウチの資料じゃないから徹底的に調べてもらって隠蔽しちゃえばいいんじゃないかな?
放置してたらそのうち兵士がやってきていろいろ暴いちゃうかもしれないからね。
「正直助かりますわ。父の書斎の隠し扉からわんさか出てきて困ってますのよ。あそこどれだけ隠し扉があるのかしら?」
え、そんな隠し部屋だらけなの!?
ちょっと見てみたいかも。
さすがに家に上がらせてもらうのはダメよね?
「父だけならともかくお兄様がたもいろいろとやらかしていたのよ。こっちは部屋に乱雑に置かれているからどうしたらいいやら。こういう重要書類は乱雑に置かないでほしいですわ」
いろいろと苦労がうかがえるねぇ。
まぁコボルトさんたちは本人が嫌がって無いようなら問題なくクロイツェフの専任さんになってもよかろう。
彼ら結構口も堅いし、彼らから何かしらの情報が洩れることもあるまい。




