1095話、シクエス、パクリ疑惑
SIDE:シクエス
「ここさ!」
外出許可を取った私たちは市民街へとやってきていた。
一応貴族側の仕立屋でアルマの神官服は作ってもらうことになったのだけど、ラコッティーノが是非にと念押しして付いてくるので仕方なく彼の父親が経営する店に向かうことになったのである。
なぜか私たちが行くと聞いたことで付いてきたオルトロス兄弟やウルスハも一緒に来ることになった。
初めてくるところらしく、オル君がすごいきょろきょろしている。
「店舗はデカいけどプライダル商店程人いねぇな」
「オーゥ、言ってくれるねオル君。あそこは別格さ。我らが商店は総合店だからねー。あそことは違うのさ」
「総合店だったらむしろさらに集客あったほうがいいんじゃね?」
確かに品揃えに関してはプライダル商店よりも多いはず。
三階建てのここは一階に日用品、二階に服、三階に食事処と別れており、大量の人々の流入を目的としている施設だ。
一階の一部は冒険者用の道具も売っているので人気はある。
人気はあるのだが、なぜかプライダル商店の集客率には遠く及ばない。
というかほとんど人がいない。
あそこはほんと特別だよね。
最近貴族のお客が増えたらしくて貴族専用カウンターまで出来たそうで一層忙しそうにしている。
しかも未だに一時間くらいの列が並んでるからなぁ。
お客の回転速度も上がったはずなのにカウンターで売買する速度より人が次々並んでいく速度の方が早いのだから驚きだ。
並んでいるのに不満すら出てこない、ライオネル名物の行列である。
貴族ですら不満を言わず、変な輩を差し向けたりしないのだからすごい店である。
オーナーさんが侯爵家だからというのも理由かもしれないけれど。
それにしても、このお店ってなんか入り辛くない?
「んー。なんというか、けばけばしい?」
「神々しいと言ってくれ給え」
ふぁさぁっと髪をかき上げ告げるラコッティーノだけど、ここは神々しいというより痛々しい。
これが総合店だと言われるとちょっと入りたくない。
お金持ちしか来なさそう。
「普通の店よりも高級感をが父のモットーでね。こうして店前の装飾にこだわっているのさ」
「な、なんか、この装飾のせいで人間たちが入るのためらってないか?」
だよね、ウルスハさんもそう思うよね。
しかしラコッティーノには意見とすら思われなかったようで、肩をすくめて両手を肩まで上げるとハァーっと溜息を吐く。
「わかってないねー。魔物だからかい。人間はね、宝石と金が大好きなのサ」
確かに貴族程そういう傾向だけども、一般人はこういう店には足を遠のかせてるんじゃ……
ほら、入ろうとした冒険者たちが外装見て引き返していくよ。
「まぁ、なんだ。あの金ぴかな外装は百歩譲っていいけどよ。あの銅像、いや金像はなんだ?」
「パパンの像さ!」
歯がきらりん。
満面の笑みで告げるラコッティーノ。
パパンって、多分父親の像ってことだよね。
なんというか、笑顔で歯をむき出しにしてる金像、ものすごく悪趣味にしか見えない。
しかも下側から魔道具使ってライトアップしてるんだよね。
さすがにこんな店には入りたくないや。
「ご主人殿に言わせれば、葉巻咥えた成金野郎の像とか壊しても問題ないんだよ。とか言われそうだなー」
皆して金像を見上げる。
これ、かなりの高さがあるよね。どれだけお金かけたの。っていうかこれ、純金なの? 地面に土台がめり込んでるよね? 重さのせいかな?
「んー。なんだろう。この像見てるとご主人殿が言ってた砂上の楼閣って言葉を思い出すんだけど」
ウルスハさん、それどういう意味?
「まぁまぁ、とにかく中に入ってくれよ。プライダル商店よりも品揃えは豊富なんだ。きっと気に入るものもあるさ」
「んー、入りたくないけど入らないとダメっぽいね」
アルマが仕方ない、と先頭を歩き出す。
そしてオル君とロス君が続き、ウルスハさんが私に行こうか、と促し歩き出す。
私もあまり行きたくないけど、行かないとまた誘われるんだろうなぁ。
あの人に付きまとわれるのはなんか嫌だし、嫌なことはさっさと済ませておこう。
店内に入ると、そこまで煌びやかな空間ではなかった。
落ち着いた雰囲気と閑散とした店内だったので、商品を見やすく、確かに中に入ってしまえばいい店だと言える。
値段も手ごろか、ケロちゃん商店だったっけ、あそこよりは安い。
向こうも大きな店だけど値段が高いからなぁ。
最近はプライダル商店に押されているのか多少値段下がったけど。
「お、これも売ってるのか、確かに品揃えはかなりいいな」
「わ、可愛い」
ロス君は、何を見てるの? 小さな人形? えっと、すとらっぷこーなー?
へー、財布とかの紐にくっつける人形なのか。
「ってかストラップって確実にウチのパクったよなラコッティーノ」
「ハッハァ。何のことかわからないね」
「まぁ別に気にしちゃねぇけどな。ウチの副店長、パクリにはうるさいぞ。一応報告しとくな」
「え、やめてくれない?」
素で反応したぞ今。
ラコッティーノの雰囲気が一瞬だけ一般人っぽくなった。
よっぽど怖いんだろうな。パクリだとバレること。
「まぁ、でもこの出来なら大丈夫かな。店長の方にも伝えておけばそこまで悪いことにはならないだろ」
「店長さんすごくいいエルフ。僕あの人好きだよ。褒めてくれるし」
えへへっと笑うロス君。その好きは恋愛とかよりも親愛の好きって感情みたいね。
ちょっと安心した。




