1091話、ロゼッタ、お下品ですわ
なんだ、これ?
私の目の前に、というかライアネリオ君の目の前には、男園島にいる兵士全員が集まり、見事な土下座を披露していた。
ライアネリオ君のように襲われただけのメンバーもいるはずなのに……え、居ないの!?
ライアネリオ君が最下層だった!?
あんたよく耐えてたわね。
「いや、はは、サルガーさんのおかげです。まぁ、捨てられましたけど、はは……」
別にディスろうとしたわけじゃないんだよ?
しかし、なるほどなぁ。サルガーも屑な人だったとはいえ、彼にとっては寄りかかれる唯一の柱だったわけだ。
「しかし、ライアネリオ君が最下層ってことは他の襲われた側の兵士たちもライアネリオ君相手になんというかその、致したの?」
「竜滅姫殿、さすがにその、年頃の女性がそういう下世話な話は……」
今更じゃないかしら?
「えっと、僕が言った方がいいんですかね。竜滅姫さんが来る少し前にその、総当たりでの戦いがありまして、勝った方が負けた方に、そのあれであれなので、それに全部負けまして……」
「言わなくていいから。目からハイライト消えてるんだよ」
そりゃ全員すぐに土下座しにくるわけだ。
その時はきっと盛り上がったんだろうな。
襲われた側も自分より弱いものを見つけて日頃のストレスをぶつけたわけで、結果全員同罪になったわけである。
「ライアネリオ君や、君は多分この屑たちを殺しまわっても誰も文句言わないと思うんだ」
「や、やりませんよ!?」
「無理矢理襲われて最下層扱いされたのに、恨みもないのか、良い人過ぎじゃない? あまり良い人過ぎると搾取されるだけの人生よ?」
「それは、すでに経験済みなので、反論できませんね」
「しかし、話を聞くとさすがに土下座で済ませられる域超えてるわね」
「わかっています。俺たちは、それだけのことをライアにやったって、ここ最近、皆で何度も話し合って、なんとか償えないか、サルガーがいなくなってもライアを支えられないか、ずっと考えてたんです。でも、俺らじゃいい案が思い浮かばなくて、サルガーがいなくなるってわかって、実際にあんな姿見せられて、なんて声かけたらいいのか……」
うすうすは感じていたのか、サルガーが付いていけなくなりつつあったこと。
「罪の償いは大変よ。どれだけ相手のことを思って尽くそうとしても相手にはあなたたちに無理矢理襲われ蔑まれたっていう前科があるからなかなか消えないし、一生その事実は付いて回るわ。何かをすればその事実が顔を出して苦しめようとしてくる。だから本気でライアネリオを支えたいと思うのならば、彼に寄り添い彼の願いを聞きなさい。決してあなたたちの考えで彼ならこのくらい許してくれる、そう思ったり行動したりすることは控えなさい。態度だけでも彼にはストレスになっていくわ」
「あ、あの、僕そんなに皆さんを毛嫌いしてるわけでは……」
「あなたの理性の話じゃないの、無意識のうちにね、あなたは他の男性に恐怖を覚えてる。気づいてないでしょう? サルガー以外の兵士が近づいたときにわずかに身を強張らせているの」
「なっ!? 本当ですか竜滅姫殿!?」
え、あんたたちも気づいてなかったの?
「え、あんなにわかりやすい反応してたのに?」
「ああ……私たちは本当に、どうしようもない屑になっていたのか……」
「ライアは俺たちを受け入れてくれているとばかり……すまない、いや、すまないですますようなことではないのだが……ああ、クソ、こういう時自分の言語のなさが恨めしいっ」
「竜滅姫殿、恥を忍んで、その、教えてほしい。俺たちは、ライアにどう償えばいいのだろうか?」
「ふむ。正直自分で考えろ、と突き放してもいいのだけど、私って頼られるとついつい手伝ってしまうのよね。まぁよくやりすぎるって言われるけど」
「やり過ぎないでください。本気で」
やだなーライアネリオ君、私だってやり過ぎたつもりは毎回ないんだよ?
「そうねぇ、まずライアネリオ君にとってどういう状況が一番嬉しいのかを考えましょうか」
「僕の嬉しい状況、ですか?」
「今まではサルガーが愛を囁いてたからそれに依存していたわけでしょ。でもそれがない今は絶望しかないように思えている。頼りの仲間たちは、今のあなたにとっては頼れる仲間ではなくいつ襲い掛かってくるかわからない危険な敵でしかないわけよ」
「なっ!? 俺らは……いや、そうか、そう、だな……」
何か反論しようとして自分で納得してしまった。
「その、今まで通り好きな相手と好きあえばいいとは思うんですが、僕には、その構わないでほしいかな、と……」
「ふむ。じゃあ、とりあえずライアネリオ君を襲うのは無しの方向で。破った者は浮気撲滅断罪拳で確実に割り砕くことにします」
「え、割り砕くって、何を……」
「侯爵令嬢に言わせないでくださいまし、お下品ですわ」
「急に恥じらい覚えたようにお嬢様言葉使わないでください、なんかちょっと怖気がほぅっ!?」
私がノーモーションで投げたチョークが酷いことを言う兵士の額にスコーンっと突き刺さったのだった。




