1094話、シクエス、あの人苦手です
SIDE:シクエス
「っし、今回はここまで。んじゃ解散だ。ホームルームは端折るぞー」
ルインク先生がさっさと立ち去っていく。
この後先生は学食で皿洗いをするそうだ。
先生、昼食時の臨時職員がメインだったらしいから今年もそっちを兼任しているのだ。
だから昼食時と放課後は学食で仕事をしている。
そのため放課後手前のホームルームはこうやって端折ることが多い。
とはいえ、他のクラスより早めに終わるので皆好き勝手し始める。
ただ、ルインク先生とのお約束で、ホームルームが終って下校時刻になるまでは教室待機をしなければならない。
皆、最初は守る気なかったのだけど、あのパステルさんが律儀に守っているのと、王族がしっかりと守っている姿を見せつけられて、自然誰も放課後のチャイムが鳴るまでは教室からでないようになった。
「しかしよぉ。毎回思うがこの自由時間、無駄だよな。バルクアップに時間を使いたいんだが」
「兄弟君よ、そういいながらマルコ君とザイード君を両腕に抱えて屈伸してるのはバルクアップじゃないのか?」
「ハッこの軽い二人じゃバルクアップにゃならねぇよ。100キロは欲しいな。二人合わせてようやくってくらいだろ」
「視界が上下するから本を読みづらいんだけど」
「趣味が出来ん、さっさと降ろしてくれないか?」
「あんたら二人が一番体重が同じなんだよ」
「おもりを持ってくればよかろうに」
「授業に関係のないもん持ってくんのはなんかなぁ」
「でもお兄ちゃん、この前先生に尋ねたら皆の迷惑にならないなら持ってきていいって言ってたでしょ」
「あ? そんなこたぁ聞いてねぇぞ?」
「あれ? あ、聞いただけだった。あのあと皆で遊びに行ったから話すの忘れてた」
「オイッ!?」
「ごめんごめん。とりあえずおもり持ってくるのはオッケーだって」
「よし、なら俺がおもり扱いされる必要はないな。さっさと降ろせ」
「残念今日は持ってきてねぇんだ。今日まで付き合ってくれや」
それにしても嫌そうな顔こそすれどもわざわざ付き合ってあげているザイードさんとマルコさんはいい人だなぁ。
王族なのに平民であるえっと、弟君? 正式な名前なんだっけ? まぁいいや、ラミネリアのお兄さんと呼んでおこう。
彼は平民であるのに、普通にそのお願いを聞いてくれている。
いくらこの学園では地位に関係なく交友関係を作れるとはいえ、馴れ馴れし過ぎる気はする。
「シーク、今日はどっか行くー?」
「あ、アルマ、えっと……」
今日は別に委員会とかはないし、暇ではあるかな。
最近は私もいろんな人と話す機会ができたし、夜会にも呼ばれるようになった。
夜会に関してはウルスハさんがいろいろ教えてくれたので王族なのにという失態はほとんどない。
つきっきりで教えてくれるうえにフォローまでしてくれるのだ。ウルスハさんには頭が上がらないと思う。
ちなみに、アルマも一緒に夜会にでたりはするんだけど、ライオネル式の夜会はやっぱり知らないようで、彼女もまたウルスハさんにいろいろ教わっていた。
聖女なのに夜会での所作知らないってどうなの? とかウルスハさんに驚かれてたけど、というか、あの人魔物なのになんであんなに詳しいんだろう?
「実は今日は服を買いに行きたいのよね」
「服? 結構買ってると思うけど」
私からすれば三着は多い気がするんだけど、皆はもっとたくさん服を持っているらしい。
あんな高い服を着るくらいなら食費に回した方がいいと思うの。
なのに皆もっと欲しい、まだ足りないっていうから、貴族ってすごくお金をかけるんだなぁと他人事のように思ってしまう。
「あー、いや、今回はライオネル式の神官服といいますか、さすがにアルカエスオロゥの服は目立つしね」
「ああ、そういうこと。じゃあ……」
「服を買うならウチにし給え」
私とアルマが話していると、割り入るようにやってくる男が一人。
顎が二つに割れてお尻みたいになってる彼の名は、ラコッティーノ・フラナガン。
他の人と一風変わった容姿の金髪の青年は、櫛っていうんだっけ? それで髪を整えながら近づいてくる。
「そういえばラコッティーノさんは商人の息子さんだっけ?」
「そうデース。我が家は中級商店だけどね、服装店も持っているのさ。ぜひとも御贔屓にしてほしいねぇ。何しろ聖女様の服だ、話題性にも事欠かないだろうしね」
「あれ、でもラコッティーノさんの店って市民街側よね?」
「HAHAHA。知られていたか、残念」
いちいちオーバーリアクションだなぁ。
頭に手をやって斜め上を向きながら失敗したという感情を体全身で伝えてくるラコッティーノ。
なんとなく、苦手だ。理由はわからないけど、彼に話しかけられるとこう、体が硬直して逃げ出したくなる。
前にアルマに相談してみたんだけど、ただの生理的嫌悪じゃないか、と言われた。
でも、生理的嫌悪ってなんだろう?




