1097話、シクエス、同業者として
SIDE:シクエス
「邪魔するぜー」
「邪魔するなら帰ってー」
って、オル君、なんでそのまま帰ろうとするの!?
「って、なんでやねんっ。イェーっ」
「イェーっ」
なぜか店員の一人とハイタッチするオル君。
どうやら今のやり取りはいつもやってることのようだ。
「オル、今日はなんだ? 手伝い?」
「客だよ客。店長か副店長はいる?」
「副店長はいるよ。店長は定期報告会に出てる」
「そっか。んじゃ中入らせてもらうけどいいか?」
「いいんじゃない。フラナガン商店の人いるけど問題なさそうだし」
「なっ!? バレてマース!?」
ラコッティーノはわかりやすい顔だからなぁ。
敵対商店の主要人物とか覚えてるのかもしれないし。
でも、相変わらずこの店の従業員、幼いなぁ。
「ここが居間だよ。僕らの休憩中に過ごす場所だね。少し前まではルインクさんが食事作ってくれてたんだけど、学校に勤めるようになったから今は持ち回りで作ってるんだ」
オル君に付いてカウンター裏のスタッフオンリーと書かれた場所へと入ると、従業員用の休憩室になっていた。
厨房も完備しており、やっぱり幼い女の子たちがせっせと料理を作っている。
おいしそうな匂い、店内に漂ってたのはこれのせいか。
おかげで店に入るといつも妙に小腹がすくのよね。
そんな人のため用にクッキーとかプリンとか売ってるからつい買っちゃうのよ。
商売上手だわこの子達。
「副店長どこだー?」
「クラムサージュさんなら隣の部屋にいるよー」
「サンキュー」
女の子の一人が元気よく答える。
それにオル君が返答して隣の部屋へと向かった。
「おっすおらオル」
「はいはい帰った帰った」
部屋に入るとオレンジの髪のボーイッシュなお姉さんがこちらに手を振ってしっしっとジェスチャーする。
オルくん、各所から煙たがられてない? 大丈夫?
「あら? お客さん?」
「そうだぜ副店長。さすがに酷くね?」
「あんたロゼッタにかぶれて変なことばっかり覚えてるじゃない。いちいち悪ノリするの疲れるのよ。んで? フラナガン商店のご子息まで来て何の用かしら?」
うわ、すごい。なんというかわからないけどすごいのだけは伝わってくる眼光だ。
おそらくラコッティーノにプレッシャーを与えているんだろう。
とうのラコッティーノは気にした風もなくアーハン? と肩をすくめている。
「えーっと、では私から説明しますね。先ほどフラナガン商店に伺ってきたんですけど閑古鳥鳴いてまして、この商店とどこが違うのだろう、と皆で見に来ました」
「あら、そうなの? え、そんなに閑古鳥?」
「はい、とりあえず外観から入りづらい雰囲気で。品揃えはあるのに、なんかその……」
「ああ、もしかして、欲しいと思える商品がなかったんでしょ」
あ、それは確かに思ったかも。
「失礼な。あれだけ商品を揃えているのに欲しい商品がないなんてあるわけないだろう」
わかってないな。とラコッティーノが告げるが、わかってないの君だよ。
副店長さん呆れた顔してるし。
「あの、良ければ理由など、教えてくれませんか?」
「別にこのくらいは商売敵だろうと教えてもいいんだけどさ。敵対店舗に聞くってプライドはないの?」
「いやー、僕は反対したんだけどね。僕を心配する皆がどうしてもというから来たのさ」
いちいちオーバーリアクションしないでほしい。
「はぁ。まぁそこの聖女さんに免じて教えましょ。ズバリ言うなら陳列が失敗ね」
「陳列?」
「ええ。行ったことないけどフラナガン商店は雑多な商品を陳列棚に並べてるだけでしょ? それだといくら商品が多くても欲しいものがどこにあるか、自分の気に入った商品があるのかすらわからないと思うわ」
言われてみれば、フラナガン商店の陳列棚はずらっと並んでるだけでどこに何があるかとかはわからなかったな。
「売れた場所に新しい商品を突っ込んでいるからね。空きを見せない工夫なのさ」
「大失敗も大失敗よ。まず陳列棚は商品を揃える。ペンならペン、紙なら紙。そして用途別にも整理する。文房具や掃除道具を一緒の棚に入れない。似たような商品は同じ場所にまとめておく。それから、自分がこれを売りたいと思う商品を目玉商品として目立つように置く。これだけでもかなり違うわよ」
ど、どうしよう、フラナガン商店言われたこと一つもやれてなかったぞ。
これって陳列最悪、目玉商品無し、外装最悪で店としては最悪の部類なんじゃないかしら?
よくもそんな粗悪な店出して金持ちになれたわね。逆に感心するわラコッティーノのお父さん。
案外三階の食事処とかで儲けているのかも?
「し、しかし、空きができた場合はどうしろというんだい。目玉商品も売れればなくなってしまう」
「新しい目玉商品か同じ目玉商品を入荷すればいいじゃない」
ごもっともだ。




