1093話、シクエス、問題児
SIDE:シクエス
「つーわけで、ライオネル王国は弱小国家となり、生きながらえる現代に繋がってるわけだ」
かなりぞんざいな説明で王国史の授業をしているのはルインク先生。
本人食事や掃除の授業しかしねぇ。とか言っていたのに、最近はなぜか全教科彼が受け持つことになっていた。というか私たちのクラス専任にされたらしい。
それというのも問題児たちが多すぎて他の先生では手に負えないらしい。
先生の意識改革は行っているモノの、まだいろいろと不安要素があるようで、先生たちとしても魔王や王族を相手にはさすがに指摘したり窘めたりといったことができないようだ。
ルインク先生だけは普通に接してくるから先生方全会一致でこのクラスのみ全教科ルインク先生が受け持つように、と校長先生直々にお願いされたそうだ。
凄い嫌そうに本人が言っていたのは一か月程前のこと。
今ではなんかもう全教科ルインク先生でよかったと思わざるをえない。
何しろこのメンツ、所々で暴走するのだから。
魔王さんはほぼ寝てるけど、起きたら問題を起こす。
ちょっとでも自分の知識と違うことがあると質問し続けるマルコさん。
授業の途中で飽きた、と自前の機材を組み立て始めるザイードさん。
王国史など矛盾点があると指摘して独自解釈を垂れ流すラコッティーノさん。
たまに隣に話しかけてそのまま普通に声が大きくなっていくマリーセルさんとアグリアさんとコルキスカさん。
ラミネリアのお兄さんも鼾が五月蠅い。
こんな濃いメンツと毎日のように攻防を繰り広げるのが先生の授業風景となる。
並みの先生たちは一か月で諦めた。
正直よく一か月も持ったなぁ。と思うくらい先生たちは頑張っていた。
入れ替わり立ち代わり、先生たちはローテーションを組んでさらに数か月持たせた。
でも、やっぱり無理だった。
すごく悔しそうにしながらも、我々ではまだ力不足でした、とルインク先生に授業を譲っていくこと数教科。今では全授業ルインク先生なので凄く身内感が出てきている。
それにしても、ルインク先生ってホント、タフというか、気にしてないというか、皆が好き勝手し始めると呆れた顔でチョーク投げ飛ばしたりして鎮圧していくのだ。
なにより、パステルさんの鎮圧方法を心得ているだけに他の先生よりも随分と早く暴走を止められる。
「先生殿。そのあたりは王国史としても黒塗りでなのですが、先生殿の見解などはございますか?」
「あん? マルコ、興味があるのはいいがな。ここは調べるのはやめとけ。お前んとこの歴史にも黒塗りくらいあんだろ。あれと一緒だ。要するに当時編纂した歴史書を後世で都合が悪いから書き換えたり処分したりした場所だ。ゆえに暴いてはならない黒歴史。やるなら自己責任でやれよ。陛下にロゼッタ嬢嗾けられても知らんからな」
「そ、そこまで危険なのですか」
「危険かどうかは知らん。俺は死にたくないからこの黒塗り部分は調べたりはしねぇ。それで納得できねぇなら自分で調べろってことだ」
「……りょ、了解しました」
さすがにマルコさんでもライオネルを敵に回しかねない歴史探求はする気はないらしい。
「先生さんよ。そりゃーいいが、なんかついさっきもコールジョーダンいなかったデースか?」
「お、そういやそこ言ってなかったな。ナイスだラコ。実はここに出てくるコールジョーダンと100年前に生存していたと思われるコールジョーダンは別人だと王宮の歴史編纂官たちが結論をだしている。同じ名前なのはおそらく世襲制か竜殺しの称号ではないかと言われてんだ」
「つまり、コールジョーダンは名前じゃなく、英雄に送られる称号みたいなもんデースカ」
「だっつー話だ。そもそも同姓同名が100年の時超えて同じようにドラゴン退治しました、ってのは出来過ぎな話だろ。それなら100年前にドラゴン倒した英雄にちなんで称号として呼ばれるようになった。とした方が筋が通るっていう見解らしい。つっても、100年前の英雄にちなんで名付けた奴が100年後にドラゴン退治したってだけの話かもしれん。ただ、この後も何人かコールジョーダンの話がでてくるんだ。いずれも下級ドラゴンを退治したっていう逸話ばかりだ。称号だと思った方がしっくりくるだろ」
「コールジョーダン家の一族って可能性もあるんじゃないかしら?」
「珍しいなアルマ。お前が質問してくるのか。まぁ確かにそれもあるんだが。今のところ近代までコールジョーダンという家名を持つ貴族はいないんだ。近代に退治されたドラゴンもいないことから、貴族の家名というよりはやはりドラゴンを倒した称号と思った方がいいらしい」
ちなみに、コールジョーダンさんとやらは今のライオネル王国になってからは全く名前が出てこなくなる。前の王国の時にだけ頻繁に名前がでてくるのだ。
でも、王国の黒歴史、かぁ。私も貧民から王女になったわけだし黒歴史の一つになるのだろうか?




